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貂蝉達はと言うと

 曹昂が孫策の事で悲嘆にくれている頃。


 貂蝉達は町に出ていた。

 貴人である劉吉と袁玉もいるという事でか、護衛の兵が付けられた馬車に乗り込み、取り付けられている窓から外の様子を見ていた。

 窓から市を見ながら、気になった店の前まで来ると止めて、人を遣って何の店なのか聞いてから、馬車から降りてその店に入り、商品を買う。

 外に出る事が無かった劉吉と袁玉は興味津々そうな顔で店に並んでいる商品や店内を見回していた。

 そんな二人の様子を見ていると、御姫様なんだなと思う貂蝉。

 其処に程丹と董白の話し声が聞こえて来た。

「今日は、静かだけど、身体の調子でも悪いのかしら?」

「別に、そういう訳じゃあ……」

 董白はそう言って、劉吉をチラッと見た。

 その視線を感じたのか、劉吉が視線を感じた方に目を向けたが、董白はさっと目を反らした。

 劉吉は不思議に思いつつ、商品を見る事に戻った。

「……ああ、成程」

 董白の反応を見た程丹は董白が静かな理由が分かった。

「別に貴女の御爺様がした事を気にする事ないと思うわよ」

「うっ」

 程丹がそう言うと、董白は思っている事を言い当てられ何とも言えない顔をしていた。

 董白はポツリと零した。

「でもよ。公主様からしたら、異母弟は殺されて、婚約者は殺されて、貞操を奪われたんだぞ。その親族の唯一の生き残りのあたしを恨んでも可笑しくないだろう」

「そうね」

「だから、まぁ、普段は離れから本邸に行かない様にしているんだ。あたしの顔を見ると、嫌な事を思い出すかもしれないから」

 董白が本邸に顔を出さない理由を何となく察していた程丹は、少し考えると董白の背中を叩いた。

「董卓は董卓。貴女は貴女でしょう。向こうが何を言っても過ぎた事と思いなさい」

「だけどよ」

「それに幸か不幸か。貴女の御爺様の罪はもう赦されているのだから」

 程丹が言う通り、一時期李傕と郭汜が長安の朝廷を掌握していた時に董卓の名誉を回復した事で逆臣ではなくなった。

 その後も董卓について議論されないので、そのままであった。

「それはそうだけどよ……」

「そんな細かい事を気にしてどうするの。私なんて、この前、久しぶりに故郷に里帰りしたら、故郷にいる人達に凄い睨まれたのよ。それに比べたら可愛いじゃない」

 程丹が笑いながら言うと、董白は気になって訊ねた。

「何で、睨まれたんだ?」

「兗州が蝗害に晒された時、父上が故郷で略奪を働いたって事は知ってる?」

「噂で聞いた事があるな」

「それが、故郷も蝗害の被害に遭ったんだけど、父上は強引に食料を奪ったようでね。お蔭でそれなりの数の死傷者を出したのよ」

「えええっ」

 話を聞いた董白は驚きの声を上げたが、店の中だと気付き慌てて口を押さえた。

「本当かよ?」

「本当よ。向こうからしたら、生きる為に必要だった食料を奪われたくないと思って、必死に抵抗したそうよ。父上は容赦なく奪ったそうよ。略奪した後、餓死者が何人も出たって聞いているわ」

「それは、また……」

「だから、その時奪った食糧には人肉が入っているという噂が流れたのよね」

「……本当に入ってないんだよな?」

「入っている訳ないでしょう。食糧を奪われた人達が流した出鱈目の噂よ」

「だよな~」

 話を聞いた董白は溜め息を吐いた。

「まぁ、それと似たようなものよ。その内、気にしなくなるわ」

「……ちょっと違うような。でも、恨まれているという点では同じと言うべきか分からないな」

 程丹の話を聞いて、董白はどう言うべきか分からない顔をしていた。

 董白達の話を聞いていた貂蝉は董白の気持ちを慮って声を掛けるのを止めて、劉吉達を見た。

 丁度、劉吉は袁玉と蔡琰が話をしていたので、貂蝉は聞き耳を立てた。

「これなんか、どうかしら?」

「良いですね」

「これも御似合いですよ」

 棚に並べられている装飾品を身に当てて、どれが似合っているのか話していた。

 そう楽しんでいると劉吉の目に簪が入った。

 特に飾りらしい飾りは付いておらず、地味な作りであった。

 劉吉はそれを手に取り見ていると、袁玉が声を掛けて来た。

「良い出来ですが。公主様が身に着けるのは、少々地味では?」

「いえ、そうじゃなくて。贈り物をするのであれば、これで良いのかと思って」

 劉吉がそう言うと袁玉は誰に贈るのか気になった。

 訊ねようとしたが、訊かれたくないのではと思い、訪ねるのを躊躇う袁玉。

「誰かに送りたいのですか?」

 蔡琰が劉吉に訊ねた。

「ええ、実は仲良くというか、親しくなりたい子が居るのですが、どうにも接点が無いので、贈り物を機に仲良くしたいのです」

 劉吉が苦笑しながら答えてくれた。

 それを聞いた袁玉達は顔を見合わせた。

 普通であれば、相手の方から、皇女である劉吉と親しくなろうとあの手この手で仲良くしようとするものだ。

 それを劉吉の方から親しくなろうとしているので、相手が誰なのか気になっている様であった。

「……私としては、仲良くしたいのですが。相手と会う機会が無くて」

「そうなのですか」

「簪という事は、その方は女性ですか?」

 袁玉がそう訊ねると、劉吉は頷いた。

「曹昂様、旦那様のお気に入りなのだけど、私とは色々と確執があって」

 劉吉がそう言うのを聞いて、袁玉と蔡琰が誰なのか頭の中で思い浮かべた。

(……旦那様のお気に入りって事は、貂蝉か董白ね)

