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下邳陥落

 侯成達が行動している頃。


 氷の城の中に居る曹操達はと言うと。

 陣地の一角が歓声で沸いていた。

 仕切りで区切られた場所の中には、雪を固められて作られた壁が幾つも立っており、二組に分かれた曹操軍の兵達はその壁で身を守りながら雪を丸めた玉を投げ合っていた。

 投げられた雪玉は壁に当たるか外れるかであった。

 歓声を上げながら投げ合う兵達。

 仕切りの外で兵達が雪玉を投げ合うのを曹操と部将達は観戦していた。

「外れているぞっ。もっと、狙ってから投げんかっ」

「あっ、そこ狙われているぞ。・・・・・・あ~あ」

 観戦している武将達は兵達の戦いぶりを見ながら野次を飛ばしていた。

 曹操は黙って今行われている試合を見ていた。

「どうです? 雪合戦は?」

 曹操の隣に居る曹昂が訊ねた。

 長期戦になったので、何か楽しみを与えないといけないと思った曹昂が雪を見て思いつき、曹操に進言した。

 話を聞いた曹操は面白いのか?と思いつつも、娯楽にはなるかと思い許可した。

 そして、今行われていた。

「ふむ。悪くないな。雪玉を投げ合う事で死ぬ事もない。それに娯楽にもなるからな」

「ええ、現在長期戦に陥っておりますので、偶にはこうして気を緩める事が出来る楽しみを持たないと、兵の士気が落ちます」

「そうだな。それに、この雪合戦というのも遊んでいる様に見えて、戦にも応用できるから良いな」

「どういう意味ですか?」

 曹昂からしたら、娯楽目的で開いただけなのだが、曹操はそれだけでは無いと言った。

「雪の壁に身を隠す事で、雪玉に当たらない様にする。これは籠城の時などに敵が放つ矢を如何に受けない様にするかの訓練になる。また、雪玉を投げる訓練も投石の訓練にもなるではないか。最初、面白いのかどうか分からなかったが、中々面白いではないか」

 曹操は一夜酒を飲みながら笑っていた。

(そういう観点もあるか。其処まで考えた事はなかったな)

 言われてみればそうかもなと思う曹昂。

 やがて、雪合戦をしていた兵達の内、片方の組で袖に白い布を巻いた者達が全て雪玉に当たり敗北した。

 相手側の赤い布を袖に巻いた者達は勝利した事に喜んでいた。

「見事だ。赤組の者達。褒美を受け取るが良い」

 曹操がそう言って、側に居る兵に合図を送った。

 その合図を見た兵は手に大きな袋を持って、赤組の者達の下にいく。

「殿からの褒美だ。受け取るが良い」」

 そう言って袋を赤組の者達に渡した。 

 赤組の者達の一人がその袋を受け取り、口を緩めて中を開けると大量の五朱銭が入っていた。

 それを見て赤組の者達は大いに喜んでいた。

 逆に白組の者達は褒美を貰えた事を羨ましそうに見ていた。

「良いのですか? 褒美に金など渡して」

「こうした方がやる気も出るであろう。単に遊ばせるよりも良いだろう」

 成程なと思いながら頷く曹昂。

 其処に外を見張っていた兵が近付いて来た。

「申し上げます。侯成と名乗る者が来て、殿に面会したいと申しております」

「なに⁉」

 兵の報告を聞いた曹操だけではなく、報告が聞こえた曹操の周りに居る者達全員驚いていた。

 

 兵の報告を聞いた曹操は直ぐに通すように命じた。 

 程なく兵の案内で侯成が手綱を付けられた馬を連れて曹操の下までやって来た。

「「「っっっ⁉」」」

 侯成が連れて来た馬を見て、曹操達は言葉を失った。

 何故ならば、侯成が連れて来た馬は呂布の愛馬の赤兎であるからだ。

「本物だよな?」

「間違いない。戦場で何度も見た事がある」

 侯成が連れて来た馬を見た者達は小声で本物かどうか話していた。

 やがて、侯成が曹操の前に来ると両膝を地面につけて頭を下げた。

「侯成と申します。曹司空様に面会する事が出来た事を嬉しく思います」

「うむ。私もお主の名は知っておる。戦場以外で会う事が出来るとは思わなんだぞ」

「はっ。そうでございますな」

 曹操の言葉に侯成も同意した。

「して、何用で参った」

「はっ。お答えいたします前に、一つ訊ねても宜しいでしょうか?」

「何だ?」

 曹操が訊ねると、侯成は後ろを振り返った。

「あの雪を固めた壁の様な物は何をする為に作られたのですか?」

 この場に来た時から気になっていたので訊ねる侯成。

「あれか。あれは雪合戦をする為の壁だ」

「雪合戦?」

 曹操が掻い摘んで何をする為の壁なのか話した。

 その話を聞き終えた侯成の瞳から涙が零れた。

「如何した?」

「……失礼しました。我が軍にはその様な楽しみをする余裕も無い事の哀しさで思わず」

 悔しいというよりも哀しそうな顔をする侯成達。

「……侯成よ。お主、呂布に付いていけなくなったのか?」

「はい。呂布は最早我が主にする事など出来ません。曹司空様のお許しいただけると言うのであれば、家臣の末席に座らせて頂きたいと思います」

 頭を垂れて述べる侯成。

「ふむ。その手土産として呂布の愛馬を連れて来たと?」

「いえ、それだけではなく。私の同僚の魏続と宋憲の二将が呂布を捕らえる手筈を整えております。呂布を捕らえ次第、白旗を振る手筈となっております」

「ふむ。呂布を捕まえるか」

 其処まで行くと、あまりに話が上手すぎると思う曹操。

 敵の策かと疑いだした。

「……侯成よ。お主の言葉を証明する証はあるのか?」

「証ですか。呂布の愛馬だけを連れて来たのは駄目でしょうか?」

「馬だからな、赤兎に似た馬を連れて来ただけかも知れんのでな」

 曹操の言葉を聞いた侯成は疑われていると理解するなり、突如鎧を脱ぎ始めた。

 突然鎧を脱ぎだした事に驚く曹操達。

 そして、衣服を脱ぐと背中に鞭で打たれた跡が生々しく残っていた。

「私の行った事が気に入らないのか、呂布は私を鞭打ちました。これが証にございます」

「うむ。そうか……」

 曹操は侯成の背中に回り込み鞭で打たれた後を見た。

 他の者達は痛々しさに目を背ける中、曹操はジッと見た。

「……良し。では、呂布が捕まるまでの間、お主は我が軍の陣地に居てもらうぞ。もし、嘘であれば」

「喜んで、首を差し上げます」

 侯成が頭を下げるのを見て曹操は頷いた。


 その二日後。

 下邳城の城門は全て開かれていた。

 城壁に居る兵達は白旗を振っていた。

 それを見た曹操は勝利を確信し全軍に突撃命令を出した。

 城内へ突入する曹操軍。

 と同時に魏続と宋憲が侯成配下の兵と自分の配下の兵を率いて呂布軍を攻撃しだした。

 既に呂布は縄で縛り、指揮を取る事も出来ない様にしているので、遠慮する事なく暴れている二将。

 内と外の攻撃と呂布が不在という事で兵達はどうする事も出来ず討たれるか捕まるかのどちらかであった。

 そんな中でも高順と張遼は懸命に指揮を取ったが、程なく捕縛されてしまった。

 陳宮も程なく捕縛された。

 此処に下邳城は陥落した。

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