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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第一章

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広宗の戦い

 十月某日。


 冀州広宗県。

 その県の城には黄巾党の教祖張角の弟の張梁が五万の兵と共に籠もっていた。

 その城に皇甫嵩率いる二万が城へと向かっていた。

 皇甫嵩が城に見える所まで近付くと、腰に佩いている剣を抜いて掲げる。

「攻撃せよ‼」

 剣を振り下ろすと同時に皇甫嵩が攻撃を命じた。

 その命令に従い麾下の兵達は攻撃した。

 だが、その攻撃は城の近くまで来て弓矢で攻撃しつつ、梯子をまばらに掛けるだけであった。

 攻撃には木慢という移動式の大盾を使っているが、衝車と言った攻城で使われる兵器を使ってはいなかった。

「密偵からの報告で指揮官が変わったと聞いたが、攻撃して来るとはな。面白い。同志達よ。敵の攻撃を防ぐのだっ。敵を城内に入れるでないぞっ」

 張梁が声を挙げて指揮をした。

 人公将軍の張梁が指揮する事で黄巾党の兵達の士気は上がり防戦に力が入った。

 矢と石を放ち、城壁に掛けられてくる梯子を落としたり登って来る官軍の兵達を落としていく。

 官軍の兵達も矢を放ち、城壁の上に居る黄巾党の兵達を撃ち殺すか、梯子を上り相手の振るう武器を避けて持っている武器で殺していった。

 悲鳴と喚声と共に、両軍の兵達は血を流して倒れていく。

「手強いな。此処は一時後退する!」

 皇甫嵩は黄巾党の兵が頑強に抵抗するので後退を指示しだした。

 兵達はその命に従い後退する。

 だが、後退の筈なのに、何故か兵達は武器を捨てて逃げ出していた。

「ひいいい、黄巾党の兵がこんなに強いなんてっ」

「これじゃあ、敵わねえ。逃げろ、皆、逃げろ‼」

 それは後退というよりも敗走と言うのが正しかった。

「ふん。官軍の木っ端共が。指揮官が変わったと聞いたが話にならんな」

「将軍。此処は追撃に出ましょう」

「そうです。此処で完膚なきまでに叩いて、我等と戦う意思を奪うのです!」

 官軍の無様な逃げっぷりを見て張梁の側近達が追撃するべきと訴える。

 此処暫くは官軍と戦っては勝って来たので、攻めれば勝てると思い込んでいる様であった。

「うむ。此処で官軍を撃滅させようぞっ」

 将軍である張梁も同じ思いであった。槍を手に取り城門に向かう。

 其処には今か今かと攻撃の命を待っている黄巾党の兵が居た。

 張梁は馬に跨り槍を掲げた。

「全軍で攻撃する。城門を開けよ!」

 張梁の命に従い、城門が音を立てて開かれて行った。

「厳政‼ 先鋒を務めよっ」

「はっ」

「残りは私に続けっ」

「「「おおおおおおおおおっっっ‼」」」

 黄巾党の兵達は歓声を上げて城の外へと出て行った。


 黄巾党の兵達五万の内四万八千が城を出て、皇甫嵩の軍を追撃していると、ようやく最後尾が目に入った。

「おお、あれは官軍だ。同志達よ。我等に背を向けている敵に攻撃するのだ⁉」

 先鋒の厳政は官軍に攻撃を命じた。

 逃げている官軍の兵達を追い駆ける黄巾党の兵達。

 黄巾党が追い付いて来るのが分かったのか、足を速くする官軍の兵達。

 逃げる速度を上げたのを見て、黄巾党の兵達も速度を上げた。

 最初は陣形が整っていた黄巾党であったのだが、目前で逃げる官軍を追い駆けている内に、徐々に陣形が崩れて行った。

 最終的には陣形など何も無く、ただ敵を追い駆ける様になっていた。

 そして、黄巾党が逃げる官軍を追い駆けている途中で林があった。

 逃げる官軍を追い駆けていたので黄巾党は全く構わなかったが。

「ふふふ、面白い位に陣形が崩れているな」

 林の中から曹操が面白い位に作戦通りいっているので笑みを浮かべながら呟いていた。

 その林には曹操指揮下の一万の兵が潜んでいた。

 曹昂が立てた作戦はこうだ。

 まずは、皇甫嵩が城を攻撃して偽装撤退をして、城内にいる黄巾党の兵達を誘き出す。

 曹操達が潜んでいる林まで誘引して、黄巾党を攻撃する。

 曹操が攻撃している間に、皇甫嵩が兵を纏めて反転して攻撃を仕掛けるという作戦であった。

 今、黄巾党は秩序無く陣形らしい陣形も無く進んでいる。

 其処を攻撃したら面白い位に崩れるのは明白であった。

「御曹司の智謀は脱帽に値しますな」

 傍に居る史渙が曹昂の作戦を称賛した。

「うむ。しかも、これで終わりではないのだからな」

 曹操の中ではこの誘引二面攻撃でも十分だと思った。この攻撃で黄巾党の戦力は低下して士気も下がる。後は包囲して、敵が音を上げるまで兵糧攻めか攻城戦を続けていれば良いと考えていた。

