久しぶりの平穏
許昌に戻って来た劉備は館に引き籠もる様になった。
献帝の命令とは言え、喪に服する事が出来ない事への代わりと思われた。
流石の献帝も自分の我が儘で劉備が喪に服する事が出来なかったので、偶に呼び出して近況を報告するぐらいであった。
献帝に仕え既に曹操に買収されている宦官と女官達の報告でも特に大した話はしていないという事であった。
なので、館に籠もった劉備が何をしているのかと言うと、庭の畑で野菜を作るという許昌に来たばかりの頃と変わりない生活を送っていると報告も上がっていた。
その報告を聞いた曹操は、最早劉備は自分と敵対する事は無いと判断し、警戒を解いた。
だが、曹昂を含めた参謀達は劉備を警戒した方がいいと言い続けたのにも関わらず、曹操はもう劉備など眼中に無いようで聞き流していた。
「はぁ~、父上にも困ったものだ」
自分の屋敷に戻った曹昂は部屋で茶を飲みながら溜め息を吐いた。
どれだけ言っても聞き入れる様子の無い父に曹昂は困っている様であった。
(各地の有力者達も特に何か変わったという報告も無いし、特にやる事が無いな)
屋敷に戻り特にやる事が無い曹昂。
暇なので妻達の様子でも見に行く事にした。
「まずは、妊娠した者から見た方が良いか。こういうのって、序列に従っていった方が良いよな」
面倒なしがらみではあるが、そうしなければ序列を作った意味が無くなり、もっと面倒な事になると思いそれに従うしかないと思う曹昂。
その序列に従い、まずは劉吉の下に向かう事にした。
曹昂が劉吉の部屋を訪ねると、運が良いのか丁度董白と袁玉達も居た。
「珍しいね。二人が劉吉の部屋に居るなんて」
部屋に入った曹昂は意外そうに呟いた。
「おっ、何か用か?」
「暇だから、様子を見に来たんだ。それにしても」
董白が曹昂を見るなり、何の用か訊ねて来たので曹昂は様子を確認しに来たと告げた後、三人の腹部を見た。
まだ、臨月ではないが、三人のお腹は膨れていた。
(あのお腹の中に子供が……)
前世では子を作る事なく病死した。今世では子が出来ると思うと、嬉しい気持ちが曹昂の胸を支配した。
劉吉の側に寄り腹を撫でた。
「……温かいな」
「そうですか」
腹を撫でる曹昂が呟くと、優しい顔で笑う劉吉。
劉吉の顔を見ていると、男の子でも女の子でもどちらでもいいから生まれてきて欲しいと思う曹昂。
曹昂が劉吉の腹を撫でていると、董白と袁玉の二人が劉吉の腹を撫でている曹昂の手に熱い視線を送っていた。
その視線を感じた曹昂は二人の側に寄り腹を撫でた。
お腹を撫でられた二人は嬉しそうに微笑んだ。
数刻後。
曹昂は劉吉の部屋を後にした。
久しぶりに夫婦らしい事をしたなと思いつつ、曹昂は廊下を歩いていると使用人が駆け寄って来た。
「旦那様。商人が参りました」
「何か言っていた?」
「はい。何でも砂糖黍を持って来たと申しておりました」
「ああ、それか。分かった。受け取って厨房に運んでくれ」
「承知しました」
使用人が一礼し、その場を離れて行った。
「そう言えば、衛大人に頼んで用意してくれた事を忘れていたな。さてと」
曹昂は身体を伸ばした後、厨房へと向かった。