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義理の父である袁術の死に涙を流す曹昂。
一頻り泣いた後、袖で涙を拭った。
「・・・・・・良し。義父の遺体はこちらで葬るが、貴方はどうする?」
袁胤は逆賊袁術に着き従っていたので、首を討っても特に問題は無かった。
とは言え、交流らしい交流もしていないが、一応は親族なので情として見逃しても特に問題は無かった。
其処で曹昂は袁胤に決めさせる事にした。
「・・・・・・陛下の死をご子息に伝えたいので、どうかお見逃しを」
少し考えた袁胤は曹昂に見逃して欲しいと告げて頭を下げた。
それを見た曹昂は傍にいる部下を見て頷いた。
部下は何も言わず、馬を降りて手綱を取り袁胤に渡した。
「馬を上げますので、その足で袁燿殿の下へ。鞍に数日分の食糧が入った袋を積んでおります。水が入っている袋もあるので、揚州まで保つでしょう」
「かたじけないっ」
袁胤は曹昂に礼を述べると、馬に跨り来た道を取って返していった。
袁胤が見えなくなると、曹昂は袁術の側にある箱を手に取った。
箱の蓋を開けて中身を見ると、其処には以前洛陽で見た事があった玉璽が入っていた。
「……こうして、また見る事が出来るとはな」
「子脩様。これから如何なさいますか?」
「……今回は劉備軍の後詰という名目で来たが、最早袁術軍は壊滅しただろうし、合流する事も無いな。我等は東海郡にて拠点を作る」
「えっ、ですが。玉璽はどうするのですか?」
「それは」
曹昂は傍に居る者を見た。
その者は年齢が四十代ぐらいで、短いが顎と口に髭を生やしていた。
鍛えられた身体を持ち、戦場に出た事がある様で纏っている鎧には細かい傷が幾つもあった。
この者の名は徐璆。字を孟玉と言い、徐州広陵郡の太守を務めている者であった。
徐州攻略した際、陳登が大功を立てた恩賞として伏波将軍の職に就いた。
その際、広陵郡の太守の職を徐璆に譲った。
徐璆の父は度遼将軍の職につき有名な人物であった。徐璆もその父の名声に負けない程に博学で清廉潔白の男であった。
曹昂は土地勘がある徐璆に道案内して貰いながら、袁術を探したのであった。
「徐璆殿」
「はっ。何でございましょうか?」
「この玉璽を貴殿に預ける。これを都に届けてくれまいか」
「私がですかっ」
徐璆が驚きつつ訊ねると、曹昂は頷いた。
「ですが、この玉璽は子脩様が手に入れたのでは?」
「これからする事があるから、私の代わりに届けてほしい」
「……承知しました」
徐璆は曹昂がする事とは何なのか分からなかったが、頼まれている以上答えるのが筋だと思い頷いた。
馬に跨り曹昂に一礼すると、許昌へと駆けて行った。
余談だが、何度か休憩を挟みながらも徐璆は許昌に到達し曹操に玉璽を献上した。
手に入れた経緯を聞いた曹操は大いに喜びながらも、徐璆を廷尉に任命した。
徐璆を見送った曹昂は東海郡襄賁県に駐屯し、劉備の動きを探る事にした。
同じ頃の劉備はと言うと。
袁術軍の追撃をしていたが、軍こそ壊滅する事が出来たが、肝心の袁術を取り逃がしてしまった。
加えて、下邳国にて雷薄と陳蘭の二人が袁術軍の敗残兵を取り込んで勢力を拡大させて暴れ回り始めた。
何処に行ったのか分からなくなった袁術を追うよりも、民を守るのが先だと思った劉備は追撃を止めて雷薄討伐を行う事となった。
その際、朱霊と路招の二人に袁術軍は壊滅させたが、下邳国にて暴れる賊の討伐の為に暫し駐屯する旨を曹操に伝えて欲しいと告げた。
二人は特に反対する事なく、護衛の兵と共に劉備の下を離れて行き北上した。