伏兵
この話でストックが無くなりました。
なので、次回から2~3日に一回の投稿となります。
話数も1~2話を投稿とします
劉備が下邳県に駐屯してから一月が経とうとしていた。
袁術軍の敗残兵と戦利品を多く手に入れる事が出来た雷薄と陳蘭。二人の勢力は強大になり、関羽張飛の二人を従えている劉備を以てしても討伐を困難にしていた。
思うように物事が上手くいかず劉備はこれからどうするのが良いのか分からず頭を悩ませていた。
そんなある日の夜。
関羽と張飛は城内にある部屋で酒を飲んでいた。
「雷薄と陳蘭の奴等、意外に手強いな」
「流石は袁術軍の一軍の将であった事はあるな。加えて兵の数も多いので、余計に鎮圧が難しくしている」
関羽と張飛は雷薄達を討伐できない事に溜め息を吐いていた。
その後、二人は酒を飲みながら愚痴を零していた。
其処に兵士が入って来た。
「失礼します。陳登様がお会いしたいと参っております」
兵士がそう言うのを聞いて、関羽達は互いの顔を見た。
陳登とは劉備が徐州州牧になった時から親しくしていたが、今は車冑の補佐として彭城に居る筈だと記憶していた。
そんな陳登が夜も更けようという時刻に参った理由が分からず、互いの顔を見る関羽達。
「取り敢えず会ってみるか?」
「そうだな。良し、此処に通せ」
「はっ」
どの様な目的で訪ねて来たのか分からなかったが、取り敢えず兵士に通すように命じる関羽。
兵士は一礼し部屋を後にすると、暫くすると兵士は陳登を連れて部屋に戻って来た。
陳登を連れて来た兵士は一礼し部屋を出て行った。
兵士が部屋を出て行くのを見送ると陳登は関羽達を見る。
「陳登殿。いや、陳将軍。何用で参ったのかな?」
陳登は徐州討伐の功績で伏波将軍の地位を得た。それで将軍と付けて呼んだ張飛。
それを聞いた陳登は笑いつつ手を振る。
「張飛殿。その呼び方はお止め下さい。今まで通り陳登とお呼びを」
「おお、そうか。それは助かる。どうも堅苦しいのは苦手でな」
「して陳登殿。こんな時刻に何用で?」
「実は劉備殿のお耳に入れたき事がありまして参りました。劉備殿は城におられるのですか?」
「いや、兄者は近くの城の修復具合の視察に行っておられる。数日後にはお戻りになる予定だ」
「そうでしたか……」
劉備が城に居ないと聞いてどうしたものかと考える陳登。
そんな考えている陳登に張飛が訝し気に見ていた。
「何だ? 何かあったのか?」
「……いえ、実は先程、車冑将軍にある事を頼まれたのです」
「ある事?」
「それはどの様な事なのだろうか?」
張飛と関羽は陳登が言うある事とは何なのか気になり訊ねた。
「劉備殿を暗殺する為に手を貸せと言われました」
陳登がそう言うのを聞くなり、張飛と関羽は席を立った。
「なんだとっ⁉」
「それは真かっ⁉」
「確かです。劉備殿を宴の名目で城まで来させて、その席で暗殺すると言っていました。私も劉備殿を呼ぶ文を書く様にと頼まれました」
「あの野郎っ、兄者を亡き者にするつもりだなっ」
「恐らく曹操殿の命令だろ。感謝する。陳登殿」
「いえ、急ぎ劉備殿にこの事をお伝えして下さい」
陳登は取り敢えず劉備に伝えて対策を練ろうと述べたが、張飛は反対した。
「兄者の命が掛かっているというのに、そんな呑気な事が出来るかっ」
「しかし、劉備殿の命令も無く兵を動かすのは・・・」
「こんな事、兄者に伝える事はない。兄貴、直ぐに兵を集めようぜっ」
張飛は今にも攻め込もうと意気込むが、陳登が止めた。
「お待ち下さい。車冑も劉備殿を警戒しているので、城には多くの兵がおります。如何に御二人が居ても、その城を攻め落とすのは難しいでしょう」
「じゃあ、どうすれば良いんだっ⁉」
張飛は直ぐにでも車冑の首を取りたいと思い叫ぶ。
陳登もどうするべきか考えていた。
「……そうだ。ならば、城の門を開けさせれば良い。そうすれば、如何に数万の兵が居ようと難なく陥落出来るであろう」
関羽が良い事を思いついたような顔で言うと、張飛は名案とばかりに顔を綻ばせた。
「それは良い案だな。兄貴」
「しかし、どの様な手段で開けさせるのです?」
「曹操軍の旗を使うのだ。許昌を発つときに大量の曹操軍の旗を貰っているのだ。それを使おう。その旗で曹操の使者と偽って城内に入るのだ」
「成程。それは良いですな」
陳登もそれならば良いかと思った。
「では、私は城の中で御二人の援護をいたします」
「御願い申す」
「じゃあ、後でな」