(それで、劉吉様と確執があるのはと言うと……)

 話を聞いた袁玉達は直ぐに誰なのか察した。

 同時に、劉吉と董白との間にある確執が何なのか察した。

 正確に言えば、董白の祖父である董卓と劉吉との間に起きた事についてだ。

 二人の顔を見て、劉吉は微笑んだ。

「私としては、董卓に対しては恨みが無いとは言えませんが、親族に対してまで恨みは持っていません。ですので、董白とは親しくしたいのですが、間が悪いのか中々話が出来なくて困っているのです」

 劉吉としては董白には何の恨みも持っていない様であった。

「……微力ながらお手伝いいたします」

「私も」

 袁玉と蔡琰が協力を申し出てくれた。


 それを聞いた貂蝉は溜め息を吐いた。

(……その内、曹昂様に二人を交えて一席設ける様に伝えますか)

 二人の話を聞いた貂蝉はそう思った。

「どうかしました?」

 溜め息を吐いた貂蝉に練師が気になったのか声を掛けて来た。

「大丈夫。大した事ではないから」

 そう言って貂蝉は練師の頭を撫でるのであった。


 買い物から帰って来た貂蝉達が曹昂に挨拶してきた。

「じゃあ、あたしはちょっとやる事があるから」

 董白はそう言って、足早にその場を去って行った。

 その速さに声を掛けようとした劉吉は手を伸ばし宙に浮かんだままにしていた。

 その手を下ろした劉吉は少し寂しそうな表情を浮かべたが、直ぐに笑顔を浮かべて曹昂に一礼しその場を後にした。

 二人の様子を見た曹昂はどういう事なのか分からなかった。

(仲良くなってないのか、それとも仲良くなって照れた董白は恥ずかしくて逃げたのかが分からない)

 これは話を聞いた方が良いなと思い、残っている貂蝉達に訊ねた。


「……成程。二人共、仲良くしたいのだけど、そのきっかけが無くて、どうしたら良いのか困っていると」

 貂蝉達から話を聞いた曹昂は唸った。

 丁度、劉吉と董白以外の者達がその場に居たので、意見を求める為話を聞いて貰っていた。

「きっかけか。言葉にするのは楽だけど、そう単純に行かないのが難しいところだね」

「適当な理由で一席設けても、あの子逃げ出すかも知れないわね」

 曹昂が難しいと言うと、程丹も同意する様に頷いた。

 董白とは親しくしているからか、その性格が分かっている様だ。

「そうですね。『あたしが居たら楽しめないだろう』とか言って逃げる姿が目に浮かびます」

 貂蝉も難しいなと言う。

 董白との付き合いの長さで言えばこの中では一番長いので、良く分かっている様であった。

「だとしたら、どんな理由で連れて来ても、逃げるのでは?」

 袁玉の懸念に、曹昂達は何も言えなかった。

「……いっそのこと、捕まえて無理矢理参加させる?」

 程丹が拘束して参加させると言うと、曹昂は手を振る。

「そんな事したら、臍を曲げて、何をするか分からないから駄目だよ」

「そうね……」

 また考え込む曹昂達。

「それでは、逃げられないようにしたらどうですか?」

 練師が思った事を口に出した。

「「「それだっ」」」

 曹昂達は声を揃えて手を叩いた。

 そして、曹昂達は段取りについて話し合った。


 その数日後。


 陳留の城内にある部屋で貂蝉達が集まっていた。

 集められた理由は、都造りが完成した祝いの席に出す料理の試食という事であった。

 上座には曹昂が座っており、茶を啜りながら他の席に座っている者達を見た。

 左側に座っている袁玉、蔡琰、貂蝉の順で並んでいた。

 三人は楽しそうに会話しながら、何が出て来るのかワクワクしている様であった。

 こちらは問題なしかと思い、曹昂は右側の席を見た。

 席順は劉吉、董白、程丹の三人が座っていた。

 劉吉は笑みを浮かべつつ、董白に話しかけていた。

 董白は話に対応しつつ、逃げる時を見計らっていた。

 話が途切れると、程丹が話を振って逃がさないようにした。

 強引に逃げようとしても、程丹が強引に押さえつけた。

 理由を付けて逃げ出そうとしても、程丹が付いて行き逃がさないように見張っていた。

(曹昂めえええっ)

 心の中で叫ぶ董白。

 程丹が話があるという事で、董白は自分の部屋を出た。

 その後に付いて行くと、ある部屋の前まで来て、程丹が先に入るように促したので、部屋に入った董白。

 部屋に入ると、劉吉達が座っているのが目に入った。

 董白は直ぐに向きを変えようとしたが、程丹が董白の両肩をがっしりと掴み、空いている席に座らせた。

 その後は、立たせる暇もないほど話し掛け続けられていた董白。

 話をしながら、この様な事を考えたであろう者である曹昂を睨んでいた。

 睨まれた曹昂はスッと目を反らした。

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