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349/1004

寿春の戦い

 曹操が軍を率いて許昌を出立した頃。


 揚州では大雨が降り注いでた。

 その大雨により河の水嵩が増し、築かれた堰は崩れてしまい河が氾濫した。

 多くの民は逃げたが、逃げ遅れた者達に容赦なく大水が襲い掛かり、跡形も無く飲み込んでいった。

 氾濫した河の水はそれだけではなく、村を襲った。

 城は城内まで水が浸水するところもあり、多くの城は城壁により飲まれる事はなかったが、外にあった畑は容赦なく襲われた。

 袁術が都に定めた寿春も城外は水浸しとなった。

 季節が秋という事で、今年の収穫は絶望的であると皆思った。

 袁術も外を見ながら臣下に訊ねた。

「どうだ。被害状況は?」

「はっ。多くの県は水害に見舞われているそうです。農作物は泥に塗れるか、水で腐るかのどちらかだそうです」

「むぅっ、先の戦の失った兵を補充するどころでは無いな」

 臣下の報告を聞いた袁術は忌々しそうに呟いた。

「陛下。それよりも、今年の冬の為の食糧がありません。如何なさいますか?」

「ふ~む。どうしたものか」

 食糧問題をどう解決しようか考える袁術。

 ただでさえ、都の再建に金を使ったので頭が痛い思いの袁術。

 何か無いかと考えていると、走ってくる足音が聞こえてきた。

「皇帝陛下。一大事にございますっ」

「何事か?」

 考え事をしているところに別の臣下が来た。

 必死な表情で、何かとんでもない事を報告しそうであった。

「朝廷が陛下の討伐の兵を挙げ、曹操を総大将にして劉虞、劉備の軍を加えた三十万の兵が寿春に侵攻中との事ですっ」

「なにっ、曹操がっ」

 袁術は曹操が侵攻して来たと聞くなり歯噛みした。

 既に断交状と共に同盟破棄の文を届けられていたので、敵対する事は驚かなかった。

「ええいっ、呂布に負けた事を聞きつけて攻めてきおったか。あの奸雄めっ」

 今はただ、状況が悪かった。

 先の戦で失った兵の補填も出来ず、都の再建に大金を使い、水害により食糧も手に入らない。この状況を袁術はどうすべきか思考した。

「陛下。徐州の呂布が下邳国へ侵攻。駐屯している陳蘭将軍が援軍を求めておりますっ」

「なにっ、呂布も攻めて来たと言うのかっ」

 その報告を聞いた袁術は悩みだした。

「陛下、陛下、一大事にございますっ」

「今度は何だ⁉」

 次から次へと齎される嫌な報告を聞いて袁術は声を怒らせながら聞いて来た。

「そ、孫策が、船を揃えて河を渡り攻め込んで来ると報告が」

「なに、孫策も攻めてくると言うのかっ」

 その報告を聞いた袁術は絶望に染まった顔で大声を上げた。

 容易ならざる状況に袁術は頭を痛くしていた。

「陛下。此処は野戦を避けるべきです」

 そう進言したのは側近の閻象であった。

「曹操軍は遠征。しかも、外は水害で食糧を得る事は至難。陛下は南へ向かい兵を集めるのです。それまでの間、寿春は信頼する者に任せて籠城させ、敵の兵糧が尽きた頃に戦をするのが良いかと」

