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重要と言えば、重要ではある

 董白から睨まれているのを感じながら、曹昂は咳払いをした。

「ああ、おほん。今日は集まってくれてありがとう。都が完成したので、父上がそれを記念して相応しい料理を作れと言うので、皆には試食をしてもらいたいんだ」

 曹昂がそう言うが、皆は不思議そうな顔をしていた。

「ぷりんで良いのでは?」

「もしくは、くりぃむぱふでも良いと思いますが」

「氷菓子も良いと思います」

 皆、好きな物を挙げていく。

「そうですね。私はどれも美味しいと思います」

 劉吉も同意する様に頷いた。

 屋敷に住まうようになって、プリンやクリームパフを食べる事が出来たからか、その美味に顔を緩ませていた。

 宮廷でも滅多に食べられない氷菓子も食べたが、宮廷で食べた時よりも遥かに美味しいと感じていた。

「う~ん。もっと華があっても良いと思って」 

 曹昂はそう言うが、どれもこれも見栄えすると皆は思っていた。

「じゃあ、何時だったか食べたぷりんあらもーどを出したらどうだ?」

 董白がそう言うと、劉吉と袁玉は食べた事が無いのかキョトンとしていた。

 側に居る者達がどんな菓子なのか教えた。

「あれは良いと思うんだけど、季節がね」

 季節はまだ冬なので、果物は全て干し果物になっていた。

 なので、プリンアラモードにするには不向きと言えた。

「そんな訳で、作ったんだけど、出来映えが良いか教えて」

 良く作られるプリンよりも華があるという菓子がどんな物なのだろうと、皆楽しそうな顔をする。

 そして、料理が運ばれてきた。

 皿に盛られたのは白い玉の形をしている物。

 白い玉には黒い液体が模様の様に掛けられており、玉の中には緑色と赤色の果物が入っていた。その白い玉の下には黄色い液体が敷かれていた。

 思っていたよりも、見栄えする見た目に貂蝉達は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

「凄いですね。黒、白、赤、緑、黄と五色を使って、とても美味しそうですね」

 劉吉は皿と共に置かれた匙を手に取り、まずは黄色い液体を掬い口に運んだ。

「……とても美味しいですね。砂糖の甘みと共に、卵と乳の優しい味わいのする汁ですね」

 一口味わった後、今度は緑色と赤色の果物が入った白い玉に匙を当てた。

 大きな見た目に反して柔らかいのか、匙はスッと入って行く。

「まぁ、柔らかいのね」

 掬った物が柔らかい事に驚きつつ、黄色い液体と黒い液体が掛かった白い玉を口の中に入れた。

「…………?」

 咀嚼していると、不意に首を傾げる劉吉。

 そして、飲み込んだ後、また匙で白い玉を掬って口へ運んだ。

「…………」

 暫く咀嚼した後、劉吉は不思議そうな顔をしていた。

「何か問題でも?」

 貂蝉が気になって訊ねてきた。

「……何と言えば良いのかしら。この料理は」

 劉吉は難しい顔で唸りだした。

 唸る程の料理なのかと思い、皆匙を取り白い玉を掬った。

「まぁ……」

「これは」

「何とも言えませんね……」

 貂蝉達はその白い玉を口の中に入れて咀嚼すると驚きと不思議さに目を見張っていた。

 白い玉を噛むと少しだけ塩味を感じさせたふわふわした食感であったのだが、少しするとそれが消えるのであった。

 まるで霧か霞を食べているかのようであった。

 口に入れたのは確かで、白い玉に入っていた果物が口の中に残っていた。

 白い玉と共に掬った黄色い液体は劉吉が言った様に砂糖の甘みと共に、卵と乳の優しい味わいであった。

 黒い液体は苦みを与えた。その苦みが甘みと交わると、甘みを強くしてくれた。

 口に残った甘みも果物の酸味が打ち消してくれた。

