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ペットを飼いました

 勝利した官軍は勝利の余韻に浸る間もなく、捕虜から黄巾党の教祖張角が何処に居るかの尋問した。

 子供の曹昂には見せる物ではないので見せはしなかったが、尋問が行われていると思われる所から苦痛に満ちた悲鳴が聞こえて来た。

 悲鳴と共に肉を打つ音と肉が焦げる匂いも漂ってきた。

 それで何が行われているのか分かった曹昂は耳を塞いで息を止めて自分用に用意された天幕に飛び込むように入ると、心の中で早く終われと思いながらその場に座り込み目を瞑った。


 それからどれくらいの時間が経ったか分からないが、かなりの時間が経った。

 曹昂がそろそろいいかと思い、耳から手をどけると悲鳴が聞こえなくなった。

(もう終わったかな?)

 そう思い曹昂は天幕を出ると、丁度曹操と出くわした。

「おお、昂。どうした?」

「・・・・・・あの、尋問の結果はどうなったのですか?」

 あれだけの事をして何の成果も無いとなったら骨折り損のくたびれ儲けとしか言えなかった。

 曹操は隠す事は無いと思ったのか話してくれた。

「ああ、死んだ張梁の側近の話では、張角は既に死んでいるそうだ?」

「戦死ですか?」

 本当は病死だと知っているが話の種に訊ねた曹昂。

「いや、病死だそうだ。何でも盧将軍と董将軍が交代する時期に病気に罹り死んだそうだ」

「そうなんですか」

「皇甫将軍はその情報を聞くなり、部隊を張角の墓に向かわせたそうだ。墓を掘り返して首を斬って張梁の首と共に都に送るだろうな」

 この時代の埋葬方法は土葬が一般的であったので首を送る事は容易であった。

「これで戦は終わりでしょうか?」

「まだだな。まだ、荊州の南陽辺りに黄巾党が居るからな。それに尋問して得た情報だが、どうやらそちらには張角の弟の張宝が指揮しているそうだ」

「張宝って確か黄巾党の指導者の一人でしたよね?」

「そうだ。その者を討って初めて戦は終わりとなる」

 曹昂達が居るのは冀州。荊州から数百里離れているが、曹操もそちらに行くのだろうかと思う曹昂。

「父上も荊州に行くのですか?」

「分からん。行くかもしれんし行かないかもしれん。それに荊州には朱将軍と文台殿がおられるから大丈夫だろう」

 孫堅の名前が出たので、曹昂はもう一人の人物の事も思い出した。

(そう言えば劉備って何処に居るのかな? この戦いに参加してないって事は荊州に行ったのか?)

 どんな人なのか会って話をしてみたかったので残念と思う曹昂。

「とりあえず、この冀州の戦は終わったな。息子よ。あの戦車達の成果は如何だ?」

「はい。やっぱり実戦に出したからか問題点が直ぐに分かりました」

 これで何処をどう改良するべきか分かり喜ぶ曹昂。

「はっはっは、私も他の部将達から策が上手くいった事に称賛されるわ、あの勝手に動く戦車を見て驚いて何処で手に入れたのか聞かれたぞ。私の知り合いが作ったと言ったら、皆口を開けた間の抜けた顔をして驚いていたぞ。あの顔、今思い出しても笑えるぞ」

 思い出した事で笑い出す曹操。

「ふふふ、もっと面白いのが。戦いが終わって後始末をしていると兵達があの戦車を見て『神獣様』とか言って祈ったり拝んだりしている者達も居たが、あれを見た時は笑いを堪えるのが大変であったわ」

 苦笑する曹操。 

 自分も最初見た時は神獣がこの地に降臨したのかと思ったのだが、曹昂がどうやって作ったのか知るとそんな思いを抱いた自分が恥ずかしかった。実際乗ってみると疲れるが、これはこれで凄いと思った。

