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敵の策を潰す

 曹操軍が下邳県を包囲して数日が経った。

 下邳県は攻め辛い城の為か、曹操は無理な攻めをせず、兵糧攻めにしつつ相手の動きを待つ事にした。

 

 そんなある日の夜。

 下邳県の城内にある一室。

 その室内で呂布は曹操を撃退する策を練っていた。

「・・・・・・・やはり、このまま籠城が妥当か」

「はい」

 家臣達と話し合った結果、今は籠城するのが良いという意見が多かった。

 そろそろ季節は冬に入る。

 と同時に雪が降るので、その雪により野外に布陣している曹操軍には大打撃を与えられると容易に想像できた。

 風雪による人馬の凍死。雪が降る事で兵糧の運搬に時間が掛かる。環境と長期の戦による兵の士気の低下。

 それらの事情から籠城が良いと皆思い答えた。

「良し。幸い城の倉には数年分の兵糧がある。このまま籠城し、敵が撤退したら城から打って出るという事で良いな」

 呂布が方針を決めると、家臣達は誰も反対せずそのまま話は終わると思われたが。

「お待ち下さい」

 其処に陳宮は待ったを掛けた。

「陳宮。何か意見があるのか?」

「はい。籠城するだけでは、雪が降るまで敵に打撃を与える事ができません。ですので、一つ策がございます」

「ほぅ、この状況でどの様な策があるのだ?」

 呂布がそう訊ねると、陳宮は答える前に呂布の前にある卓に下邳県付近の地図を置いて広げた。

「曹操軍が布陣している所に、呂布殿が城外に出て騎兵を率いて攻撃します。曹操が殿に兵を向ければ、城から兵を送り曹操軍を攻撃します。また、曹操が城に攻撃をすれば、今度は殿が曹操軍の背後を攻撃するのです。さすれば敵はどちらを攻撃するか分からなくなり混乱し、大打撃を与える事が出来ます」

 陳宮が地図の上を指をなぞるように動かしながら説明した。

「これを掎角の勢と申します。この策であれば、敵に致命的な打撃を与える事が出来るでしょう」

「成程。良い手ではあるな」

 呂布としては陳宮が勝手に曹操に矢を放った事を許してはいなかったが、策としては現状から考えて良い策だと思えた。

 呂布は陳宮の策を採用し直ぐに実行に掛かった。


 同じ頃。


 曹操軍の陣営にある天幕の中では軍議が開かれていた。

 曹操軍の武将達だけではなく、劉備も参加していた。

 そんな中で、曹昂は足元に広げた下邳県付近の地図を棒で動かしながら話をしていた。

「以上の事から考えて、敵は掎角の勢を持って、我が軍に打撃を与えると予想します」

 曹昂の説明を聞いた曹操達は唸った。

「確かに、今の呂布達が打てる手は他に無いな」

「敵の策が実行されれば、我等は大打撃を受けるな」

 武将達も敵の策が実行された場合の事を考えて唸っていた。

「それで、子脩よ。そう言うという事は、何か対策はあるのだろうな?」

「この場合でしたら、落とし穴を掘るか。守りを固めて打って出ないのどちらかですね」

「妥当だな」

 曹昂の提案に曹操は頷いた。

「しかし、このまま冬になれば、外に布陣している我等が不利になる。其処は如何なのだ?」

「それについては、今説明いたします」

 曹操の問い掛けに、曹昂は手で天幕の中に居る兵に合図を送った。

 合図を送られた兵は直ぐに曹昂達の足元に広げられている地図を巻き取り、別の地図を広げた。

 その地図は徐州を大まかに描いていた。

「我が軍は下邳県を完全に包囲している事で、呂布軍が逃げ出す事は出来ません。敵の兵糧がどれだけあるか分かりませんが、長期戦になるのは確かです。許昌から兵糧を輸送しますと時間が掛かります。ですので、近くの土地に兵糧、武具の集積場を作ります。其処から輸送する事で時をあまり掛けずに運用する事が出来ます」

