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劉備、孫堅と出会う

 曹操達が広宗を攻略している頃。


 荊州南陽郡宛城。

 其処は今、官軍の拠点となっていた。

 六月までその城は黄巾党の趙弘が指揮官となって籠もっていたが、八月頃には落城し趙弘、韓忠といった黄巾党の指揮官を討った。

 それでも残党は孫夏を新しい指揮官に立てて精山という山に籠もって援軍を待った。

 半月に及ぶ防衛戦のお蔭で冀州の曲陽から地公将軍の張宝が三万の大軍を率いて山に入った。

 お蔭で黄巾党の士気は上がり、官軍の士気が下がった。

 更に張宝は用兵の才があるようで、その地に来てからというもの何度も官軍を撃破している。

 今日もその事に付いて軍議が行われていた。

「また失敗だ。これで何度目の攻撃だ⁉」

 朱儁は軍議が行われている部屋の卓を怒りに任せて何度も叩いた。

 ガンガンっと激しく叩くので卓も揺れ壊れそうであった。

「張宝が来てから、我が軍は敗北を重ねてばかりだ。お主等、何か策は無いのか?」

 朱儁は怒りに満ちた声で何か良い意見は無いかと訊ねる。

 しかし、部将達は口を閉ざした。

 張宝が陣取る山に入る為には峡谷を通らなければならない。

 それを知っている張宝は峡谷に防衛線を築き守りを固めて敵を近付かせなかった。

 峡谷の為、大軍で攻める事は出来ず、防備を固めているので、攻めても攻撃はおろか近付く事も出来なかった。

 なので、皆、何の作戦も思いつかずにいた。

「ええい、不甲斐なしっ。我が軍には勇猛な者はおらんというのかっ」

 朱儁は部将達をなじった。

 一頻りなじると、朱儁は椅子に深く凭れた。

「ふぅ~、こういう時、孫堅とあの義勇軍が居ればいいものを……」

 話に出た孫堅は宛城を陥落させた際、孫夏と共に行動しなかった黄巾党の残敵の掃討に当たらせていた。

 指揮下の義勇軍を付けて。

 孫堅達は宛城を攻略させた際、趙弘、韓忠を討った。

 なので、将軍の自分も手柄を立てねばなるまいと思い、孫堅達に残敵の掃討をさせてその間に自分は孫夏を討ち取り功績にしようと考えていた朱儁。

 後少しで山を攻略できるというところで、張宝が援軍に来たので出来なかった。

 だが、直ぐに此処で張宝を討てば戦功第一になると考え山の攻略に掛かったが、未だに攻略の糸口すら掴めていない状況であった。

 このままでは自分の地位が危ういと考える朱儁。

 どうしたものかと頭を悩ませていると。

 部屋に兵士が入って来た。

「申し上げます。只今、黄巾党の残敵の掃討を終えた孫文台様並びに義勇軍の劉玄徳が参りました」

「なにっ、孫堅と劉備が来たとっ」

 兵の報告を聞いた朱儁は諸手を上げて喜んだ。

「はっはっは、良い所に来てくれた。孫堅とあの義勇軍達が来てくれれば、勝利は間違いないだろう」

 喜びのあまり笑う朱儁。

「良し、直ぐにお通ししろ。丁重にな。ああ、それから義勇軍の将の劉備も連れて来るのだ」

「はっ」

「それと、酒と肉を大量に用意しろ。それを義勇軍と孫堅の軍に与えるのだ」

「はっ。直ちに」

 朱儁の命令に従い兵は丁重に孫堅軍と義勇軍を城内に入れて、酒と肉をたんまりと与えた。

 城内に入った張飛は酒と肉を見るなり目の色を変えて、今にも手を付けたいのかしきりに見ていた。

 関羽は今までの自分達の対応から明らかに違うので、これは何か有るなと感じていた。

 劉備も何かあると感じていたが、孫堅と共に軍議の場に来るように言われていたので、後のことは関羽に任せて軍議の場に行った。

「やぁ、孫堅。君の活躍は私の耳にまで聞こえて来たぞ」

 朱儁は孫堅の両手を取って労うように振る。

「ありがとうございます。残敵の掃討も一段落しましたので、朱儁殿のお手伝いにまいりました」

「おお、そうか。いや、よく来てくれた。丁度、君にピッタリな仕事がある。それを行ってくれ」

「畏まりました」

「劉備殿」

「は、はいっ」

 孫堅の手を離すと、今度は劉備に声を掛ける朱儁。

 話し掛けられないだろうなと思っていたところに声を掛けられたので、驚く劉備。

「ははは、貴殿も数々の戦で功績を立てた歴戦の将と言っても良い一廉の武人。どうか、そのお力をお貸し頂きたい」

「はっ。私でよろしければ」

 劉備は朱儁の力になると言う言質を取ったので笑みを浮かべる朱儁。

「そうかっ、ありがたい事だ。では、今からお主達に任せる所の説明をする。席に着いて聞きたまえ」

「はっ」

 劉備は朱儁が手で示した椅子に座り、その隣に孫堅が座った。

 二人が座ったのを見て朱儁は説明を始めた。


 翌日。


 官軍は宛城を出発した。先方は孫堅軍三千と義勇軍千。其処に朱儁の兵五千を加えて総勢九千。

 後詰として朱儁率いる官軍二万も続いた。

 自分達の後ろに整然と並ぶ旗を見て劉備は溜め息を吐いた。

「玄徳殿。どうされた?」

 隣に居た孫堅は劉備が何で溜め息を吐いたのか気になり訊ねる。

 黄巾党の残敵を掃討する任務を共にしていたお蔭と、年もさほど離れていなかったので、二人は仲良くなる事が出来た。

「いえ、私は義勇軍の将となったものの、借りた兵とは言えこれ程の大軍を率いるのは初めてでして、少し感慨に耽っていました」

「左様か。だが、お主も天下に名を轟かせている豪傑。一万ぐらいの兵で感慨に耽ってはいかんな」

「そうでしょうか?」

「うむ。悲しいかな。この先も戦乱が無くなるとは思えん。故に、何時の日かお主も数十万の兵を率いる様になるかもしれん。そういう時こそ感慨に耽るものだ」

「はぁ、出来る事ならしてみたいですな」

「その意気だ。お主は孟徳殿と同じく見込みがあるからな。お主であれば私の娘をやっても良いと思うぞ。はっははは」

 孫堅は劉備の背中を叩きながら笑う。

 劉備からしたら冗談なのか本気なのか分からなかったが、孫堅が自分の事を気に入っているのは分かった。

 一頻り笑うと孫堅は真面目な顔をする。

「それに此度の戦で勝てば、朱儁殿が貴殿の師を釈放してくれるように取り計らってくれるのだからな。頑張るべきであろう」

 孫堅がそう言うと劉備は頷いた。

 昨日、軍議の席で朱儁が盧植が罪人として捕まったという話しを何処からか聞いて、もし劉備が此度の戦で勝つ事が出来たら盧植を釈放する様に同僚の皇甫嵩と共に取り計らうと言い出した。

 また、官職も用意すると付け加えた。

 劉備は官職よりも師匠の盧植が釈放して貰えると聞いて、今回の戦に参加する意思を固めた。

「無実の師匠を助ける為に戦功を立てようとは見上げた心意気だ。この孫文台も及ばずながら力添え致す」

「ありがとうございます。文台殿」

 孫堅の助力を借りる事が出来たので劉備は気持ちを強く持って前を向いて馬を進ませた。

 目指すは張宝が籠もる精山へ。

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