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東成県侵攻

 許昌を出立した曹昂率いる三千の軍は、寿春へと向かった。

 その行程は何の支障も無く進む事が出来た。

 寿春に着く前に先触れを出した。その先触れが戻ってくると「袁術殿自らが出迎えをしてくれると申しておりました」と言うのを聞き、凄い歓待だと思いながら寿春へ向かった。

 そうして、寿春まで着くと、城外に人だかりが出来ていた。

 曹昂が目を凝らして見ると、その人だかりは武装した兵士が列を作っていた。

 その列の中央には着飾った袁術の姿もあった。袁術の後ろには、文官武官達が整然と並んでいた。

(援軍で来ただけで、此処まで礼を尽くすのは、一応娘婿という立場だからだろうな)

 此処まで多くの人を動員して出迎えるのを見た曹昂はそう思った。

 向こうも礼を尽くしているので、こちらも礼を示そうと、曹昂は馬から降りて、袁術の元まで行く。

「お久しぶりです。義父上。ご壮健そうで何よりです」

 曹昂が一礼し頭を下げた。袁術はニコニコと笑顔を浮かべていた。

「よく来てくれた。婿殿。私の要請に従ってくれて嬉しく思うぞ」

「他ならぬ義父上の頼みですから、父も承諾してくれました」

 出兵の挨拶をした時、曹操は不満そうな顔をしていたので、恐らく援軍に応じるのは嫌なのだろうなと内心で思う曹昂。

「ははは、そうか。私は良い友人を持ったものだ。こうして、援軍に来てくれるのだからな」

 袁術は笑い出した。

「さぁ、何時までも此処に居ても仕方がない。中に入ろうぞ」

 袁術が入るように促したので、曹昂は馬に跨ると、袁術は馬車に乗り込んだ。

 曹昂は袁術が乗る馬車に横付けしながら、共に城内に入って行った。


 城内に入った曹昂達はそのまま軍議を行う部屋へと通された。

 兵達の事は曹洪達に任せた曹昂は副官として孫策を連れて、部屋に入った。

 袁術の配下の者達も既に席に座っていたので、曹昂達も用意されている席に座った。

 暫し待つと、出迎えた時に比べると少しだけ装飾品を減らした服装に着替えていた。

 軍議を開くだけであれば、あのままの衣装で良かったのではと思うが口には出さない曹昂。

 袁術が席に座ると、先に座っている者達を睥睨する。

「曹操からの援軍が来た事に加えて、呂布には既に贈り物を届けた。これで劉備が籠もる東成県に攻め込む事に何の憂いも無く東成県へ攻撃する事が出来るぞ」

 袁術がそう述べた後、配下の武将の紀霊を見た。

「紀霊。お主に十万の兵を与える。援軍と共に東成県に向かい、劉備めの首を取って、私の前に持って来るのだっ‼」

「はっ」

 袁術の命令に紀霊は一礼し答えた。

 そして、袁術は曹昂を見た。

「曹昂よ。紀霊と共に出陣して貰うが、構わんな?」

「承知しました。それとお聞きしたい事があります」

「何じゃ?」

「呂布に贈り物と言いましたが、何を送ったのか教えて頂けますか?」

 既に徐州に居る密偵に調べさせて、劉備の背後を襲うように要請した時に、どれ程の量を贈り物として約束していたかは知っていた。

 今回の戦はその約束を守って、約束した量の贈り物を届けたのかどうかを知る為に曹昂は訊ねた。

「ふん。食糧十万石。良馬千匹。絹千反を贈ったわ。以前に約束した量の倍を贈ったのだ。呂布も劉備を助ける事は無かろう」

「……だと良いですね」

 袁術は心底呂布は裏切る事は無いだろうと思っている様であった。

(唇亡びて歯寒しという言葉がある様に、呂布は劉備を見捨てないだろうな)

 曹昂はそう思っても口に出す事は無かった。出立の挨拶をした時に父曹操から、

『袁術と呂布を争わせて、互いの戦力を削れ』

 と命じられていた。

 もし口に出せば、曹操の命令を実行できないと思い伝えなかった曹昂。

 その後、曹昂は軍議の成り行きを聞くだけで発言などしなかった。


 数日後。


 紀霊率いる十万の袁術軍が劉備の駐屯している東成県へ侵攻した。

 兵数の差があまりに有り過ぎるので、劉備は籠城し呂布に援軍を頼んだ。

 阻む者が居ない事で、怒涛の勢いで進軍する紀霊軍。

 東成県が見える所まで来たところで、その前に立ち塞がる一団が居た。

 その一団は『呂』と書かれた旗を、紀霊軍に良く見える様に掲げていた。

「これは、どうした事だ?」

 紀霊は目の前に布陣している呂布軍を見て怒りを覚えた。

 主君の袁術からの贈り物を貰ったと言うのに、それで進軍を遮る事に憤っている紀霊。

「紀霊将軍。此処はどういう状況か分かりません。呂布軍から少し離れて、陣を張りましょう」

「う、うむ。そうだな」

 曹昂がとりあえず陣を張ろうと言うと、紀霊は反対する事無くその意見に従った。

 呂布軍から少し離れた所に陣を張る袁術軍。

 陣を張り終え、暫しすると呂布軍から使者がやって来た。

「我が主からの文をお届けに参りました」

 そう言って使者は紀霊に文を渡した。

 文には、話があるので、こちらの陣に来られたしと書かれていた。

「うぅむ。呂布め。何を話すつもりだ?」

 紀霊は文を読むと訝しんでいた。

 もしかして、呼び出して自分を暗殺するつもりかという考えが頭をよぎった。

 横からその文を読んでいた曹昂は紀霊に訊ねた。

「どうします? 行きますか? それとも断ります?」

「そうだな。…………呂布に言いたい事があるのでな。行こうと思う」

 少し考えた紀霊は行く事にした。

「では、僕も共に行きますね」

 曹昂も付いて行くと言うと、紀霊は困った顔をした。

「いや、しかし…………」

 援軍の将にして主君の娘婿である曹昂を危険な場所に連れて行く事を躊躇っている様であった。

「ご心配なのは分かります。ですが、話があると書かれていますので、呼び出して暗殺する様な事はしないでしょう」

「……貴殿がそう言うのであれば」

 紀霊は曹昂を供に加える事にした。

 曹昂はついでにと、孫策も連れて行っても良いかと訊ねた。

 一人も二人も同じような物かと思ったのか、紀霊は孫策も連れて行く事にした。

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