凱旋
呂布を降した事で、曹操はようやく安堵する事が出来た。
徐州についての諸々の事を一旦は陳登、陳珪の親子に任せて、その後は誰かを州牧にする事にした曹操。
だが、それで一つ思いだした事があり、曹操は荀攸、郭嘉、曹昂の三人を呼んだ。
「お主等を呼んだのは他でもない。この徐州の州牧についてだ」
曹操がそう切り出すのを聞いた荀攸が訊ねた。
「殿の部下の誰かに就かせればいいのでは?」
「しかし、そうなると劉備が何か言わないか?」
「大丈夫でしょう。今のあやつは大した勢力を持っておりません。殿の命令に逆らう事は出来ないでしょう」
荀攸と郭嘉は問題無いと言うと、曹昂は口を出した。
「問題は劉備をどうするかですね。徐州に置くのか、それとも何処かの最前線に送り出すのか」
「う~む。徐州は重要な地。此処を劉備に任せてはおけぬ。じゃが、あやつを目の付かない所におけば、何かしでかしそうで困る」
「では、どうするので?」
曹昂が訊ねると、曹操は暫し考えた。
「……劉備を連れて行く。あやつを許昌で飼い殺しにする」
曹操がそう答えると、曹昂だけは心配そうな顔をしていた。
「大丈夫でしょうか? 調べたところ、劉備は本当に皇族の末裔です。それを知った献帝が何かするかも知れませんよ」
「ほぅ、本当に皇族の末裔なのか」
劉備が自称しているだけで、実際は違うのではと思っていた。
今は亡き曹操の第一夫人であった劉吉も劉姓であったが、別に皇族の末裔という訳ではなかった。
「はい。調べましたところ、故郷の幽州では属尽であった事が分かりました」
属尽には皇族としての資格を失った疎遠な宗族の人々の事を言う。
皇族ではないが、更賦、算賦、雑税の免除等の特権があるので、それなりに優遇はされている。
「ふん。確か中山靖王の末裔とか言っていたな。系譜に乗っていると考えても良いのか?」
「恐らくは」
そう答えるの曹昂は前世の記憶でバッチリ乗っている事を知っていた。
「ふむ。連れて行けば、献帝が気になって調べるかもしれんな」
「ですが、目に付かない所には置けぬのでしょう。如何なさいます?」
「……此処は劉備達を許昌に連れて行く事としよう」
曹操は劉備達を連れて行く事に決めた。
「宜しいので?」
「例え、皇族の一員だと分かっても、何の権限も与えられなければ、特に問題なかろう」
「そうですな」
「私は賛成です」
荀攸と郭嘉は劉備を連れて行く事を賛成した。
「……父上が其処まで言うのであれば」
曹昂も賛成すると、曹操は満足そうに頷いた。
「良し。では、劉備を連れて行く事としよう。表向きは恩賞を渡すという名目で」
「その後は死ぬまで許昌に置くのですね」
「そうだ。鳥籠の中に居る鳥の様に。ふはははは!」
面白い事を言ったと思い笑う曹操。
そして、曹操達は許昌への帰還の準備に取り掛かった。
その最中、曹昂は夏候惇の下を訪ねた。
「元譲殿。ご相談があります」
「うん? どうした子脩よ」
曹昂は何事か夏候惇に話し掛けた。
話を聞き終えた夏候惇は「心得た」と言うなり、その場を離れて行った。