三人はそう言って別れ、準備を行った。
数日後。
関羽と張飛は数千の手勢を持って彭城へと向かった。
関羽達が彭城が見える頃には、後数刻すれば朝日が出そうな時刻であった。
「兄貴。夜襲を掛けるのなら急いだ方が良い」
「ああ、そうだな。手筈通りに行く。抜かるなよ」
「任せろっ」
張飛がそう言って機嫌良さそうに答えるのを聞きながら、関羽は顎髭を撫でつつ城へと向かう。
そして、城の前に着くと関羽が城門近くまで向かった。
「開門! 開門! 曹丞相の使者として火急の様で参った張遼と申す。開門されよ!」
関羽が大声を上げると、城壁に居る兵達がざわつきだした。
少しすると、城郭に誰かがやって来た。
「儂はこの城を預かっている車冑だ。丞相の使いとの事だが、その証拠はあるか⁉」
「旗を見られよ!」
関羽はそう言って自分の後ろに控えている軍勢を指差した。
軍勢は『曹』の字が書かれた旗を掲げていた。
だが、夜なので全く見えなかったのだが。
「・・・・・・承知した。今城門を開ける故、暫し待たれよ」
車冑がそう言うのを聞いて関羽達は喜びの顔が浮かんだが、其処に火矢が放たれた。
狙いは適当なので、兵には当たる事は無かった。
だが、その火の明かりにより関羽達の姿が露わになった。
「やはり、関羽達であったか⁉ 矢を射かけよ! 城に近付かせるな!」
車冑が火矢の明かりで関羽達を見つける事が出来たので、容赦なく矢を射かけさせた。
放たれる矢は関羽達に襲い掛かった。
「な、なんで、俺達が襲ってくると分かったんだ⁈」
「まさかっ⁉」
放たれる矢を叩き落としながらも驚く関羽達。
其処に城郭に縄で縛られた陳登が車冑の側に立たされた。
「はははは、貴様等の企みなど当の昔にお見通しよ。丞相の文で、陳登と通じて攻め込むかもしれぬから注意する様にと書かれていたので、そういう場合も考えて陳登に嘘を伝えたのだ。そして、陳登を見張らせてみれば案の定、陳登がお主達の下を訪ねたのを知ったので、こうして備え、今か今かと来るのを待っていたぞ‼」
車冑がどうして備える事が出来たのか笑いながら教えだした。
ちなみに、車冑に届けられた文は曹昂が曹操にそういう内容で文で送る様に頼んだのだ。
敵の計略に嵌まったと悟った関羽達。
このままでは全滅するので、撤退するしかないと思い関羽は声を上げようとした。その時。
「お、おおおおおっっっ」
ある男が一人で喚声を上げながら城郭に突撃した。
関羽達に比べると、勢いも威力も無い斬撃を見舞った。
「がっ⁉」
「ぐっ⁉」
陳登の周りに居る車冑の護衛を斬り殺した。
そして、男は血で濡れた剣を腰だめに構えて車冑に突撃した。
「うおおおおおっっっ」
「ま、ままま、まて・・・・・・・ぐぶうううっっっ」
男の剣は車冑の背腹を貫いた。
刀身が背中まで突き出て、松明の明かりで光っていた。
口と傷口から大量の血を流し車冑は事切れた。
返り血を全身に浴びた男は身体を震わせていた。
人を殺した事よりも、自分がした事に慄いている様であった。
「糜芳殿。縄を解いて下されっ」
「はっ、ああ、済まない」
名前を呼ばれた男こと糜芳は気を取り戻して、陳登の身体を縛っている縄を剣で切った。
糜芳は彭城国の相に任命されていた関係で車冑が劉備を罠に嵌める事を知った。
そして、糜芳は今後の安泰と劉備への忠義心を秤に掛けて、忠義心を取った。
車冑も陳登には警戒していたが、糜芳の事は文で何も書かれていなかったので特に何の警戒もしていなかった。
「かたじけない。私はこれより、部下を集めて城門を開けさせる。貴殿は?」
「私は・・・・・・劉備様の屋敷に戻り、御婦人方を御守りする」
陳登達は話し合った後、別れた。
まだ、車冑が討たれたと知らない車冑の家来達は関羽達に矢を射かけていた。
なので、城門に対する警戒を忘れていた。
其処に陳登が部下と共に雪崩れ込み、城門を開けさせた。
「おお、城門がっ」
「誰かが助けてくれたようだな。行くぞ。張飛!」
「おうよ!」
関羽と張飛は先頭に立ち、軍勢と共に城内に突入した。
数刻後。
城内の抵抗勢力は直ぐに鎮圧され、至る所に屍の山と血の池を作っていた。
関羽達は安堵しつつ後始末を行った。
少しすると劉備がやって来たが、もう後の祭りだという事を悟った。
直ぐに張飛達を見つけると叱責した。
張飛達も劉備の相談もなく行動したので謝罪した。
一度叱った劉備だが、張飛達が反省するのを見て落ち着きを取り戻していき、これからどうするか話す事にした。