情報収集と兵站確保
曹操達が軍議を開いている頃。
曹昂は劉巴と呂範と共に城内の一室で各地に派遣している密偵からの報告を聞いていた。
「そうか。袁紹と劉虞の戦いは未だに決着が付かないか」
「はっ。公孫瓚の一族の者達が公孫瓚の仇を取らんとばかりに、見事な活躍をしているそうです。また、劉虞の人望の厚さも加わり、袁紹も中々打ち破れない様です」
「流石は人望が厚い事で有名な劉虞というところか。袁紹は何か手を打っていないのか?」
「それにつきましては、袁紹は烏桓族と手を組もうとしていたのですが、その烏桓族を纏めている蹋頓の部下達が袁紹の配下になる事を拒む者が多く、説得している最中だそうです」
「それでは、何の為に誼を通じたのか分からないね」
「はい。袁紹も困っている様です」
これでは、まだ勝敗が着くのは先だなと思いつつ、曹昂は報告書に目を通した。
「荊州は南部の反乱がまだ続いているか。思っていたよりも長く続いているな」
「はっ。反乱を起こした張羨は南部の四郡を全て手中に収めたそうです。それにより、劉表配下の武将達も攻め落とす事ができず苦戦しているようです」
その報告を聞きながら意外に張羨と言う者は有能なのか?と思いつつ、報告書に目を通していた。
「荊州と言えば、南陽郡にいる張繍はどうした?」
「それが、南陽郡を完全に手中に治めた後、劉表が南陽郡は荊州の一部なので税を納めろと命じて来たそうです。それに怒った張繍は劉表と決裂し、州境では小競り合いが多発していると現地の者からの報告です」
「う~ん。それなら、何時劉表が攻め込んで来るか分からないから、こちらに攻め込んで来る可能性は低いな。涼州と揚州はどうなっている?」
「涼州は治めている馬騰と韓遂がようやく和解しました。とは言え、争った際に失った兵を補填する為、戦を仕掛ける余裕は無いとの事です。揚州の方は、孫策殿が勢力を拡大し、その内揚州を全て手中に収めるだろうと報告があがっております」
「袁術殿はどうしているのかな?」
「偽帝は逃亡した先で…………その」
「大丈夫。言って良いから」
曹昂の岳父である事を慮り言葉を濁らせていると、曹昂が気にしないとばかりに手を振った。
報告する者の顔から袁術が何をしているのか、何となく察する事が出来た曹昂。
話の続きを促すと、密偵が報告を再開した。
「袁術は逃亡した先でも、贅沢な暮らしをしているそうです。また、戦に負けた事で勢力は激減し、多くの名士、武将が袁術の下を逃げだしているそうです。加えて、贅沢な暮らしをする為に、重税を掛けているので、その土地でも多くの人々が逃げているそうです」
「そうか……」
報告を聞いた曹昂は予想通りと言うか、史実通りなのだと思い溜め息を吐いた。
「…………まぁ、義父に関しては後で何とかすれば良いとして、今は呂布の方が先だ」
「このまま城を包囲し攻めるだけでは?」
今迄黙っていた劉巴が口を開き訊ねて来た。
「そろそろ冬に入るからね。長期戦になると兵糧の運搬が困難になるから、その為の対策を考えておこうと思ってね」
「対策ですか? どの様な事をするのですか?」
劉巴が訊ねると曹昂は近くの卓に広げられている徐州の地図を見た。
「下邳県近くの県か土地に、兵糧と武具、貨幣等の集積場を作る。これで、許昌から輸送するよりも時間が掛からなくなる」
「おお、流石です。殿」
曹昂の提案に劉巴は称賛した。
「それで、問題は何処の場所を集積場にするかなんだよな」
「何処かの県が一番安全だと思いますが」
「いや、県だと輸送する際、兵を護衛に付けないといけないから、その分、県の防備が落ちることになる。そうなると治安などの問題が起こる可能性があるから、何処かの場所に置く様にするべきだと思うんだ」
「そうなりますと、その場所を守備する兵が必要ですな。輸送しても問題な無い程の兵となりますと、一万とは言いませんが少なくとも数千は必要になりますね」
「それを一つではなく、複数必要だから、やはり数万は居るな」
「曹司空様がお許しになるでしょうか?」
「う~ん。其処なんだよな」
曹昂は其処が問題だと言わんばかりに唸った。
呂布が籠もる下邳城は徐州内にある城の中でも屈指の堅城と言えた。
その城を攻めるので、兵は一人でも多く必要であった。
曹昂もそれが分かっているので、曹操に申し出るのを躊躇っていた。
「……此処は我らの兵ではなく、徐州の兵にやらせるのは如何でしょうか? 彼等であれば土地勘もありますから、防備は安心できます」
「それだっ。それでいこう!」
呂範の提案に曹昂は手を叩いた。
「流石は呂範だな。私では思いつかない事を思いつくとは」
「お褒め頂き嬉しく思います」
曹昂が称えると、呂範は嬉しそうに頭を下げた。
話が纏まると、曹昂は陳珪、陳登親子に声を掛けて、長期戦に備え兵糧と武具の集積所を複数作る事と、その場所を徐州の兵で守らせる様にと要請した。
陳親子も攻城戦である以上、長期戦になる事を察したのか、その申し出を受け入れた。