失敗しても挽回は出来る
曹操軍の陣地を通り抜けた王階と許汜と護衛の部隊を率いる秦誼達は曹操軍と劉備軍の監視に見つからない様に進んだ。
数十日掛かったが、何とか袁術が居る所に辿り着いた三人。
三人はそのまま袁術に面会できる様に申し込んだ。
其処から、暫くして二人は袁術の御目通りが叶った。
身嗜みを整えた王階達は謁見の間に通された。
玉座に座る袁術に、三人はこの地に参った理由を述べた。
呂布と婚姻同盟を結ぶと聞いた時、袁術は腹が据えかねていた。
今迄、何度も自分の邪魔をしていた者が、掌を返して自分の助けを求めるという厚顔さに憤らない袁術ではなかった。
だが同時に今、呂布と手を結べば曹操に一矢報いる事が出来るのも分かっていた。
(呂布が敗れれば、次に狙われるのは私かも知れんな。此処は手を組むのも有りか)
そう思いはしたが、今までしてやられたのでタダで手を結ぶのは袁術の自尊心が許さなかった。
其処で少し考えた袁術は条件を出した。
「同盟を結ぶのは構わん。だが、朕は呂布の事をまだ信じる事が出来ん」
「何故でしょうか?」
「あやつは息をする様に色々な者達を裏切って来たからだ。同盟を結ぶにしても、まずはその信頼を示す証が必要であろう」
「その証とは?」
「あやつの娘をこの地に送るのだ。そうすれば、朕は軍を率いて呂布を助けてやろう」
袁術が出した条件に王階達は顔を見合わせた。
「それは出来ません」
「我が主の御息女方は曹操との戦いで捕虜にされました」
「何だとっ⁉」
袁術は酷く驚いていた。
これでは対価に出来んなと思ったが、此処は呂布が大切にしている物を対価にしようと思った。
「そうだな。此処は呂布の愛馬の赤兎を渡すのだ。それが朕の下にくれば、援軍を送ろうぞ」
「承知しました」
王階達は取り敢えず呂布に袁術の言葉を伝えて、それから指示に従う事にした。
即日、呂布が籠もる下邳城へと戻る王階達。
数日掛けて、徐州に戻ってきた王階達。
目の前の道には関所があり、曹操軍か劉備軍のどちらかが駐屯している筈であった。
「くっ、此処も封鎖されたか」
「他の道も封鎖されている。どうする?」
「……こうなれば、仕方がない。突破するぞっ」
王階がそう言うと許汜も異論は無いのか頷いた。
「良し。続け!」
許汜がそう叫ぶと同時に馬を駆けさせた。
護衛の兵達もその後に続いた。
駆け出した勢いのまま、関所を突破しようとしたが、そう上手くいかなかった。
「何者か‼ 劉備玄徳が義弟の一人張飛が守る此処を抜けられると思うなっ!」
大音声で自分の存在を告げる張飛。
張飛が居る事に王階達は最悪だと思いながらも駆ける速度を落とす事は無かった。
向かって来る者は突き殺そうと得物を突き出した。
忽ち乱戦となった。
だが、張飛の手により王階は捕縛。護衛の兵の半分は捕まるか討たれた。
その中には護衛の部隊を率いていた秦誼も含まれていた。
その犠牲のお蔭で許汜と残りの護衛の兵達は突破する事が成功し、そのまま呂布が籠もる下邳城に戻る事が成功した。
張飛は捕まえた王階達を拷問し、何をしに城を出たのか自白させた。
その拷問に屈した王階が張飛に自分達が何をしに城を出たのか告げた。
それを聞いた張飛は劉備に報告しに向かった。
「……これは、曹操殿に報告せねばならんな」
張飛の報告を聞いた劉備は共に張飛と関羽を連れて曹操の下に向かった。
劉備達が曹操軍の陣地に入ると、そのまま曹操が居る天幕へと向かった。
曹操は丁度、郭嘉、荀攸、曹昂を交え地図を見ながら今後の対策を練っている所であった。
「おお、玄徳殿。何用で参ったのか?」
「はっ。先程、呂布の軍勢の者を捕まえて、驚くべき情報を告げました」
劉備は張飛の報告をそのまま曹操に報告した。
報告を聞いた曹操は腮を撫でた。
「呂布と袁術が手を結ぶか。さて、どうしたものか……」
曹操が思案していると、曹昂が冷静に述べた。
「父上。其処まで熟慮するべき事ではありません。関所の警戒を厳にして、その赤兎を袁術の下に届けない様にすれば良いだけの事ですよ」
「まぁ、そうだな。取れる手段と言えば、それくらいか」
「それに、もし失敗したとしても、この冬の間は大丈夫でしょう」
「何故そう言い切れる?」
「雪が深く積もれば、人馬の動きも満足に取れません。それに風雪により凍死する者も出てくるでしょう。それでは戦どころではありませんよ」
「ふむ。それもそうだな。私も袁術と同じ立場であれば、約束の物を送られても、のらりくらりと適当な理由を付けて、雪解けまで援軍を送るのを遅らせるな」
袁術とも付き合いが長い曹操は間違いないと断言した。
(なんか、これと似たような事を前にも訊いたな)
曹昂はそんな事を思い出し失笑した。
「ともかく、玄徳殿。警戒を厳にしてくれ」
「承知しました」
曹操の命令に劉備は応えた。
余談だが、捕縛された王階は翌日処刑された。