「……そうだな。良し、そうしよう。だが、下邳国に居る陳蘭はどうする?」

「我が軍の将軍の誰かを援軍に向かわせて守りを固めさせるのです。我等が曹操軍を撃破した後、兵を送れば良いのです」

「成程な。良し、誰か陳蘭の援軍に行くと言う者はおるか?」

 袁術が居並ぶ臣下に訊ねると、一人前に出た。

「それがしが参りますっ」

「おお、雷薄。良し、其方に三万の兵を与える。朕が曹操を破るまで、陳蘭と共に守るのだ」

「承知しました」

 雷薄は袁術の命を聞くなり一礼し、準備の為その場を離れた。

「梁綱、李豊、楽就、陳紀の四人は十万の兵と共にこの城を守れ。残りの者達は金銀財宝と共に朕に付いて来るが良い」

 袁術は指示を出し終えると、皆一礼しその場を後にした。


 雷薄が徐州に向かい、袁術が寿春を後にしてから数日後。

 曹操軍はようやく九江郡に辿り着いた。

 そのまま、南下し寿春を攻略するだけなのだが、その行軍は苦難の道であった。

 曹操軍が九江郡に辿り着く頃には、雨は止み水害は収まっていたが、道と言える道は泥濘んでおり、多くの家屋が泥の中に沈んでいた。

 水に流されたのか、泥に塗れた溺死体がそこら中にあり、泥に埋まっているので、畑の作物は収穫する事も出来ないという惨状であった。

「これは、想像以上だな」

 水害の酷さに曹操は困った様に呟いた。

 泥により、人と馬の足が取られ進軍がままならなかった。

 その上、泥により食糧も手に入らない状況なので、時を掛ければ兵糧が不足するのが直ぐに分かった曹操。

(撤退などすれば、私は打ち首だ。撤退は出来ん。此処は短期決戦だな)