 口に残るのは、甘みと酸味と苦みが混ざり混然一体とした余韻であった。

「……何だこれ。白い玉を食べていて消えたと思ったら、味だけ口に残ってるぜ」

 董白が皆の気持ちを代弁するかのように呟いた。

 皆同じ思いなのか頷いた。

「この黄色い液体は、味に覚えがあるような?」

「かすたぁどに似ていますね」

 程丹が首を振りながら思い出していると、蔡琰が記憶の中にある味を思い出し、似ている物を言った。

「そうだね。これはカスタードを緩くしたものなんだ」

 曹昂が教えると、皆感心していた。

「かすたぁどは濃厚な味だと思っていたら、緩くするとこんなに優しい味になるのですね」

 袁玉は意外そうに呟いた。

「それで、この白い玉に入っているのは干した李と獼猴桃(キウイ)。そして、掛かっているのはからめるですね」

 貂蝉が黒い液体の味を味わって、直ぐにカラメルだと分かった。

 其処までは分かった貂蝉達であったが、この白い玉は何なのか分からなかった。

「……曹昂様。この白い玉は何なのですか?」

 少し考えた劉吉であったが、分からないので曹昂に訊ねた。

「ああ、これはね」

 曹昂は其処まで言って笑みを浮かべて言葉を区切った。

「卵の白身を泡立てて、茹でた物さ」

 そう教えられた貂蝉達はその白い玉をマジマジと見た。

「卵の白身を泡立てると、ふわふわするのは知っていたけど、茹でるとこんなに膨らむのかぁ」

 董白は匙で茹でたメレンゲを突っついた。

 プリンに比べると弾力は無く、柔らかいのか突っついた部分が簡単に潰れた。

「気に入ってくれたかな?」

 曹昂が訊ねると、皆頷いた。

 その反応を見て曹昂は笑った。

(これも練師が頑張ってくれたお陰だな)

 この場には居ない練師は厨房に居た。

 董白と劉吉の二人を仲良くさせるという場を作る際に当たって、料理は何にしようか考えてこの料理にした。

 この城にも料理人が居るのだが、この料理の卵の白身を泡立てる加減、茹でる時間など分かる訳がなかった。

 其処で曹昂が一度作り、練師に教えた。何度か練習したが、何とか人に出しても問題ない味に仕上げられた。

 お蔭でこうして皆の前に出せたのだ。それにより、練師は厨房で疲れて身を休ませていた。

「曹昂様。この料理は何と言うのですか?」

「……卵の泡雪仕立て。カスタードを添えてという感じかな」

 前世のフレンチみたいな名前になったなと思う曹昂。

 ちなみに、この料理はウ・ア・ラ・ネージュと言い、訳すると泡雪卵と言われている。

「随分と詩的な料理名ですね。まぁ、その名前に相応しい料理ですね」

 劉吉は食べてみて泡雪という言葉がピッタリだと思いながら頷いた。

「そう。なら、これを出しても良いかな?」

 曹昂がそう訊ねると、皆頷いてくれた。

「そうか。なら、これで良いか」

 曹昂が安堵して自分に出された料理を食べようと匙を取ろうとしたが。

「ああ、曹昂様。一つお話ししたい事が」

「何だい?」

 劉吉が訊ねて来たので、曹昂は手を止めて顔を劉吉に向けた。

「こうして、皆も集まったので、私達の序列について話そうと思うのです」

 劉吉が笑顔でそう言いだした。


「序列か。確かに重要ではあるね」

 匙を置いた曹昂は顎を摩りながら頷いた。

 この時代、妻同士の序列というのは非常に重要であった。

 家柄、人品、年齢を考慮された上で序列が決まる。 

(もっとも、第一夫人は決まっているのだけどね)

 曹昂は劉吉を見た。

 如何に、曹昂の寵愛が董白や貂蝉に向けられているとは言え、劉吉と袁玉の二人の家柄には敵わない。

 加えて献帝の姉君であられる劉吉を第一夫人に据えねば、朝廷から批判を受ける事が目に見えていた。

 その為、劉吉は第一夫人なのは確定であった。

(しかし、丁度良いか。今まで、貂蝉達の序列とか決めていなかったからな。今の内に決めてしまうか)