 だが、曹昂の策はそれだけで終わりではなかった。

「我が息子は兵器だけではなく軍略にも天凛の才があるようだ」

「曹家の未来も明るいですな」

「うむ。さて、そろそろ攻撃するとしよう」

 曹操は黄巾党の先鋒が通り過ぎたのを見て、剣を抜いた。

「突撃せよ‼」

 曹操がそう号すると、指揮下の兵達は喊声を上げて林から出た。

 林から出た曹操軍は黄巾党に痛烈な一撃を与える。

 敵は前方だけと思ってた所に横から攻撃を受けた黄巾党の兵達は驚愕して何も出来なかった。

 曹操は攻撃の勢いのまま黄巾党の軍を蹂躙し突破した。その突撃で黄巾党の兵は二つに分断された。

 黄巾党が分断されるのを見た皇甫嵩は。

「今ぞ。全軍、反転、敵を殲滅するのだ‼」

 皇甫嵩は直ぐに軍を反転させて、分断された黄巾党の先鋒に攻撃を仕掛けた。

 黄巾党は二手に分かれており先陣を厳政が一万八千。後軍は張梁が三万率いていた。

 分断された事で数は若干変動しているだろうが、先陣の厳政一万八千の兵に皇甫嵩二万の兵が襲い掛かった。

 忽ち修羅場と化した。

 皇甫嵩は逃げていても陣形は保ったままであったが、厳政は陣形など考えないで、ただ追い駆ける事だけ考えて進んでいた。

 数の差はそれほど無いとは言え、陣形が整っている軍と整っていない軍とではどちらの分が悪いか誰が見ても分かりきっていた。

 黄巾党の兵達は次々に討たれていく。その最中、厳政も討ち取られた。


 厳政が皇甫嵩の軍の攻撃を受けている頃、張梁はと言うと、

「防げ!防げ‼ 敵は一万程度だ。我等は三万だ。数の差では我らが有利だ。押し返して、然る後に先陣を救援するぞ‼」

 張梁は突撃して踵を返した曹操の攻撃を受けていた。

 張梁の言う通り、数の差で言えば張梁達の方に分があった。

 だが、騎兵を中心に構成された曹操軍の機動力に翻弄されて数の優位さを活かしきれていなかった。

 徐々に兵を削られる張梁軍。

 其処に先陣に居たと思われる黄巾党の兵が駆け込んで来た。

「厳政様がお討死にっ。先鋒は最早壊滅状態ですっ」

 その兵は傷だらけで肩には矢が刺さっているので、官軍の兵が黄巾党の兵の服を奪い嘘の情報を教えている訳ではなかった。

 更にその情報を裏付ける様に、前方から皇甫嵩率いる官軍三万が張梁の軍目掛けて進軍していた。

「将軍。このままでは我が軍は壊滅します。城にお戻り下さいっ」

「そうです。城には兵糧が五年分はあります。籠城して敵の士気が落ちるのを待ちましょう」

「おのれぇ、官軍め。この借りは必ず返してやる!」

 側近に撤退する様に進言された張梁は城へ撤退を命じる。

 撤退する黄巾党の兵達を見て曹操と皇甫嵩は追撃を命じた。

 この追撃で三万の兵が二万に減った。


 何とか、官軍の追撃を振り切った張梁達はようやく城まで戻って来た。

 僅か数刻の間に五万の兵が二万にまで減った。

 張梁は悪夢を見ている気分であった。

「開門せよ。私が戻ったぞ!」

 張梁が城門にいる黄巾党の者達に城門を開ける様に命じた。

 しかし、城壁からは何の返事も反応も無かった。

 負けた事で腹が立っていた張梁は怒声を挙げた。

「何をしている。さっさと門を開けぬか‼」

 張梁の怒声を聞いても門は開かなかった。

「将軍。城壁に我らの旗が掛かっていませんが。如何したのでしょうか?」

 共に生き残った側近が城壁の上に掲げられている黄巾党の標語が書かれている旗が無い事に気付き、張梁に訊ねた。

 訊かれた張梁も旗が掛かっていない事に気付いた。

「確かに、何があったのか?」

 訳が分からない状況になっている所に城壁の胸壁から誰かが出て来た。

 その者達は出て来るなり矢を放った。

「ぎゃあああっ」

「な、何故・・・・・・?」

 矢が当たった兵達は訳が分からないまま倒れて行く。