 早く戦を終えるべきと決めた曹操は泥に苦労しながら寿春へ向かった。

 数日後。

 曹操軍は寿春へと到達した。

「包囲した後、総攻撃を掛けよっ」

 曹操はそう命じた。

 軍を三つに分け、北は曹操。西は劉虞。東は劉備が受け持ち、攻め込む事となった。

 曹操の号令に従い、各軍は総攻撃を開始した。

 喚声と共に攻撃を仕掛ける各軍。

 だが、水害により流れて来た岩と大木により、進路を阻まれ、まだ乾いていない所があった様で泥に足を取れられた。

 足を止めた軍に城を守る袁術軍は良い的と言わんばかりに矢を放った。

 多くの犠牲が出た為、その日は攻撃を止めた。

 其処から更に数日が経ったが、大地には多くの曹操軍の兵が横たわっていた。

 戦況が好転しない事に曹操は苛立っていた。

 とは言え、時間を掛ける事が出来ないので、曹操は犠牲を出すのも構わず連日城を攻撃した。

 其処に恐れていた事が報告された。

「申し上げます。兵糧が後数日しかありません」

 今回の戦の兵糧管理する任峻が部下の王垕と共に報告してきた。

「孫策から兵糧は何時頃届くっ」

 孫策は今回の戦には参加しなかった。

 袁術の下に届いた船を揃えて河を渡り攻め込んで来るとの情報は偽の情報であった。

 孫策が治める土地も袁術と同じく水害に見舞われてしまっていたので、兵を出すどころではなかったのだ。

 その代わりに兵糧は送るという事だけは約束していた。

「十日後には届くと連絡がきております」

 任峻がそう報告するのを聞いて、曹操は嘆息した。

「それはまずいな。それまで、何とか持たせるしかないな」

「どの様に?」

「……計る枡を通常のよりも小さくするのだ」

「それでは、兵に不満が溜まります」

「私に考えがある。今は私の命に従え」

「承知しました」

 任峻はどうするのだろうと思いながら、曹操の命令に従った。

 その日の食事は昨日に比べて少なくなっている事に兵達が直ぐに気付き、怒鳴り声と共に不平不満を漏らしだした。


 不平不満を漏らしていた兵達も声を出せば余計に疲れると分かったのか、今は黙り込み地面に座っていた。

 誰かの腹からは、空腹を訴える為に虫が鳴いていたが、誰も何も言わなかった。

 その音を聞く度に、兵達の目に怒りの炎が燃え盛っていた。

 その空気を察してか、兵糧管理する任峻が曹操の下にやって来て報告した。

 この任峻は字を伯達と言い、曹操が河内郡に居た頃から従っている家臣だ。

 曹操はその才器を見込んで自分の従妹を娶らせ親族に迎えていた。

 そして、曹操が司空府を開くと典農中郎将に任命した。

 年齢は曹操よりも五つ下の三十六歳であった。

「申し上げます。兵達の不満が高まっております。このままでは、反乱が起こる可能性もあります」

 任峻はハッキリと告げた。

 曹操は信任が厚い家臣の報告に、難しい顔をしていた。

「そうか。だが、仕方がない。私も揚州で似たような事をしたが、その時も兵達が反乱を起こしたからな」

 嘗て、兵を募る為に揚州に来た際、戦乱により食糧不足に陥った事を思い出す曹操。

 奇しくも、また揚州で食糧不足で頭を悩ませる事になるとは、曹操は思いもしなかった。

 だが、同じ失敗をする曹操ではなかった。

「この際だ。ある方法を使い、兵の不満を反らすとしよう」

「どの様な方法を行うのですかっ」

 任峻は劉備、劉虞軍も合わさり十二万近くの兵の不満をどうやって反らすのか分からなかった。

「それはそうと、この前、お主が連れて来た部下がいたな。名前は何と言ったかな?」

「王垕の事ですか?」

「そうだ。あやつはどの様な者なのだ?」

「王垕は涼州隴西郡の……確か狄道県出身です。元は董卓軍に所属していたのですが、董卓が死んで混乱状態になった長安を家族の者達と逃げ出し、中原に来て我が軍に仕えました。兵糧の管理に優れているので、此度の戦に連れて来ました」

「家族か。誰が居るのだ?」

「年老いた父母と妻に子供が一人と聞いております。確か、息子が居ると」

「そうか。下がれ」

 曹操は任峻に下がるように命じた。

 天幕を出た任峻は先程までの会話を思い出しながら、曹操は何をするつもりなのか考えた。

(……兵糧官である王垕の家族を聞いてどうするのだ? ……まさかっ)

 少し考えた任峻は頭の中にある予想が浮かんだ。

 そう思い至ったが、まさかそのような事はしないだろうと思ったが。

(いや、殿であれば有り得るか……)

 実際曹操に仕えて、世間が言う様な非道を行うという訳では無いが、目的の為とあれば手段を選ばない冷酷さは持っていると知った。

 なので、自分の頭の中にある予想を実現する可能性があると思う任峻。

(だが、現状ではこれが一番兵の不満を反らす方法ではある。むぅ、これは背に腹は代えられないか)

 曹操が行おうとしている事が、兵の不満を反らすという意味では一番合理的だと思い、任峻は口を閉ざす事にした。


 翌日。


 兵糧の量を計算していた王垕の下に兵がやって来た。

 曹操が呼んでいると言うので、計算を止めてその兵に付いて行った。

 兵に案内され、王垕は曹操が居る天幕の中に入って行った。

「お呼びでしょうか?」

 一礼し訊ねる王垕。

 訊ねられた曹操は暫し黙り込んだ後、重々しく答えた。

「兵達の不満が高まっているのが分かるか?」

「はい」

「この状況を打開する為、一つお主に借りたい物がある」

 曹操が頼み込んで来るので、王垕は気になって訊ねた。

「何をお貸しすれば良いのです。わたしの様な者が貸せる物であれば、何なりと」

 王垕のその一言を聞いた曹操はほくそ笑んだ。

「……借りたいのは、他でもない。其方の首を借りたい」

「っ⁉」

 曹操が告げた内容に短い悲鳴を上げる王垕。

「無論、借りたら二度と返す事は出来ん」

 首を借りるという事は、即ち殺すという事だ。

 その言葉の意味が分かった王垕は怯えた顔で膝をついて、頭を深く下げた。

「私には何の落ち度もありません。無実ですっ」

「分かっている。だが、そうでもしないと、兵の不満が抑えられんのだ」

 曹操は身勝手な事を言うと、王垕の目に涙が溜まりだした。

 董卓軍の兵士を辞めて、中原に逃げ出して曹操軍に入り、真面目に忠実に仕事に励んだ事で兵糧を管理する官吏になり、安泰と思っていた矢先にそう言われれば、誰でも泣きたくなるだろう。

「どうか、お許しをっ。私には、年老いた父と母と、妻と子供がおりますっ。命だけはっ」

 王垕は命だけは取らないでくれと懇願した。

 そんな王垕に曹操は優しく声を掛ける。

「安心しろ。其方が死んだ後、私が死ぬまで、お前の家族の面倒を見てやる。お前の父母には、私の実の父母以上に孝行してやろう。そちの妻も同様だ。我が妹の様に可愛がってやる。子供も同じだ。私の実の子よりも目を掛けてやる」