 来年には二十歳となる曹昂。

 父、曹操でさえ妻の序列をつけているのだから、自分もそうしなければならないのだと思い、曹昂は劉吉に訊ねた。

「この場に居るのは、六人だから第六夫人まで決めるという事かな?」

 多いなと思いながら訊ねる曹昂。

 だが、劉吉は首を振った。

「いえ、前以て私達が決めまして、夫人は第四夫人までとします。残りの二人は妾という事で」

 それを聞いた曹昂は董白を見た。

 董白からしたら、初耳であったのか目が点になっていた。

(これは、董白抜きで決めたな)

 曹昂は貂蝉を見ると、悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべていた。

 そんな顔を見て、わざと話さなかったのだなと思う曹昂。

「では、第二夫人を紹介しますね」

「お願いする」

 そう言いつつ、誰が妾になるのか気になっている曹昂。

 そんな曹昂の思いとは別に、劉吉は口を開いた。

「第二夫人は袁玉様になりました」

 劉吉がそう言うと、袁玉は曹昂に頭を下げる。

「これからも可愛がって下さいませ」

「ああ、勿論。そのつもりだよ」

 返事をした曹昂は予想通りだなと思った。

 現時点では劉吉に次いで家柄が良い袁玉。第二夫人に選ばれるのも道理であった。

(問題は此処からだな)

 次は誰の名前が上がるのかが気になっている曹昂。

 年齢順に行って程丹か。もしくは蔡琰か。それとも貂蝉なのか。

 誰の名前が呼ばれるのだろうと思いながら、曹昂は耳を立てた。

「第三夫人は蔡琰様です」

 劉吉の口から名前が出た蔡琰は曹昂に頭を下げる。

「これからも、よろしくお願いします」

「……ああ、うん。よろしく」

 ちょっと意外だと思い返事が遅れた曹昂。

 しかし、冷静に考えれば泰山郡にて強い影響力を持っている羊氏との繋がりがあるので、其処を考えて、第三夫人に選ばれたのかもなと推察する曹昂。

 だが、内心では困っていた。

(前世の従姉に似た顔立ちだから、どうも手を出す事に躊躇してしまうんだけど、どうしたら良いだろうか?)

 其処が不安でもあり困っている曹昂。

 そんな思いを頭の隅に追いやり、話の続きを訊いた。

「では、最後の第四夫人ですが…………董白」

「はい?」

 劉吉は少し溜めた後、董白の名を言い出した。

 名前を呼ばれた董白は返事というよりも、訊ねている様なニュアンスであった。

「貴方が、第四夫人になりました。旦那様に礼を」

「「…………はい?」」

 劉吉がそう言うと、董白と曹昂は首を傾げていた。

 まるで、二人共呼ばれる事は無いだろうと言わんばかりの反応であった。

「……あたしが第四夫人?」

 董白が自分を指差しながら周りの者達に訊ねた。

 皆、その通りとばかりに頷いた。

「……あたし、聞いてないんだけどっ⁈」

「今言いましたから」

 董白が大声で訊ねると、劉吉は笑顔で告げた。

 そう言われた董白は何も言えなかった。

 逆に劉吉はそんな董白を見て、微笑んだ。

「え、ええっと…………これからも、よ、よろしくおねがいします」

「ああ、うん。こちらこそ」

 予想外の事を言われた曹昂達は何とも言えない顔で頭を下げるのであった。

「……っと、董白の件は分かったけど、貂蝉と程丹は妾という事で良いのかな?」

 ふと思い立った曹昂は劉吉に訊ねた。

「ええ、本人達と話し合って決めた事ですから」

 劉吉がそう言うと、二人は頷いた。

「良いのかい。本当に」

 曹昂が訊ねると、貂蝉達は微笑んだ。

「私は妾でも構いませんので」

「私も。父上からしたら、嫁いだだけでも十分だと思っているでしょうし、別に夫人になれなくても構わないと言うと思いますので」

 二人は妾でも気にしないと言うと、曹昂はそれ以上訊かなかった。

(何かしらの取り決めがあったのだろう。そっちは僕が口を出す事ではないからな)

 そう思い曹昂は何も尋ねなかった。その後、皆で雑談に興じた。

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