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有り難き幸せ

 許宮を後にした曹昂は護衛の兵と共に自分の屋敷に帰っていた。

 馬に揺られながら歩いていると、前方から張遼、許褚が向かって来るのが見えた。

 呂布は曹昂の配下に降ったが、その部下達は全員、曹昂の部下になったと言う訳ではなかった。

 侯成、魏続、宋憲といった呂布を裏切った者達は、呂布と対立すると思い、曹操が引き取った。

 ついでとばかりに張遼も引き取られた。

 曹昂も異論は無いのか、曹操の好きにさせていた。残った高順は自分の配下に加えた。

 全員引き取っても、持て余しそうだったから丁度良かったと思っていたので助かると思う曹昂。

「これは若君」

 張遼が曹昂を見つけるなり、一礼する。

 許褚も同じく一礼する。

 曹昂も返礼として、頭を下げた。

 そして、顔を上げると、張遼達の後ろに劉備が居る事に気付いた。

「これは劉皇叔。張遼達と共にどちらへ?」

「いえ、丞相が御呼びとしか聞いておりませんので、何の用で呼ばれたのか分かりません」

 劉備がそう言うのを聞いて、曹昂は張遼達を見た。

 張遼達も何の目的で呼んだのか知らされていない様で首を振った。

「……そうか。まぁ、父上の事だ。暇だから酒でも飲む相手を探していたのだろう」

「そうだと思います」

 曹昂の予測に許褚もそうだろうなと思い頷いた。

「では、早くお連れしないといけないな。足を止めさせて申し訳ない」

 謝る曹昂に劉備は気にしていないのか手を振る。

「いえいえ、お気になさらずに」

「では、皇叔。参りましょう」

 張遼が促すと、劉備は頷いた。

 張遼が曹昂の横を通ろうとしているので、曹昂は通れるように道を譲った。

 劉備達が通ったのを確認すると、曹昂は歩みを再開させた。

 そして、曹昂が屋敷に着くと、暗雲が立ちこめ始めた。

 一雨来るなと思い、馬を厩番に預けると直ぐに屋敷に入って行った。

 曹昂が屋敷に入ると同時に雨が降り始めた。

 運が良いと思ったが、降りが激しくなっていっているので、これは外に出れないなと悟る曹昂。

 丁度良いので、劉吉に天子に会った事を伝えようと思い部屋へと足を運び、話をした。

 当然だが、血詔の件は一言も話さなかった。


 翌日。


 曹昂は曹操に呼び出されたので、丞相府へと向かった。

 丞相府の門を守る兵に曹昂が来たと告げると、兵は直ぐに中へと案内した。

 兵の後に付いて行くと、曹操が部屋に到着した。

「お呼びにより参りました」

「おお、来たか」

 曹昂が挨拶すると、曹操は読んでいた竹簡を丸めた。案内して来た兵に目を向けると、兵は一礼しその場を離れて行った。

「今日は何の御用で?」

「ああ、実はだな」

 曹操は顎髭を撫でたと思ったら、何か考えている様な素振りをしだした。

 勿体ぶるなと思いつつも曹操が言うのを待つ曹昂。

「……劉備の事なのだが」

「劉皇叔が如何なさいました?」

「……昨日一緒に酒を飲んだのだ。その席で当世にて英雄は居るかどうかを話し合ったのだ」

「はぁ、それで?」

「その席で劉備はこれはと言う者の名を挙げたのだが、私は真っ向から否定していったのだ」

「ははは、流石は父上。当世では父上以外の英雄など居ないとおっしゃるので?」

「其処なのだ。息子よ」

 曹操は困った様に息を吐いた。

「正直な話、私は私以外の英雄は一人しか居ないと思っていたのだ」

「それは、誰なのですか?」

「劉備玄徳だ」

 曹操がそう言うと、曹昂は成程なと頷く。

「……父上がそう言うのであれば、そうなのでしょうね」

「ちょっと前までそう思っていたのだが。分からなくなった」

「どういう意味ですか?」

「その席で雨が降って雷が鳴りだしてな。劉備はその音に驚いて卓の中に隠れだしたのだ」

「それが、何か?」

 雷が鳴れば、そういう人が居てもおかしくないのではと思う曹昂。

「英雄たる者。雷如きで怯えるなど有り得ん。そんな劉備を見て、恐れるに足りぬと思っていたのだが、其処に関羽と張飛が流れ込んできたのだ」