 曹操は王垕が死ねば、家族の面倒は見てやろうと約束した。

「殿。どうか、命だけは御助けをっ」

 王垕は曹操の頼みでも聞き入れられないと頭を下げた。

「誰か、この者を斬れ」

 曹操は天幕内に居る護衛の兵士に王垕の首を斬るように命じた。

 兵は剣を抜くと、無言で王垕の首を斬り落とした。

 斬り落とされた首は、曹操の方まで転がって行き、恨めしそうな顔で曹操を見ていた。

 その顔を見た曹操は暫し黙り込んだ。

 自分のした事の罪悪感を感じている様であった。

「…………この首を晒して、兵達に見せるのだ」

「はっ」

 その罪悪感も少しすると消えたのか、曹操は冷徹に兵に王垕の首を晒すように命じた。

 そして、王垕の首が晒された。立て札にも首を斬られた理由が書かれていたので、兵達はそれを読んで、腹を空かせた恨みを込めて石をぶつけたのであった。

 不満を反らした後、食事の量が以前に戻ったので、兵の士気が上がったのであった。

 余談だが、流石の曹操も死んだ者との約束は守る様で、死んだ王垕の父母は死ぬまで面倒を見た。

 王垕の妻も、人妻と未亡人が好きな曹操も手を出す事無く面倒を見た。

 その子供も面倒を見ていたのだが、その子供はまだ八つであったが、曹操は一目その子供を見るなり、有望だと思い養子にこそしなかったが、面倒を見る様になった。

 その子供は名前を双と言うのであった。

 昨日まで腹一杯食べる事が出来なかった兵達は、腹が弾けそうな程に食べる事が出来た。

 

 翌日。


 馬に跨った曹操は兵達の陣頭に立った。

「よいかっ、今日の攻撃で城を落とすっ。命令なく下がる者は、その首を斬り捨てるぞっ」

 曹操が号令を発すると腰に佩いている剣を抜いて、天へ掲げた。

「かかれっ‼」

 十分に食事を取る事が出来た兵達は喊声を上げて、寿春城へ突撃を開始した。

 他の門の攻撃を受け持つ劉備、劉虞達も攻撃を開始した。

 城を守る梁綱、李豊、楽就、陳紀の四人は攻撃を仕掛ける曹操軍に迎撃する様に命じた。

 