「兵糧を溜め込んでいる場所か。其処は何処なのだ?」

「此処と此処と此処になります」

 曹昂は持っている棒で集積場を大まかに示した。

「三つもか。それだけ分散する理由は何だ?」

「敵に知られた場合、焼き払われるかも知れませんので、分散させました。それと分散させると言っても一つの集積場で大量の兵糧と武具を置いておりますので、直ぐに尽きるという事はありませんので御安心を」

「ふむ。長期戦には良いな。だが雪が降れば、寒さで人馬が死ぬであろう。その対策は如何なのだ?」

「それにつきましても対策があります。一つはこれです」

 曹昂は後ろに控えている劉巴に合図を送る。

 劉巴は一礼し天幕から出て行くと、少しするとお盆を持ち兵と共に入っていた。

 お盆にはそこいらにある深い器が二つ乗っていた。

 その一つが曹昂達に渡された。

 器の中に入っているのは白い粒粒とした物が入っており、どろりとした液体が入っていた。

 出来立てなのか、湯気が立っていた。

 匙も一緒に入っているので、これで掬えという事だろうと直ぐに予想できた。

「子脩。これは?」

「まぁ、まずはお食べ下さい」

 曹操が何なのか聞こうとしたら、曹昂は笑顔で食べる様に勧めた。

 そう言われた曹操達は匙を取りその液体を掬い口に運んだ。

「っ、これは」

「甘酸っぱいな」

 口の中にいれると甘み酸味が同じくらいに感じさせて、深い味を出していた。

「砂糖より甘くはないが、くどくないな」

「これはこれで悪くないな」

 武将達は匙で直ぐにその液体を飲んでいく。

「美味いな。これはこれでいけるな。子脩。これは何だ?」

「父上と一緒に作った酒を造る過程で出来た物です。酒醸と名付けました」

 曹昂が言う通り、以前作った九醞春酒法の製法で酒を造った。

 その際に麹を貰う事が出来た。

 その麹を使い蒸した米と共に発酵させて出来たのが、この酒醸であった。

「ほぅ、酒造りの過程で出来たのか。して、これをどうするのだ?」

「これを兵士達に配ります。温める事で暖も取れますし、甘い物を食べられる事で兵も気分転換になるでしょう」

「ふむ。悪くないな」

 曹操は顎を撫でつつ酒醸を味わっていた。

 皆が酒醸を食べ終わると、その器を受け取り兵達は別の器を武将達に渡した。

 こちらの器には湯気が立つ白い液体が並々と入っていた。

 これには匙がついておらず、直接飲めという事であった。

「うん?……これは」

「もしや………」

 武将達はその器に注がれている液体の匂いを嗅いで、覚えがあるのか先程飲んだ酒醸に比べると躊躇する様子なく器に口付けた。

 一口味わうと、皆そのまま喉を鳴らしながらゴクゴクと鳴らしながら、白い液体を飲んでいった。

「……ぷは~、美味いな」

「酒の味がするのに、甘くて味も香りも濃いなっ」

 白い液体を飲み干した武将達は口元を手で拭いながら、今飲んだ液体の味を述べていた。

「これは良いな。普通の酒よりも味も香りも濃い。それでいて、甘いとはな」

 曹操も飲み干した液体の味に耽溺していた。

「これも良いな。子脩。これは何なのだ?」

「これも先程の酒醸と同じく酒を造る過程で出来た物を温めた水に溶かした物です。こちらは一夜酒と名付けました」

 この一夜酒は九醞春酒法の製法で出来た酒粕を水に溶かした物であった。

「これらを飲んで暖を取れば、ある程度の寒さは凌げます。そして、もう一つの方法は」

 曹昂は雪が降った時にする対策を話し出した。

「……いや、それは」

「出来るのですか?」

 曹昂の対策を聞いた皆は難しそうな顔をしていた。

「しかし、これが一番最適だと判断します」

 皆が不安そうな顔をしている中、曹昂は断言した。

「……お前が其処まで言うのであれば、良かろう。やってみるが良い」

「ありがとうございます。父上」

 曹操が許可したので曹昂は礼を述べた。

(これで、後は雪が降るのを待つだけか)

 曹昂は雪が降るのを待った。

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