呂布、再び過ちを犯す
王階は捕まったが許汜は無事に城に戻る事が出来た。
城に戻るなり、呂布の下に向かった。
「おお、戻ったか。うん? 王階はどうした?」
「……城に戻る際に敵に見つかり捕縛されました」
許汜の報告に呂布は難しい顔をした。
「……そうか。して、首尾は?」
「はっ。袁術が申すには、同盟を結ぶのは良いが、その証として赤兎を送るようにとの事です」
「何だとっ‼」
予想外の返答を聞いた呂布は激怒した。
城の周りは完全に包囲されていた。
そんな中で愛馬を送り届けるのは難しい事に加えて、愛馬を送る事に怒っている様であった。
「王階と共に護衛の兵も捕まりましたので、その者達の口から我等が袁術の下を訪ねた事は分かるでしょう。恐らくですが、警備は更に厚くなっていると思います」
「そんな中に、我が愛馬を袁術の下まで送れと言うのか?」
「ですが、そうしなければ我々に生きる道はありません」
許汜は断言すると呂布は考えた。
「……少し時間をくれ」
そう言って呂布は部屋を後にした。
部屋を後にした呂布はそのまま厩舎に向かった。
その厩舎には愛馬の赤兎が居た。
籠城戦と言う事で活躍の場が無く退屈そうな顔をしていた。
だが、呂布が近付いて来るのを見て、赤兎は呂布に顔を寄せる。
「赤兎よ。我が愛馬よ」
赤兎の顔を撫でる呂布。
長年共に戦場を駆けた愛馬を見ていると、今までの苦楽を思い出す。
今迄、色々な者の下を渡り歩き、色々な理由で呂布の下を離れて行った。
そんな中で赤兎だけは自分の下に居てくれた。
それを思うと一層袁術に渡す事を惜しいと思う呂布。
「赤兎よ。赤兎よ。お前は俺から離れたいか?」
呂布は優しく声を掛けた。
すると、赤兎はそれは嫌だと言わんばかりに首を振り嘶いた。
「・・・・・・そうか。お前もそう思うか」
赤兎の返事を聞いた呂布は嬉しそうに顔を緩めた。
(そうだ。袁術に渡せば返って来るかどうかも分からん。今まで、共に戦って来た赤兎を渡す事など断じて出来ん。渡すぐらいならば、死んだ方がましだ)
呂布はそう決めると、袁術に赤兎を渡す事を止める事にした。
翌日。
呂布は許汜に赤兎を送る事を止めにしたと告げた。
それを聞いた許汜は、このまま呂布に付いて行けば我が身は破滅だと悟った。
その日の夜に許汜は僅かな供を連れて城を脱出した。
運良く曹操軍にも劉備軍にも見つかる事無く徐州を脱出した許汜は、荊州に向かい劉表に仕えた。
余談だが、曹操軍と劉備軍は警戒を厳にしたが、呂布が城から出る様子を何時になっても見せなかったので、数日ほどすると警戒を緩める事となった。