都、完成
年が後少しで越すという時期に、ようやく都が完成した。
その報告を聞いた曹操は大いに喜んでいた。
「そうか。ようやく、天子様が住まう宮も完成したか」
「はっ。陛下は既に仮宮からその宮へお移り致しました。天子様は大層喜んでおりました」
報告した者の言葉を聞いた曹操は顎をさする。
「お喜びであったか、それは良かった」
報告すべき事は終わったのか、その者は曹操に一礼しその場を離れて行った。
「さて、都が出来た記念に何をすべきか」
曹操の中で何をするか考えた。
考えられる範囲では、食糧を与えるか恩赦にするかと考えていると、曹操はふと思い立った。
「民に対しては、そうするとして、朝廷の事を考えて、天子を招いた宴を行った方が良いな」
その為にはそれに見合った料理が必要だと思い、曹昂に声を掛けた方が良いなと思った。
「…………ああ、そうだ。あいつは暫く、都には居なかったな」
曹昂を呼び出そうと思ったが、直ぐに居ない事を思い出した。
万年公主こと劉吉を娶った事で列侯に封じられた。
その領地について、曹操と話し合った結果、兗州陳留郡の陳留の地が選ばれた。
今日はその下見に数名の部下と護衛の兵と妻妾を連れて、その地に行っていた。
「帰って来たら、相談するか」
そう決めた曹操は次に何をするか考え行動していた。
その頃、曹昂は。
封地になる陳留の下見をしていた。
兗州との戦いで戦場にもなった陳留であったが、既に城壁も町も修復されており、戦があった跡は残っていなかった。
城に入ると、何処を居住にするか話し合った後、貂蝉達が外に出て町に行きたいと申し出て来た。
劉吉も一緒という事で、少し考えた曹昂。
(生まれた時から宮殿暮らしだったから、外の世界を見てみたいのかな?)
護衛を連れて行くという条件で貂蝉達が町に出る事を許可した。
貂蝉達は楽しそうに話しながら、その場を後にした。
貂蝉達が居なくなると、曹昂は自分が使う部屋に戻った。
陳留に貂蝉達を連れて来たのは、気分転換の為と親交を深める為であった。
特に董白と劉吉の二人の関係を良くしたかった。
二人共、険悪でもなく無関心でもなくどう接したら良いのか分からず困惑している様であった。
(これを機に仲良くして欲しいものだ)
そう思いながら、自分の直轄の諜報部隊の報告書に目を通していた。
「……袁紹と劉虞の戦況はやや劉虞が不利か。劉虞は思ったよりも粘るな。呂布と袁術は軍備の増強中か。まぁ、こっちは予想通りだな」
冀州、并州に加え青洲にまで勢力を伸ばしている袁紹相手に意外に劉虞が粘っているなと思う曹昂。
(史実だと、公孫瓚にあっさり敗れたのに、意外に戦の才がある?)
其処は意外だなと思いつつ、曹昂は次の報告書に目を通した。
「孫策は兵を養い始めたか…………」
汝南郡太守である孫策が最近、兵を雇い始めたという報告を見た曹昂は苦い顔をしていた。
太守という身分なので、治める郡内であればある程度の自由は許されている。
その郡内で兵を養うという事は、即ち私兵を作るという事だ。
「報告書によると、現在は二千の兵を養っているが、その数は日に日に増えていく模様か」
兵を集めるのではなく、私兵を作っているという事を知ると、何の為に私兵を養っているのかその理由が直ぐに分かった曹昂。
「……独立するつもりか」
ポツリと呟いた曹昂。
それが分かると思わず溜息を吐いた。
(恩義という鎖で縛っても、独立を防ぐ事は出来なかったか)
転生して初めて出来た同性の友人でもあり、世に名高い英雄でもあった孫策。
部下に出来るかと思い、これでもかというぐらいに厚遇したが、結果、自分の手元から離れる事を防ぐ事は出来なかった。
「……父上が関羽を部下に出来なかった時はこんな気分だったんだろうな」
惜しいという気持ちが曹昂の胸を支配した。
「……まぁ、豫洲で独立はしないだろう。だとしたら、親戚が居る揚州で独立を図るか」
孫策もこの地で独立などすれば、即座に叩き潰されると分かっているだろうと思う曹昂。
揚州ならば、親戚の孫賁を含めた親戚が袁術の下に居る。
その親戚達の力を借りれば独立は難しくないと言えた。
「揚州は多くの勢力が跋扈しているから、それらの勢力を叩いてくれると思えば良いか?」
そう気持ちを切り替える事にした曹昂。
そうでなければ、やりきれない思いであったからだ。




