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急報

 嫁を迎えた張飛は劉備が寝起きしている館に離れを作ってもらい、そこで夫婦仲良く暮らしていた。

 年の差はかなりあるのだが、仲良く暮らしている二人。

 館の中庭では夏侯淑姫と張飛が追いかけっこをしている姿があった。

 楽しそうに笑いながら駆けている二人。

 劉備は東屋で二人の様子を眺めていた。

(微笑ましいものだな……)

 曹操が何かしらの考えを持って嫁がせたつもりなのだろうが、夏侯淑姫は聞かされていないのか楽しそうに生活していた。

 年齢が年齢なので、床を共にする事は無いが張飛は不満は無い様であった。

 思っていたよりも可愛い嫁が出来たのが嬉しいようで、床を共にできない事など何の問題も無い様であった。

 二人が仲良く生活をしているのを見ていると、平和だと思ってしまう劉備。

 このまま、何事も起こらないで欲しいと思っていたところで、使用人が劉備の下へ駆けて来た。

「申し上げます。徐州の彭城より文が」

「はて? 何事であろうか?」

 使用人から文を渡された劉備は広げて中身を見た。

 読んでいく内に劉備の顔が強張っていった。

 文を読み終えると、劉備は青い顔をしていた。

「……丞相に会わねば」

 劉備はそう言って、持っている文を持ったまま服の支度をした。

 支度を終えると、劉備は誰も供につけず急いで曹操の下へと駆けて行った。


 劉備が訪ねて来たと聞いた兵から曹操は何かあったか?と思いながら、兵に通すように命じた。

 兵が下がり、少しすると兵に案内された劉備がやって来た。

「突然来た事にお許しを」

「なに、君と私の仲ではないか。気にするでない。それで、今日は何の用かな?」

 曹操は最初暇なので、酒でも飲みに来たのか?と思っていたが、強ばる劉備の顔を見ると、何かあったという顔をしていた。

 なので、その理由を尋ねる曹操。

 劉備はその問いに応える前に、懐から文を出した。

「彭城に居る私の妻が文を送って来たのです」

 詳しい事はこれに書かれているとばかりに、劉備は両手で文を持って曹操に見せた。

 ちなみに、劉備の妻は二人おり、正室の甘夫人。側室の麋夫人の二人であった。

 正室の甘夫人は今は亡き陶謙の紹介で知り合い、側室の麋夫人は家臣の麋竺の紹介で縁を結んだ。

 曹操はその文を受け取り、文を開いた。

 そして、文に書かれている内容を目を通すと、曹操は目を細めた。

『お母上が危篤です。明日をも知れぬ命ゆえ急ぎお越しを』

 文の一文にそう書かているのが目に入った。

(母親が危篤か。成程、彭城に行きたいが、勝手に行けば何か言われると思い私に言いに来たのだな)

 文の内容を見るなり曹操は察した。

 そして、曹操は丁度良いとばかりに一つ劉備を試す事にした。

「皇叔よ。この文を読んだところ、其方の御母堂が危篤だそうだな」

「はい。ですので、早く母上の下に参りたいと思います。ですので、暫くの間、出仕が出来ませんので、そのお許しに参りました」

「……ふむ。そうよな。行って御母堂殿の最期を看取られよ」

「ありがとうございますっ!」

 曹操が行っても良いという許可を与えたので、劉備は頭を下げて礼を述べた。

 そして、曹操の手に持っている文を受け取り急いでその場を後にした。

 劉備を見送った曹操は直ぐに腹心の荀彧達を呼ぶ様に命じた。


「「「劉備を彭城に向かわせたと⁉」」」

 曹操に呼ばれ集まった荀彧、郭嘉、荀攸、程昱、曹昂は曹操の話を聞くなり驚いた声を挙げた。

 特に程昱と荀彧は何と言う事をしたんだという顔をしていた。

「丞相。何故、我等に相談も無くそのような事をしたのです」

「左様です。劉備を彭城に向かわせるなど、虎を野に放つも同然ですよ」

 程昱と荀彧の二人は曹操の行いを非難しだした。

 荀攸と郭嘉も何も言いはしないが、曹操の行いは何の意図があるのか分からない顔をしていた。

「父上。何の目的で、劉備を彭城に向かわせたのです?」

 曹昂も何か考えがあるのだと思い、曹操に訊ねた。

 訊ねられた曹操は荀彧達の反応が予想通りだなと思い笑った。

「ははは、お主らの気持ちも分かる。だが、劉備の才能が優れているのも確かだ。何時までも、敵か味方か分からないままで居るよりも、この際、どちらなのか見極めるのも一つではないか?」

「と申しますと?」

「劉備が母親の葬儀を終えて、許昌に戻ってくれば私の味方。戻らなければ敵にという事にするのだ」

 曹操の言葉に荀彧達は少し考えた。

「しかし、劉備は許昌に戻って来るでしょうか? 何かしら理由をつけて徐州に留まるのと思います」

「既に徐州には車冑を徐州刺史として赴任させている。劉備が何かしら理由をつけて徐州に残ろうとしたら、車冑に命じて捕らえさせればよい。もしそれが失敗しても、兵を送る事が出来るから問題ない」

 曹操が大丈夫だと言うと、荀彧達も反論できなかった。

「しかし、父上。劉備が何処かの勢力と手を結び、その勢力に呼応して独立を果たすという事も考えられます」

 曹昂は可能性の一つとして、こういう事も考えられると例を挙げた。

「何処の勢力と手を結ぶのだ? 袁紹は今劉虞と戦の真っ最中。劉虞も同じだ。袁術は逃亡先で、贅沢三昧でこちらと敵対する素振りすら見せん。孫策と張繍は勢力拡大中で手を結んだところで、何も出来ん。劉表なんぞ未だ反乱を鎮圧できておらん始末だ。そんな者達と手を結んだところで援護なんぞ出来んであろう。残るは馬騰だが、連絡を取る前に劉備を潰せば問題ない」

 曹操は劉備が反旗を翻したとて簡単に対処できると述べた。

「……そうですな。仮に劉備が丞相と敵対したとて今の状況ですと、直ぐに鎮圧できますな」

 荀彧も曹操の話を聞き、状況を考えて対処できるなと判断した。

「そう考えますと、この状況は使えますな」

 程昱も劉備がどちら側なのか、これで分かると思い顎を撫でた。

「一応、兵を出す準備を整えますか?」

 郭嘉がそう言うと、曹操は頷いた。

「ああ、そうだな。それと、車冑に文を送れ。近い内に劉備がそちらに参るが、怪しい動きを見つけ次第、どのような手段を用いても構わんから殺せとな」

「承知しました」

 郭嘉が頭を下げると、曹操は皆に下がる様に手を振る。

 荀彧達が一礼し部屋を出て行くと、曹操は楽しそうに笑った。

(さて、劉備は徐州についたら、どの様な行動をとるかな?)

 英雄と見込んだ男がどんな行動を取るのか曹操は楽しそうにしていた。

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