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親族の情け

 曹操に反感を抱いている者達について書かれていた目録を見せてから数日後。


 その目録に乗っている人物の一人である董承が献帝と共に功臣閣へと向かったという情報が曹昂の耳に届いた。

 この功臣閣とは、前漢、後漢を含めた漢王朝の歴代の祖宗を祀る為に作られた霊廟であった。

「もう行動したか。早い事で」

「丞相もその報告を聞くなり、功臣閣へと向かいました」

 曹昂に報告した者は曹操も動いた事を話した。

「ふっ、父上も何かあると察したようだな」

 勘が良い事でと思う曹昂。

「子脩様は如何なさいますか?」

「……董承邸に居る『三毒』の者の名は?」

「はっ。秦吐と言います。字は慶童と言います。下僕として仕えております」

「その者に連絡を。董承の部屋を良く探し、もし、何か書いている物があれば、一字一句残さず書き写すようにと」

「承知しました」

 報告した者が一礼しその場を後にすると、一人残った曹昂は考えた。

(この件が発覚すれば、一族は皆殺しになるな。だとしたら、献帝に嫁いでいる董承の娘も……)

 史実では献帝に嫁いでも、他家の者と見なされる事なく処刑された。

 それも、身籠っていてもだ。

 それを考えると、曹昂は思わず、これから生まれる自分の子供の事を考えてしまった。

(……董白と袁玉は良いとして、問題は劉吉か)

 自分の弟が企てた事で生まれて来るかも知れない甥か姪を死なせる事に心を痛める可能性があった。

 それを思うと曹昂もどうしたものかと考えた。

「……一度だけ見逃すか。それでも実行したら、自業自得と思うしかないな」

 そう呟いた曹昂は献帝が思い直す手段を考えた。

 少しすると、秦吐が血詔の写しを曹昂に送って来た。

 と同時に董承と親しい者達が屋敷を訪ねる様になったという報告も入って来た。

 その者達は目録に名が書かれている者達が殆どであった。

 それを聞いた曹昂は拝謁する準備を整えた。


 数刻後。


 曹昂は普段着ている服から、朝議に赴く服に身を通してから、宮中へ向かった。

 宮中に入った曹昂はそのまま献帝が居る御座所へ向かった。

 宦官の案内で一人廊下を歩く曹昂。

 やがて、献帝が居る御座所に着くと、部屋を区切る為に付けられた御簾を退けて部屋に入って行った。

 部屋に入ると、献帝は一人しか居なかった。

 献帝だけなので、曹昂は好都合と思いつつ一礼する。

「臣陳留候曹昂。陛下に拝謁致します」

「面を上げよ」

「はっ」

 下げていた頭を上げる曹昂。

 そして、献帝をジッと見た。良く見ると、指に治療の為か布が巻かれているのを見つけた。

(まだ、十七歳なんだよな。それで皇帝になっても、自分の好きな様に政を行えない事に不満を持っておかしくはないよな)

 衰退しているとは言え、十代で漢王朝の皇帝になれたと言うのに、何もさせて貰えないのならば逆らいたくなるのも無理ないなと思う曹昂。

「義兄上よ。久方ぶりだな」

「はっ。私も陛下にお会いする事が出来て嬉しく思います」

 献帝の姉に当たる万年公主を娶っているので、一応義理の兄という身分である曹昂。

 曹昂の方が歳が六つ上なので、兄と言われても特に問題は無かった。

「姉上に子が出来たと聞いている。嬉しき事よ」

 献帝は姉に子が出来た事を嬉しそうに笑っていた。

(まだ、董承の娘は子供が出来ていないのか)

 てっきり、もう懐妊の兆しが出ていると思っていたので、当てが外れたなと思う曹昂。

 此処は本来訪ねた目的を果たそうと思う事にした。

「今日は陛下にお見せしたき事があり、罷り越しました」

「ほぅ、それはどの様なものか」

 献帝は何かあるなと思いつつ、曹昂が両手で持って掲げた封を受け取り、封を破き中に入っている文を取り出した。

 そして、広げた文を読んでいくのだが、途中から顔を青くしていた。


『朕が聞いた所、先頃の曹操の態度は目に余る。

 朝廷によって行われる賞罰は朝議ではなく、曹操の胸三寸で決められている。

 その恩恵を受けるのは、曹操に連なる者達だけである。

 一日中憂う思いはあるが、朕にはそれに反対する術が無い。

 卿は国に仕える重臣にして、朕に尽くしてくれた忠義の臣である。

 高祖が建国の艱難を思い、朝廷内外の忠義の臣下を結集し奸族を滅ぼし、漢を復興させよ。

 此処に指を切り記す。


 健安三年春詔。』


 その紙にはそう記されていた。

「あ、あにうえ、これは?」

「陛下が指を切って書かれた血詔の写しにございます」

 献帝が顔を青くしながら曹昂に訊ねると、曹昂はすんなりと答えた。

 献帝は唇を動かしはするが言葉が出てこなかった。

 恐怖で歯が震えていた。

「ち、ちんをどうするつもりだ?」

「ご安心を。これは我が父には見せておりません」

「何と⁈」

 曹昂がそう告げるのを聞いて、献帝は驚いていた。

「ですが、もしこの紙に書かれている事を実行するつもりであれば、私は孝の為に、この文を父に見せます。それが嫌だと言うのであれば」

 曹昂は其処まで言って言葉を区切ると。献帝を見た。

「……わ、分かった。董承には中止する様に申す」

「賢明なご判断です」

 曹昂はそう言って献帝が持っている文をスッと取った。

「もし、この文に書かれている事が行われれば、陛下のご側室にも危害が及びます。ですので、こうして父には秘密で参りました。この件は私の胸三寸に納めておきます」

 曹昂はそう言って文を封に戻し、懐に仕舞った。

 そして、献帝に一礼し曹昂はその場を後にした。

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