「祈ったり拝んだりしている?」

 曹操の話を聞いた曹昂は顔を引き攣らせた。

 まさか、あんな張りぼてにそんな事をする人が居るとは思わなかったからだ。

 火を吹きはするが、それだけで祈ったり拝んだりするのはどう考えても異常と思う曹昂。

 しかし、そんな得体の知れない物でも凄いと思って祈ったり拝んだりする程、この時代の人は信心深いんだなと思えた。

 だからこそ黄巾党が勢力拡大出来たのは、天変地異で土地が荒れ果てた事と張角という存在を信仰する信心深さがあったからだろう。

「墓を暴く者達が戻り次第、戦勝の祝いが行われるが、それまで自由にしていて良いぞ」

「良いのですか?」

「ああ、ただし護衛は連れて行け。陣を出てもそんなに離れるでないぞ」

「分かりました」

 曹昂は曹操に一礼してその場から離れて行った。


 自由にして良いと言われたので、曹昂は私兵と共に陣の外に出た。

 史渙が任侠時代の手下を選抜した精鋭を十人ほど連れて。

 皆、屈強な肉体に精悍な顔立ちであった。

 曹昂はその者達の一人の馬に乗っていた。曹昂達を乗せた馬を中心に周りを固める様に歩いている。

「う~ん。陣地の外に出ただけなのに、何か空気が美味しく感じるな……」

 曹昂は身体を伸ばしながら呟く。

 独白みたいなものであったが、誰も反応しない上に護衛は周囲に気を配っているので、それに答える余裕が無かった。

 ちょっと寂しいなと思う曹昂。

 曹昂は暇なので空を見上げた。其処は雲一つ無い青空があった。正に蒼穹と言える空であった。

 その空に渡り鳥が争っているのが見えた。

 見上げている曹昂から見てもかなりの大きさであった。

 やがて、その鳥達は少し距離を取るとぶつかった。少しして鳥達はほぼ同時に地面へ落下した。

「あの鳥達が落ちた所に行ってくれるかな」

「はっ」

 曹昂が行こうと言うと、護衛の者達は反対する事無く鳥達が落ちた場所へと向かう。

 

 少し歩くと曹昂達が鳥達が地面に落下した所に着いた。

 其処には二羽の鳥が倒れていた。

 よく見ると二羽とも同じ種の鳥であった。全長四尺(約九十センチ)で全身の羽衣が黒褐色で後頭の羽衣は光沢のある黄色になっていた。

 虹彩は淡橙色。後肢は黄色で、嘴の先端は黒かった。嘴が鋭く尖っていた。

「これは大きな鷲ですな」

 護衛の一人が鳥達に近付く。

「御曹司。一羽はもうくたばっています」

 倒れている鷲の内一羽は護衛が近付いてもピクリとも動かなかった。

 地面に落下する際、当たりどころが悪かったのかそれとも争っている時に傷付けてはいけない所を傷付けてしまったのかは分からないかったが、一羽は死んでいた。

「もう一羽は運が良いようだ。傷だらけですが翼が折れているだけですぜ」

 護衛が言う通り、傷だらけで翼が折れていた。

「ピィワー‼」

 それでも鷲は曹昂達を警戒していた。

 翼を広げようとしたが折れているので上手く広げる事が出来なかった。

「どうします。御曹司」

「そうだね。此処で会ったのも何かの縁だし治療するか。死んだ方は尾羽をむしった後は埋めようか」

「はっ」

 曹昂が命じたまま護衛達は鷲を捕まえて、死んだ鷲の尾羽をむしった。

 尾羽は矢の矢羽根に使えるのでむしったのだ。鳥類は肉食だとまずいと聞いた事があるので、護衛達は地面に埋めた。

 暴れる鷲は布で巻いて動けない様にして両足を紐で縛った。嘴で突っいて来るので袋で口を覆った。

「~~~~~~~~‼」

 それでも鷲は暴れるが護衛達に抑え込まれていた。

「じゃあ、戻るか」

「「「はっ」」」

 曹昂達は陣地へと戻った。

 陣地に戻ると、曹操が曹昂を出迎えたが。

「息子よ。何を拾った?」

「鷲ですね」

 曹昂は内心で多分これは犬鷲だなと思った。

 とは言え、この時代に鷹と鷲の区別など大きさが違うだけであった。

 なので、曹昂は種の名前など知らないだろうと思い鷲と言った。

「大きな鷲だな。どうするんだ?」

「……父上。飼って良いですか」

「我が家には鳥の飼養と調練など出来る者なぞおらんぞ」

「う~ん。まぁ、大丈夫でしょう」

 飼えたら飼うだけだし、逃げたらそれまでということで良いと思う曹昂。

 なので、特に気にしていなかった。

「……好きにしろ。ちゃんと面倒を見るのだぞ」

「はいっ」

 曹操が飼うのを許可したので曹昂は一礼する。

 許可を得たので、曹昂は鷲の籠を作ってもらい、鷲の拘束を解いて籠の中に入れた。

「これからよろしく」

「ポィョー」

 鷲は曹昂を睨みながら鳴いた。

 飼い主と認めていない感じであったが、曹昂は根気よく仲良くしようと思った。

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[気になる点] 曹昂るがそろそろいいかと思い る?
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