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狙い通り

 曹昂達は東成県近くに陣地を構えた。

 兵糧などは全て曹豹が自前で用意してくれるという事で、紀霊軍の将兵達は喜びながら兵糧を食べていた。

 まるで、宴を行っているかのように盛り上がっている中、曹昂は連れて来た将達と共に食事をしていた。

「いやいや。全く、これこそ痛快な事が起こるとはな」

 曹洪が酒を呷った後、気分良さそうに呟いた。

「確かに。あの呂布に一泡吹かせる事が出来たのは、痛快でしたな」

 史渙も同じ思いなのか笑っていた。

 まさか、呂布から一度届けられた贈り物を半分とは言え返還させるとは、誰も予想する事が出来なかった。

「まぁ、それも呂布が矢を当てる事も考えた曹昂の機転が利いたという事だがな」

「ですな」

 二人はそう言って笑い出した。

「そう言えば、孫策はどうした? 一緒に戻って来たのだろう?」

 この場に孫策が居ない事を不審に思った曹洪が訊ねて来た。

「ああ、従軍している従兄が話がしたいと言うので会いに行きましたよ」

 孫策と共に陣地に戻ると、従兄の孫賁の使者が来て話がしたいと言って来た。

 既に話は纏めたので、もうする事は殆どなかった。

 なので、曹昂は孫策をその従兄の下に行かせた。

「従兄か。つまり、袁術の軍に属しているという事だよな」

「そうなりますね」

「大丈夫か?」

 曹洪が心配そうに訊ねて来た。

「何がです?」

「いや、親族の情を使って、向こうに寝返ったりするかも知れないだろう」

 曹洪の疑問に、曹昂はそういう手もあるかと思った。

「でも、そうなりますと、義父上に寝返るという事になりますよ?」

 曹昂がそう言うのを聞いて、曹洪は直ぐに無いなと思った。

「無いな。あいつの親父は袁術の要請に従って死んだようなものだから、どう考えても仇の一人ぐらいにしか思わないだろうな」

「孫策の性格から考えますと、そうなりますよね」

 二人はそう言って、寝返る事は無いなと思った。

「まぁ、親族だから親しくなるのは良いが、味方ではないからな。そこら辺の分別はつける様に言っておけよ」

「分かりました」

 そう返事しつつ、曹昂はとやかく言う事はしなくても良いだろうと思った。


 十数日後。


 本拠地の彭城に帰還した呂布が贈り物の半分を曹昂達の下に届けた。

 思ったよりも早く来たなと思う曹昂と曹洪は笑みを浮かべた。

「呂布め。何時までも我らが領地にいれば、自分の地位が脅かされると思い、慌てて送って来たな」

「そうかも知れませんね」

 後数日は掛かるだろうなと思っていたので、早く来た事には喜んでいる曹昂。

 一応確認の為、届けられた物の量を確認した後、紀霊に約束した物が届いた事を報告した。 

 意外に用心深いのか、紀霊は届けられた物の量を確認した。

 確認したのは、呂布の事を信用してないのかと思ったが、流石に失礼だと思い曹昂は口を閉ざした。

 確認が終わると、紀霊は寿春に帰還する事を告げて陣地を引き払う命令を下した。

 曹昂達も同じように陣地を引き払い、寿春に寄り袁術に挨拶してから、許昌に帰還する事にした。


 陣地を引き払った数日後。

 曹昂達が寿春に着くと、直ぐに謁見の間に通された。

 部屋に通されると、上座に座った袁術が不満そうな顔をしているのが見えた。

 その顔を見た曹昂達は機嫌悪そうだなと思いながら、その場で跪き頭を下げた。

「殿。紀霊、ただいま戻りました」

「……うむ」

 紀霊が挨拶をすると、袁術は息を吐いた。

「報告は聞いておる。呂布め、儂を虚仮にしおって」

 袁術は怒りを理性で抑えつつ、声を上げた。

 今にも爆発しそうな感情を抑え込んでいる様だ。

「ですが、殿の娘婿であられる曹昂様の機転のお蔭で、贈物の半分を奪い返す事が出来ました」

「それは聞いているが、本当に贈った物の半分は返って来たのか?」

 袁術は疑っている様で訊ねた。

「はい。私も其処が気になり確認しました。間違いなく食糧五万石。良馬五百匹。絹五百反が返って来ました」

「そうか。それは良かったな」

 袁術は曹昂を見た。

「お主の機転のお蔭で、呂布に送った物を半分とは言え奪い返す事ができたわ。見事だ。流石は我が婿殿だ」

「お褒めにあずかり恐悦至極」

 袁術が褒めるので、曹昂は頭を下げた。

「よくやってくれた。呂布に煮え湯を飲ませる事が出来たのは痛快であった。褒美をやろう。何でも申すが良い」

 袁術が何でも申すと言うので、曹昂は少し考えた。

「……いえ、これから義父上は忙しくなると思いますので、遠慮しておきます」

「何と、褒美は要らぬと言うのかっ」

 袁術が驚くと、家臣達も同じように驚いていた。

「本来であれば義父上が呂布に送った贈り物を全て奪い返すのが筋というものだと言うのに、半分しか返ってきませんでした。我が身の不才にございます。ですので、その様な私に褒美など、とてもとても」

 悔しそうに言う曹昂。

(まぁ、全部返せと言っても返ってこなかっただろうけど、此処は力不足だという事を強調しよう)

「・・・・・・おお、儂の為にそこまで言ってくれるとは。儂は本当に良い婿を持った」

 袁術は曹昂の言葉に感動したのか、目から涙を零した。

「しかし、援軍に来て、何の褒美も渡さずに返したとなれば、儂の気が引ける。此処は受け取って貰えぬか?」

「義父上が其処まで言うのであれば」

「おお、そうか。では、用意できるまで暫く滞在してもらうぞ」

「分かりました」

「うむ。今日は呂布に一泡吹かせた事を祝って宴を行うぞ。皆の者っ」

 袁術がそう言って家臣達は声を挙げて喜んだ。


 宴が始まるまでの間、曹昂は別室で控えていた。

 その部屋には曹昂と共に従軍した兵士がいた。

「部下はどのくらい連れて来たのかな?」

「三十人程」

 曹昂にそう報告する兵士は、ただの兵士ではなく隠密部隊『三毒』の者であった。

「それだけいれば十分だね。僕達が許昌へ帰還する前に、この城と城付近の図面を作ってくれ」

「はっ。何時頃まで用意すれば良いでしょうか?」

「……義父上の事だ、あれだけ家臣達の前で宣言したから、そこいらにある物を用意しないだろうし、少しは時間かかる。それでも、足りなかったら、適当な理由を付けて時間を作るから」

「承知しました。では」

 兵士は一礼し立ち上がると、部屋から出て行った。

「……ふふふ、義父上の性格が変わっていなくて良かった」

 袁術との付き合いは、何だかんだ言って長い曹昂はその性格を熟知していた。

 なので、寿春に留まる口実を作る事など造作も無かった。

(いずれは、この地も手に入れる事もあるだろうしな。事前にどんな土地か知っていても遅くはないからね)

 そう思い空を見上げる曹昂。

(……いずれ、義父上とも戦う事になるかもな。その時は、袁玉はどうするべきか)

 まだ、そうと決まった訳では無いが、そうなるかも知れない事に曹昂は悩みだした。

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