「馬鹿者。我等は味方だっ」

 張梁は矢を防ぎながら城壁にいる者達に怒鳴る。其処で一旦矢が放たれるのが止まった。

 そして、今度は旗が掲げられた。

 その旗には『董』の一字が書かれていた。

「はっははは、張梁。お前には手こずらされたが、此処がお前の死に場所だっ」

 城壁に董卓が姿を見せた。

「お前は、董卓。どうして其処に居るっ」

「ふん。貴様らが逃げる皇甫嵩軍を追撃している隙に我らはこの城を乗っ取っただけの事よ」

 董卓は種明かしとばかりに説明する。

 これも曹昂が立てた作戦だ。皇甫嵩が偽装撤退している間に、迂回した董卓は自軍三万と皇甫嵩の一万を合わせた四万の軍を持って空き家状態の城を攻めて占領したのだ。

「ば、馬鹿なっ……このような事が、あってなるものか……」

 張梁は自分の判断で負けるだけではなく城まで取られるとは思ってもいなかったので、茫然自失となった。

 其処に地面が突然、揺れ出した。

 何事だと思い周りを見る張梁達。

「……あ、あれはっ」

「何だ。ありゃっ⁉」

 周りを見ていた黄巾党の兵達はある物を見て驚きの声を上げた。

 それは曹昂が作った虎と龍の張りぼてを載せた戦車であった。

 とりあえず、それらは仮の名前として虎戦車(仮)と竜戦車(仮)と名付けられた。

 その戦車達が盾を構えた歩兵達と並走していた。

「な、なな、何だ。あれは?」

「とらに、りゅう?」

「う、うごいている。うごいているぞっ」

「う、うしろで、だれかおしているんじゃあないのか?」

「い、いや、みえない。あ、あああのだいしゃをおしているやつら、はみえないぞっ」

 馬に曳かれている訳でも無く後ろから誰かが押している訳でも無いのに動いている虎と龍の物体。

 神獣と言われる獣達が進んでいるのを見て恐怖する黄巾党の兵達。

「皆、落ち着け。あれは作り物だ。何らかの手段で動かしているだけだ。落ち着け‼」

 張梁も初めて見る物に驚きつつも、兵を落ち着かせようと声を張り上げる。

 だが、その努力も次の瞬間には無駄に終わった。

 虎と龍の口から火が吹かれたのだ

「あ、あついいいい、あついいい、だ、だれか、たすけえくれええええ」

「ひ、ひをふきやがった、あ、ああ、あれ、ひをふきやがったっ」

 虎戦車と竜戦車が吹いた火を浴びて火だるまになりながら悲鳴を上げる黄巾党の兵達。

 火だるまになっている者達の火の熱気を感じて、本物の火を吹いている事を悟り黄巾党の兵達は恐慌状態となった。

「ああ……」

「ほ、ほんもの、とらとりゅうだ……」

 火を吹いた虎戦車と竜戦車を見て本物の虎と竜だと勘違いする黄巾党の兵達。

 目の前にいる虎戦車と竜戦車は神獣だと思い込み、そして、その神獣達は自分達蝗を滅ぼす為に来たんだと。

「ば、馬鹿な。天は、我ら黄天ではなく、蒼天を助けるというのか……?」

 張梁は有り得ない事が立て続けに起きた衝撃で、どうすれば良いのか分からなくなった。

 其処に城の城門が開いた。開かれた城門から騎馬隊が出て来た。

「我こそは董卓軍が部将華雄なりっ。張梁、その首、貰った!」

 馬上から一閃。

 狙い違わず華雄の攻撃は張梁の首を切り落とした。

「敵将、張梁はこの華雄が討ち取ったっ……ぬっ?」

 華雄が名乗りを上げていると、殆どの黄巾党の兵達は勝手に武器を捨てて降伏の意を示した。

 一部は捕まりたくないのか、何処かに逃げ出した。

 前方には自分達を滅ぼそうとしている神獣。

 後方は城を占領している董卓軍。

 逃げる事は不可能だと判断し降伏する黄巾党の兵達。

 董卓軍は皇甫嵩軍が来るまでに黄巾党の兵達を捕虜にしていった。

 こうして『広宗の戦い』は終わった。

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