徐州征伐
呂布軍が兵を集めているという情報は直ぐに曹操の耳に届いた。
「良し、ようやく動いたか」
呂布が兵を集めるという報告を聞いた曹操は笑みを浮かべながら、郭嘉を見る。
「郭嘉。我等はどうするべきだと思う?」
「呂布が劉備の籠もる郯県を攻めている間に、陳珪、陳登親子に呂布が拠点としている彭城を奪い取らせましょう。そして、我等は徐州に進軍致すのです。さすれば、呂布は拠点を失い多くの兵が逃げるでしょう。その後は呂布の行動次第で対応を変えましょう」
「それが妥当だな」
郭嘉の進言に曹操は頷いた。
「呂布は既に罠に掛かった虎も同然だ。この機に打ち倒してくれようぞっ」
曹操が徐州に兵を向けるという宣言に家臣達は喚声を挙げた。
「夏候惇。お前に五万の兵を与える。先鋒として私よりも先に徐州に入るのだっ」
「はっ。承知しました」
「残りの者は兵が集まり次第、私と共に進軍するぞっ」
曹操の命に従い、家臣達は戦の準備を始めた。
曹操は許昌の守りを荀彧に任せ、曹昂に此度は共に進軍する為、呼び寄せた。
何時でも兵を送る準備を整えていた曹昂は直ぐに一万の兵と共に許昌へと向かった。
曹昂が許昌に着くと、夏候惇が五万の兵の出撃準備を終えていた。
其処に劉備からの使者が来た。
曹操は直ぐにその使者と面会した。使者は曹操に会うなり懐に仕舞った文を取り出した。
曹操はその文を受け取ると中身に目を通した。
書かれている内容は呂布が攻め込んできた為、援軍を乞うと書かれていた。
「安心せい。我が腹心、夏候惇が副将二名と共に五万の兵が先鋒として今日にでも発つ。私は大軍を率いて徐州に向かうので、劉備にはそれまで城を固く守る様に伝えるのだ」
「おおっ、曹司空様は呂布軍の侵攻をどうやってお知りにっ?」
「ははは、何度も戦を経験している私からすれば、この程度の事など直ぐに分かるわ」
使者の疑問に曹操は笑いながら答えた。
「は、ははぁっ、流石は曹司空様です。では、一刻も早く劉備様に援軍が来る事をお伝えする為、これで失礼いたしますっ」
使者は曹操の言葉を伝える為に許昌を後にした。
使者を見送ると、曹操は夏候惇を呼び寄せた。
呼ばれた夏候惇は部屋に入ると、曹操に一礼する。
「お呼びで」
「来たか。夏候惇。先程、劉備からの使者が来てな。あやつは援軍要請してきたぞ」
「殿が手を組んだように見せ掛けたので、劉備も他に打つ手が無いので援軍を求めたのでしょうな」
「まぁ、その通りだろう」
実際、劉備の下に何人もの間者を送ったが、返事は煮え切らない事ばかり書かれていた。
劉備としては呂布と敵対して、勝っても負けても自分の勢力は大打撃を受ける事が分かっている。
だからと言って、曹操と敵対するのも避けたかった。理由は呂布と同じであった。
その二つの勢力に挟まれている劉備は取り敢えず日和見するしかなかったのだが、其処に呂布が攻め込んで来た。
此処に至っては、呂布との関係は断った方が良いと判断した劉備は曹操に援軍を求めた。
曹操の予想では、劉備が援軍を乞う経緯を何となくだが想像した。
「兎も角、劉備を見殺しにしては、私の信義に係わる故、夏候惇、お主は急いで劉備を助けに行ってくれ」
「承知した。昼夜分かたず駆ける事とする」
曹操の命令に従い、夏候惇は一礼しその場を離れ、兵が居る場所へと向かう。
「これより、我が軍は劉備救援に向かう。全軍、進軍せよっ」
馬に跨った夏候惇がそう号令すると、自分を先頭にして駆け出した。
兵達はその後を全速力で追い駆けた。