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生前葬?

 曹昂軍は数万の軍勢であり、行軍は早くなかった。

 再度、敵の追撃があるかもしれないので、警戒しながら進むために行軍の足を遅くしていた。

 お蔭で、翌日の昼頃に曹操軍が陣地を張っている所に辿り着いた。

「うああああああっっっ⁉」

「お、お、おたすけえええええっっっ⁉」

 曹昂が陣地の門で見張りをしている兵に声を掛けようとしたら、その兵達は曹昂を見るなり、悲鳴を上げて陣内へ逃げ出した。

「? どうしたのだろう?」

 そんな兵士達を見ても、曹昂は首を傾げるだけであった。

 陣地の旗には白旗が立てられていた。

 白旗は降伏を示す他にも、弔旗としての役割も持っている。

(……今回の戦の死者を弔っているだけだよな?)

 油断で多くの兵が死んだ事に曹操が衝撃を受けて、弔っているのだろうと思い見ている曹昂。

 なので、さきほど兵士が陣内に逃げる際に開け放たれた扉から陣内に入った。

「ぎゃあああっ」

「ひいい、ど、どうか、どうか、心安らかに……」

 曹昂が陣内に入るなり、出会う兵達全員、悲鳴を上げるか何か祈る様に呟いていた。

 出くわす兵達全てにその様な事をされているので、流石の曹昂もこれは何かあると察した。

 馬から降りて、近くに居る兵に声を掛けようとしたが、曹昂が馬から降りるのを見るなり、兵達は離れていった。

 これでは、話し掛けられないなと思い頭を掻く曹昂。

「し、子脩だとっ、ゆ、幽霊か?」

 聞き覚えがある声が聞こえたので、曹昂が声が聞こえた方に顔を向けると、其処には親戚の夏候惇の姿があった。

「ああ、元譲殿。曹昂、ただいま戻りました」

 夏候惇に挨拶する曹昂。

「あ、いや、…………生きているのか?」

 夏候惇は返事をする前に、曹昂の身体に触れて生きているのかどうかの確認をしだした。

 触る事も出来る上に、体温も感じる事が出来た。

 それは生きているという証拠であった。

「ええ、生きていますよ。足もちゃんとありますし」 

 曹昂が笑顔でそう言うと、夏候惇は足を見ると、そう言う通りちゃんと足はあった。

「……という事は、あの報告はどういう事だ?」

「話が掴めないのですが。どうなっているのです?」

「ああ、実は」

 夏候惇は兵からの報告を曹昂に話した。

「私が死んだ? どう考えても誤報でしょう」

「まぁ、お前が生きているから、どう考えてもそうであろうな」

 曹昂がそう言うのを聞き、夏候惇も同意した。

 現実に、曹昂が生きている以上、そうとしか考えられなかった。

「それで、会う兵達全員、私を見るなり悲鳴を上げていたのか……」

 兵達が悲鳴を上げる理由が分かり、曹昂は納得が出来た。

(死んだと聞いている人が生きていたら、驚くよな)

 もし、曹昂が兵達と同じ立場であれば、間違いなく驚くなと思った。

 しかし、何でそんな誤報が流れたのか分からず首を傾げる曹昂。

(おかしいな。安民が死んだとしか報告をあげていないのだけど? ・・・・・・あっ、もしかして)

 名が一緒なので、間違えたのかと思う曹昂。

 と思ったが、それは無いなと一笑した。

(そりゃ、この時代の名は諱でもあるから、死んだら呼んでも良いけど、それで間違えるとか普通にないだろう)

 そう思いはするが、現にこうして曹昂の葬儀が行われていた。

「……父上はどちらにおられるので?」

「あっちで、孟徳が祭壇で泣いているぞ」

 夏候惇が指差した先には、大きな天幕があった。

 其処で葬儀を行っているのだと分かった曹昂は夏候惇に一礼し、その天幕の中に入って行った。

 天幕の中に入ると、鎧の上から白い衣を纏った兵達が泣いていた。

 祭壇には曹昂子脩と書かれた位板が置かれていた。

 位板には生前の位官なども書かれる為、陳留県令と陳留侯と記されてた。

 葬儀と言っても、陣地である為、祭壇を設け、皆は白い衣か白い布を纏っているだけであった。

「おおお、息子よ、何故、死んだのだ。私の後を継ぐのは、お前だと言うのに、こんな、こんなに、早くに逝くとは……うおおおおおっっっ」

 祭壇近くの座席に座る曹操は平伏しながら泣いていた。

 曹操の側には曹昂の妾である程丹と曹丕の姿があった。

 曹丕と程丹の目からも涙が流れていた。

 天幕の中に居る者達が全員泣いているのを見た曹昂は、泣いてくれるほど自分に好意を持ってくれている事が嬉しいと思う反面、実は生きていてこの場に居る事が申し訳ないという気分になっていた。