「それで、宴は終わったのですか?」

「うむ。お前に聞きたいのは、劉備をこのまま許昌に置いておいて良いものか如何かを相談したくてな」

 曹操は雷に怯える劉備を見て、敵にならないと思ったのか、自分の配下にしようと考えた様だ。

「飼い殺しにするという方針を立てましたので、その方針を貫くべきだと思います」

 曹操がそう言うのを聞いて、部下にするつもりだなと思い、曹昂は最初に立てた方針を変えるべきではないと思い述べた。

「しかしだ。あやつをこのまま許昌に置けば、私に反感を持っている者達と手を組んで良からぬ事をするかも知れぬ」

「その可能性はありますが、劉備を外に出せば、虎を野に放つと同じですよ」

「う~む。………いっその事、劉備を外に出して、私に反感を持っている者達を炙り出すか?」

「危険です。その方法ですと、父上に反感を抱いている者達が動くかどうか分かりません。そうなれば、劉備を野に放ったという後悔だけ残りますよ」

「ふむ。扱いが困るな」

 曹操はどうするべきか考えていると、其処に兵が部屋に入って来た。

「申し上げます。夏候惇様の御親戚の夏候蘭様が面会したいと申しております」

「おお、来たか。通せ」

 曹操は兵に部屋に通すように命じると、兵は一礼し部屋を出て行く。

 暫くすると、兵は二人の男を連れて戻って来た。

 曹昂はこの三人の男には会った事が無いので、誰が誰なのか知らなかった。

「御目通り叶いました事を嬉しく思います。私が夏候惇の従弟になります夏候蘭にございます」

 二人の男の内の一人が名乗り始めた。

 曹昂はその男をジッと見た。

 年齢は三十代後半ぐらいであった。

 整えた口髭を生やし、真面目そうな雰囲気をしていた。

 その雰囲気に似合うように四角い顔で大きな目をしていた。

 そして、曹昂は夏候蘭の後ろに控えている者を見た。

 夏候蘭の後ろに座る者は整えていないボサボサの顎髭を生やしていた。丸い目で大ぶりの顔をしていた。

 その顔に見合うように鍛えられた身体をしていた。

「ご苦労であった。遠い所をわざわざ、それでお主の後ろに控えているのは、誰だ?」

「はっ。元譲の要望に応え、目録に書かれている者達を連れて参りました。後ろに居るのは張燕にございます」

「私は張燕。字を飛燕と申します。以後、お見知り置きを」

 夏候蘭に紹介された張燕は頭を下げて名乗り上げた。

「うむ。張燕と言ったか、素晴らしい豪傑と見た。よく来てくれた」

 曹操はそう言った後、曹昂を見た。

「中々に優秀そうだな。子脩よ。お前はどうする?」

「父上が部下にするつもりであれば、お好きに」

「……いや、お前が頼んだのだ。お前の好きにしろ」

「承知しました。その前に」

 曹操が部下にして良いと言うので、曹昂は礼を述べた後、夏候蘭を見た。

「もう一人の趙雲が居ない様だが、どうしたのかな?」

「はっ。趙雲はあやつの家に赴いたのですが、『まだ、喪が明けていないので仕える事は出来ない。それに、喪が明けても仕えるのは劉虞様と決まっている』と申していましたので、連れてこれませんでした」

「ほぅ、義に篤い男の様だな。会ってみたいものだ」

 話を聞いた曹操は趙雲に興味が湧いたようであった。

「それは残念。まぁ、張燕殿が来ただけでも良しとするか」

 曹昂は残念そうに呟いた後、張燕を見た。

「改めて、私は曹昂。字を子脩と申す者です」

「曹丞相の御子息でございましたか。お初にお目に掛かります」

「どうぞ、其処まで畏まらないで結構」

 暫し、雑談に興じた後、張燕は曹昂の家来になる事になった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 張遼、某作では好きな登場人物の一人なので幕下に加えたかったなぁ(^^;; 後是非助命で再会なった呂布父娘の感動の対面シーンとかも。 次回も楽しみにしています。
[一言] 張遼部下に欲しかったぁぁ
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