 数刻後。


 曹操軍の兵達は城へと突撃したが、城から放たれる矢により足踏みしていた。

 このままでは、攻撃は失敗に終わるのかと思われたが。

「ええいっ、何をしているっ。突っ込まぬのかっ」

 曹操はそう命じるが兵達は一向に城へと進む事はなかった。

 このままでは不味い、死ぬと思ったのか、兵の何人かが城に背を向けて逃げ出そうとしたが。

「この臆病者共がっ!」

 逃げて来る兵達の首を即座に斬り落とす曹操。

「私が手本を見せてやるっ」

 そう言うなり、曹操は近くに居る兵から盾を奪うと駆け出した。

「ああっ、殿」

「殿を死なせるなっ」

「殿の後に続けっ」

 曹操の家臣達は最前線へと駆け出す曹操を見るなり、兵達に号令を下した。

 駆け出した曹操は遮二無二に駆け出した。

 盾には幾つもの矢が刺さるが、構わず進んだ。

 そして、曹操が城壁近くまで来ると、兵達はようやく追いついて城壁近くに来た。

 兵達の背後には多くの兵が倒れていた。

「登れっ、登るのだっ」

 曹操は兵達を督戦しつつ剣を掲げた。

 兵達は梯子を掛け登っていくが、袁術軍の兵達が岩と矢を落す事で登るのを防いでいた。

 水害による泥で衝車も進む事が出来ず、城壁から梯子を掛けて攻めるという方法しかなかった。

 それが分かっている袁術軍の諸将達は城門に兵を回さず、城壁に詰めて矢を放ち、近付かせなかった。

 ようやく、梯子を掛けたと言うのに城壁に到達しない兵達に業を煮やした曹操は梯子を上りだした。

 放たれる矢は剣で叩き落とし、曹操は上がり続けた。運良く岩に当たる事無く城壁に着くと近くに居る兵を斬り殺した。

「殿が城壁に上がったぞっ」

「殿に遅れるなっ」

 城壁に上がった曹操を見るなり、家臣達は兵達を鼓舞した。

 家臣達の中で一番大変だったのは曹操の親衛隊を率いる典韋と許褚の二人であった。

 曹操を守る親衛隊である二人だが、その守る本人が最前線に向かって行くので慌ててその後を追い駆けた。

 そして、二人は兵と共に梯子を上ると、曹操に群がって来る袁術軍の兵達を斬り伏せて行く。

「殿っ、無茶はお止め下されっ」

「後はお任せをっ」

 典韋と許褚の二人は曹操を守りつつ近付いて来る兵達を斬り倒していく。

 典韋達の活躍で、城壁に次から次へと曹操軍の兵達が登って来た。

 此処まで来ると袁術軍はその勢いを防ぐ事が出来なかった。

 やがて、城門は開かれて曹操軍が突入した。其処から、各門は開かれた。

 城を守っていた梁綱、李豊、楽就、陳紀の四人は捕縛され、寿春城は陥落した。

 城内をくまなく探したが、袁術は居なかった。生き残った兵からは、袁術が兵を連れて南へ向かったとだけ告げた。

 討伐目的である袁術が逃げたと聞いた曹操は追い駆けようとしたが、其処に荀彧達参謀が待ったを掛けた。

「此度の戦で、我が軍の兵も多く失いました。また、兵糧は底を突きそうです。このまま、袁術を追い駆ければ我が軍の兵は飢えてしまいます。此処は袁術が都に定めた寿春を奪い取った事で満足し引き揚げましょう」

 寿春を奪いはしたものの、城内の兵糧も十日保てば持良いぐらいにしか残っていなかった。

 袁術が何処に居るのかも分からない以上、追撃しても無駄に兵糧を消耗するだけだと思い、荀彧は許昌への引き上げを提言した。

「私も同意見です」

「私も」 

 程昱、郭嘉もそう述べるので、曹操も自軍の状況を考え許昌に戻る事を決めた。

 捕縛した梁綱達四人は市中に引き出して斬首した。

 それが終わると、劉備達に今回の袁術討伐はこれで終わり、討伐軍は解散だと告げた。

 その際、曹操は劉備に話し掛けた。

「玄徳殿。お主、そろそろ徐州を己の手に取り戻したくはないか?」

「っ⁉」

 そう話し掛けられた劉備は言葉を詰まらせた。

「もし、其方にそういう気持ちがあるのであれば、声を掛けてくれ。貴殿に助力し、呂布を討伐し終えた暁には、其方を徐州の州牧になるよう朝廷に上奏しよう」

「…………私はその様な気持ちなど」

「まぁ、良く良く考えておいてくれ。もし、その気があれば陳珪、陳登親子に声を掛けてくれ。呂布を追い落とすのに協力してくれるだろう」

「陳親子がですか……」

 曹操が告げた名前を聞いても、劉備はそれほど驚く事は無かった。

 劉備の反応を見た曹操はその場を後にし、陣地へ戻った。

 そして、兵達に撤退を命じた後、自分の天幕に戻り一息つくと、典韋と許褚、それに荀彧と程昱がやって来た。

 曹操は何事かと思いながら、四人を通した。  

 天幕に入ると、典韋と許褚の二人はその場で膝をついて泣き出した。

「殿っ、先の戦の様な事は、もうお止め下されっ」

「殿にもしもの事があれば、私は、私は……」

 男泣きする二人。 

 泣く典韋達を横目で見つつ、荀彧が曹操に苦言を呈した。

「大将たる者、前線に駆けるなど愚の骨頂にございます。もし、殿が討たれれば、我らの骸を野に晒していたのかも知れないのですぞ。二度とこのような事はしませんように」

「自重して下され。殿っ」

 程昱も曹操に苦言を呈した。

「あ、ああ。その、済まなかった」

 部下に苦言を呈された曹操はそうとしか言えなかった。

 荀彧達はまだ言い足りないのか、その後も曹操の行動に苦言を言い続けた。

 折角、勝利して良い気分であったと言うのに、曹操は苦い気分になるのであった。

 なお、この時の件を思い出すのが嫌なのか曹操は二度と最前線を駆けるという事はしなかった。

本作では任峻の生年は160年とします

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この戦、曹操自身が無茶な突撃する前に、曹昂がいれば、または曹昂の兵器◯◯があれば、など思索する一文だけでもあれば、と思わずにはいられません。
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