 皆、泣いているので曹昂が居る事に気付いていなかった。

 曹昂は気まずい気分のまま、曹操の側により、肩を叩いた。

「うおおおおおっっっ、なんだ、夏候惇。用があるのであれば、後に…………うん?」

 肩を叩かれた曹操は顔を上げて、振り向くと其処には死んだと聞いている曹昂が居た。

「うおおおおおおっっっ、し、ししゅうっ、お、おまえ、よみから、もどってきたのかっ」

「いえ、父上。違います。私はちゃんと生きていますから」

 曹昂を見るなり、祭壇に背を向けて後退る曹操。

 死んだと思っていた人物が其処に居れば、驚くのも無理ない事であった。

 周りに居た者達も同じように驚きの声を上げて、曹昂から離れた。

 曹昂は曹操を落ち着かせようと声を掛けるが、曹操は聞こえなかった。

「わ、わかったぞ。この前、お前の領地にに行った時に食べたくれーむぶりゅれ? にケチをつけた事を根に持って、黄泉に行く事ができなかったのか? あ、あれは、美味かったが。わたし好みではなかっただけだっ」

「何を言ってるんですか?」

 曹操がそんな事を言い出したので、曹昂は呆れていた。

 以前、曹操が曹昂の領地に来た際、曹操にプリンを出した際、曹昂はクレームブリュレを食べた。

 クレームブリュレとは、簡単に言えばプリンの上に砂糖を振りかけて焦がす事で、カラメルの層が乗っている食べ物だ。

 曹昂が食べているのを見て、興味が湧いたのか曹操も食べたのだ。

『ふん。苦くてぱりぱりしたからめるで、味を台無しにしているな』

 と食べ終わるなり言い出した。

 食の好みは人それぞれなので、曹昂は何も言わなかった。

 だが、曹操からしたら、それが原因で黄泉に行けないのだと思っていた。

「落ち着いて下さい。私はちゃんと生きていますよ」

 曹昂は曹操にそう声を掛けて、証拠とばかりに足を見せる。

 ちゃんと足が有るのを見た曹操は、徐々にだが落ち着きを取り戻していった。

「お、お前、生きていたのか?」

「だから、そう言っているではないですか」

 先程からそう言っている曹昂は呆れたように溜め息を吐いた。

「…………おおおっ、息子よ。無事であったか、私は信じていたぞ。お前が生きている事をっ」

「さっきまで、泣いていた人が言うと、信じられないのですが」

「はははは、しかし、良く無事であったな。だが、お前が死んだと聞いていたが」

「兵は何と報告したのですか?」

「それは、そうこうが死んだと」

「……それは無いなと思っていたのに、本当にそうなっているとは」

 曹昂は頭を抱えた。

「それは間違いです。死んだのは安民の方です」

「そ、そうか。そうであったか。ははは、わたしとした事が確認も取らずに葬儀をしてしまったわ」

 曹操は笑いだした。

 笑って誤魔化そうとしているなと思う曹昂に何かがぶつかって来た。

 何だと思い、そちらに顔を向けると其処には程丹が其処にいた。

「あ、えっと……今、戻ったよ?」

「…………」

 曹昂は今更ながら、程丹に戻って来たと告げる。

 だが、程丹は無言で睨んでいた。

「……心配かけてごめんなさい」

「言うのが遅いですっ」

 曹昂が謝ると、程丹は声を上げた。

「もう、もうもう、死んだと思ったら、生きているとか、どう考えても有り得ないでしょうっ。人に心配かけないと、生きていられない性分なのですかっ。貴方はっ」

 程丹は泣きながら、曹昂を殴りだした。

 それほど、力は込めていない様で、少し痛いと思う曹昂。

(…………何か、可愛い)

 普段から冷静な性格なので、子供みたいな事をする程丹を見た曹昂は可愛いと思った。

 曹昂は暫しの間、程丹の可愛い姿を眺めていた。

 そんな、二人のやり取りを見て曹操達は舌打ちしつつ天幕を出て行った。

 曹操は天幕を出ると、曹昂の死は誤報だと触れ回った。

 そして、改めて曹浩の葬儀を行った。

「我が甥よ。どうして、私より先に逝ったのだ。死んだ弟の代わりに、お前の将来を見届けるのが、私の役目であったというのに・・・・・・」

 曹操は曹浩の位牌を見ながら悲しそうに呟いていた。

 曹昂は内心で、父上が油断したからですと口から出かかったが、甥を亡くして沈んでいるところに追い打ちを掛けるのは無いなと思い、黙る事にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 父上が油断したからです って言っちゃっていいのよw
[一言] いつも楽しく拝読させて頂いてます。 支那の場合だと足がない幽霊よりキョンシーの方がしっくりくるような。
[一言] 重要な山場の一つであろうに 特に必要性ないくだりのため頭悪過ぎる展開で盛り下がるわ
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