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333/1005

防衛

 典韋が武具を纏っている時と同じ頃。

 

 館から少し離れた道に張繍が麾下の兵と共に居た。

 完全武装している兵達に混じりながら、張繍は胡車児が来るのを待っていた。

 予定では、そろそろ胡車児が典韋の武具一式を奪って戻って来る筈であった。

 何時まで経っても、やって来る気配がないので、張繍は兵に様子を見に行かせた。

 暫くすると、兵は慌てた様子で戻って来た。

「申し上げます。館には曹操軍の兵が多数おります。また、館の門前には胡車児様が倒れておりましたっ。全身に矢が突き刺さっていましたので、恐らく討死したと思われます」

「馬鹿な……」

 兵の報告を聞いた張繍は耳を疑わずにいられなかった。

 智謀に長けた賈詡と綿密に相談し話し合い練った計画が破綻した事に言葉を無くしていた。

「殿。どうなさいますか?」

 部下がそう訊ねて来たので、張繍は暫し黙り込んだ。

「……此処まで来て、逃れる道は無し。者共、館に乗り込んで曹操の首を挙げよっ!」

 胡車児が殺された時点で計画が漏れたと思った張繍は言い逃れ出来ないと思い、兵達に攻撃を命じた。

 張繍麾下の兵達は喚声を上げて館へと乗り込んでいった。


 同じ頃。

 張繍の部下達が上げる喚声は館に居る曹操にまで聞こえて来た。

 雲一つ無い静かな夜に月が見えた。

 そんな夜に鄒菊にお酌をさせながら、酒を飲んでいた。

 月を見ながら、何か良い詩でも浮かぶかもしれないと思っていた所に、騒がしい声が聞こえて来た。

「うん? 何だ。この声は?」

 内心で無粋なと思いながら曹操は気になったが、直ぐにある事を思い出した。

 丁度、典韋が自分の元から離れた時に、張繍本人がやって来て、挨拶がてら、最近自分の兵が逃げるので、どうしたら良いかと相談して来た。

 曹操は内心で笑いながら、警備を厚くすれば良いと言い、兵を動かす許可を与えた。

 張繍は感謝を述べて館から出て行った。

 騒がしいのは、見回りをしている張繍の兵が逃亡する兵を追いかけているのだと思った。

「やれやれ、興が削がれるな」

 酒を飲んで良い気分であった所に喚声が聞こえたので曹操は創作する気分が削がれた。

「菊よ。一曲奏でてくれ」

「はい」

 気分直しに鄒菊の胡弓を聞く事にした曹操。

 胡弓の音色を堪能している所に、身の回りの世話の為に館にいた曹浩が慌てて、曹操に張繍軍の襲撃を伝えた。

 それを聞いた曹操は一気に酔いが醒め、鄒菊の手を借りて甲冑を纏った。


 曹操が慌てて、武具を纏っている頃。

 館の門前では熾烈な戦いが行われていた。

「ええいっ、こう次から次へと来られたら、殿にお伝えする事ができんっ」

 典韋は持っている戟を振るいながら、向かって来る敵兵を斬り伏せていた。

「そうぼやくな、典韋殿。先程、城内の曹操軍の兵達が居る所に伝令を送った。暫く持ち堪えれば、援軍が来るぞっ」

 側に居る許褚も大刀を振るい敵を切り斬り倒していった。

 許褚が連れて来た部下達は親衛隊の中でも精鋭であった。今のところ、何とか死者を出す事無く敵を倒していった。

 とは言え、人である以上、体力の限界がある。

 長期戦は無理だと許褚達は分かっている。

 部下に城内の曹操軍の兵達が居る所へ走らせた。

 暫く持ち堪えれば、援軍が来る。

 そう分かっている二人は兵を叱咤激励しつつ、援軍が来るのを待ちながら敵兵を斬って斬って斬り捨てて行った。

 

 四半時後。


 館の前には張繍軍の兵が骸を晒し、血だまりを作っていた。

 その中には、曹操軍の兵もそれなりの数が倒れていた。

 何時まで経っても、館に突入出来ない張繍は体制を整える為に兵を下げさせた。

 張繍軍が下がるのを見て、典韋達はその間とばかりに休憩を取った。

 典韋と許褚達は肩で息をし、全身に汗をかいており、甲冑には血がべっとりと付いていた。

 一部は乾いてこびり付いていた。

 許褚達が連れて来た兵達も同じような状態であった。

「何人残っている?」

「二百人程になります」

 許褚が大刀に付いている血を拭き落としながら、部下に訊ねた。

 連れて来た兵は三百。

 出来るだけ、誰にも知られない様に連れてきて欲しいと典韋に言われたので、三百ほどしか連れて来れなかった。

「ぬぅ、そろそろ援軍が来ても良い頃だが」

「もしや、敵の襲撃を受けているのでは?」

 典韋の予想に許褚は有り得るなと思った。

 その典韋の予想は当たっていた。

 城内の曹操軍が居る所には賈詡が兵を率いて奇襲を仕掛けていた。

 指揮する将が居ない為、兵達は混乱し蹂躙されるがままであった。

 そんな事も知らない典韋達であったが、そういう事も予想出来て何も言えなかった。

 援軍が来る事を前提に守っているこの状況で、援軍が来ないと分かれば、部下の士気が低下するのが分かっていたからだ。

 だが、現状どうにもする事が出来ない二人はどうするべきか頭を抱えていた。

 其処に体制を整えた張繍軍が攻撃を開始した。

「また来たかっ!」

「こうなれば、殿だけでも守ろうぞっ!」

 典韋と許褚も気勢を上げると、部下達も疲れる身体に鞭打って得物を構えた。

 体勢を整えた張繍軍の兵達は突撃しても兵を犠牲にすると分かったのか、今度は弓兵を前面に出してきた。

 これは不味いなと思いながらも、典韋達は対策らしい対策を立てる事は出来なかった。

 そうしている間も、張繍軍の兵達も進み矢が届く距離まで来ると、張繍軍の兵達は矢を番えた。

 典韋達が此処までかと思った。その時。

「放てえええええっっっ」

 パパパパパパン‼‼‼

 何かが破裂した音がしたと思った瞬間、張繍軍の兵達の多くが身体の何処かしらを失っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 曹操の油断によって、無駄な血が流れたなぁ 責任は取らないと。。。
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