劉備は決断す
袁術が九江郡を強引に突破している頃。
劉備は徐州に到達していた。
徐州刺史で彭城にいる車冑に挨拶した劉備は下邳郡下邳県に駐留した。
袁術の侵攻に備えてという名目で。
劉備が下邳県に駐留し、暫くすると、劉備の下に州境を守る兵が駆けて来た。
「申し上げます! 九江郡を越えた袁術軍が徐州の州境に到達いたしました!」
その報告を聞いた劉備は来たかと思いつつ、詳しく報告を聞く為、その兵に訊ねた。
「して、数は?」
「九江郡に駐留する我が軍と激突し、かなりの損害を出しつつも突破。兵数も詳しくは分かりませんが、恐らく十数万程だと思われます」
「十万は居るか……」
報告を聞いた劉備は考えた。
自軍は五万なので、正面からぶつかれば負ける事が簡単に予想できた。
此処は車冑に使者を送り、兵を借りるかと考えていると、張飛が部屋に駆け込んで来た。
「兄者‼ 袁術が徐州に入ったと今、報告が来たぞっ」
「ああ、もう知っている」
「話が早い。では、俺を先鋒にしてくれ。袁術の野郎を討ち取ってやる‼」
気炎を吐く張飛。
そんなせっかちな義弟を劉備は宥める。
「落ち着け。張飛よ。我が軍は五万だ。袁術軍は十万は居るのだぞ。我が軍は数の上で不利だ。此処は援軍を求めるのが良いだろう」
「何を悠長な事を言ってるんだ! 今から援軍を要請しても援軍が来る前に袁術に逃げられるぜっ」
張飛が拳を振りながら、自分の見解を述べた。
その見解を聞いた劉備は内心で一理あるなと思ったが、数的の不利を補う方法も無いまま攻めるのも愚策だと思った。
そんな所に、関羽が部屋に入って来た。
「張飛。大声を上げ過ぎだ。廊下にまで話の内容が聞こえて来たぞ」
「でもよ。兄貴、袁術が徐州に入ったと言うのに、兄者は車冑に援軍を求めるつもりなんだぜ」
関羽が窘めると、張飛が声を挙げた理由を述べた。
「なにっ、本当ですか。兄者?」
「うむ。袁術軍は十万は居ると報告が入ってな。我が軍の二倍は居るのだ。流石に勝つのは難しいと思うのだ」
「いえ、兄者。此処は援軍を要請するよりも、直ちに打って出るべきです」
劉備が援軍を要請するべきだと言うと関羽は首を振り出陣すべきだと力強く述べた。
「なに? 何故だ?」
張飛に比べるとかなり冷静な関羽が張飛みたいな事を言うので劉備はその理由を尋ねた。
「袁術は曹操殿に敗れました。その所為で勢力は衰えました。加えて、逃亡した先では反乱が多発し鎮圧する事が出来ず、こうして袁紹の下に逃げ込もうとしているのです。ですので、十万と号しても、戦う事が出来る兵は五万前後と見るべきだと思います」
「成程。それもそうだな」
関羽の分析を聞いた劉備はその通りかも知れないなと思いだした。
劉備は少しだけ考えると、自分の手を叩いた。
「良し。出陣だ! 偽帝袁術を討ち取るぞ!」
劉備が出陣する事を決めると、関羽達は歓声を上げて準備に取り掛かった。
と同時に軍を率いる朱霊達も準備に取り掛かった。
その準備の最中、朱霊と路招の下に使者がやって来た。
「丞相からの文です」
使者はそう言って二人に文を渡した後、その場を後にした。
文を読み終えた二人は直ぐにその文を破り捨てた。
その後で、出陣の準備を再開した。
数刻後。
劉備は率いて来た軍全てを率いて出陣した。
同時刻。
曹操が居る許昌に一通の文が届いた。
曹操はその文を広げ読むなり、意外そうな顔をしていた。
「・・・・・・何だ。あやつは揚州に居たのか」
曹操は一言そう呟いた後、無言で文を読み続けた。
読み終わると、側にいる荀彧を見た。
「荀彧。近い内に私の知人が、帰順した軍勢と共に此方に参るぞ」
「帰順ですか。それは、袁術軍という事ですか?」
「ああ、そうだ。九江郡で戦った袁術軍が、我が軍に敗れ殆どが廬江郡に逃れたが、一部が九江郡で居たそうだが、私の知人が説き伏せて朝廷に帰順させる事に成功したので、その軍勢と共に許昌に来るそうだ」
「それは良いですな。して、その知人は何者ですか?」
「劉馥。字を元穎と言ってな。曹昂の叔父だ」