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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第一章

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29/1014

いざ、西華へ

 六月某日。


 曹操軍と孫堅軍は譙県を発った。

 本来は曹操は譙県に来たのは調査の為であった。

 なので、長居するつもりはなかった。

 だが、孫子の末裔と言われる孫堅が滞在するというので、面白い話が聞けるだろうと思い水飴が出来るまでの間、滞在した。

 そうして酒を交わしながら滞在していると伝令がやって来た。

 書状の内容は豫州西華県にて黄巾党の残党が集結しているので、直ちに帰還せよと朱儁、皇甫嵩両将軍の連名も書かれていた。

 その書状を受け取るなり、曹操達は出立の準備を整える。

 幸い水飴も書状が届く前日に頼まれた量を作り終えたので問題無かった。

 孫堅は水飴を大量に用意してくれた曹昂に感謝しながら出立した。

 長社へ向かう道すがら、孫堅は曹操と轡を並ばせながら談笑していた。

 歳がそれほど離れていないので、仲良く話せる様であった。

「それにしても貴殿は良い息子をお持ちだな」

「いや、本を読むのが好きなだけの愚息です」

 孫堅が曹昂の事を褒めると、曹操は謙遜なのか大した事は無いと答える。

「ご謙遜を。九歳の子供が墨子を読むなどまずない事です。その上、沢山の兵器を作る様に指示するとは、神童と言っても良いと思いますが」

 孫堅が言っている兵器とは夜叉檑と狼牙拍だけではなかった。

 万が一城門を突破された際に作った塞門(さいもん)刀車(とうしゃ)と言われる前方の板に数十の刀を取り付けた押し車だ。

 車を押して敵に攻撃するという兵器でもあり城門が壊された時に応急の城門として使える物だ。

 それも幾つも用意してあった。

 塞門刀車を見せた時曹昂は使う機会が無かったのは残念とも言っていた。

 曹操はそれらの兵器よりも、城に取り付けられた防衛装置の方が驚いた。

 夜叉檑と狼牙拍にも驚いたが、城壁から矢が飛んで来たとか楼閣から鉄球の雨が降り注いだとか聞いていたので、そちらの方が何をしたのか気になっていた。

 鉄球の雨については、楼閣に取り付けられている石落としという物から鎖付きの鉄球を落としただけであった。

 もう一つの城壁から矢が飛んでくるという話の方は城壁に狭間という穴を作り其処から矢を放ったのだ。

 しかし、それでは城壁の下の方しか矢を放てないだろうと思ったが、曹昂は城壁の裏側に足場を作りその高さに合わせて狭間を作ったそうだ。それにより等間隔で縦に三つの穴が開けられて其処から矢を放つ事が出来た。

 曹操はその曹昂の発想を聞いて衝撃を受けた。

 城壁に穴を開けて、其処から攻撃する事よりも城壁の裏側に足場を作るという事にだ。

 防衛の為とは言え城壁は狭い。其処に足場を作れば移動が楽になる。

 そんな事を思いつかなかった自分の知識もまだまだと実感した。

(あやつのあの発想は何処から来るのだ?)

 曹操はまだ九歳の息子が何処でそんな事を知ったのか気になった。

「・・・・・・徳殿。孟徳殿。どうなさった?」

「ああ、失礼。ちょっと、息子の事を考えていました」

「ふふふ、気持ちは分かる。私も同い年ぐらいの息子はいるが、貴殿の息子と比べると天と地の差があるからな」

「ほう、貴殿には御子息が居るのか?」

「貴殿の息子に比べると、かなり頭が悪いがな。その分、此処が発達しているがな」

 孫堅は力こぶを作る。

 それは暗に頭の中まで筋肉と言っている様であった。

「その上、感情に任せて行動するところがあって自制が出来ん。それが頼もしいところもあるが、些か心配している」

「ふふふ、文台殿の手を焼かせるとはかなりの悍馬の様で」

「其処は確かに。むっ」

 孫堅が話をしていると、前方から集団が見えた。

 それを見た曹操も部下に何時でも戦闘できる様に準備させた。

 だが、それも直ぐに止めさせた。

 その集団が『王』の字が書かれた旗を掲げていたからだ。

「あの装備は官軍の様だな」

「この辺りで『王』の旗を掲げた官軍と言えば豫州刺史の王子師殿か」

 王子師とは後に呂布と共に董卓を暗殺する司徒王允の事だ。字は子師という。

 この時期、王允は豫州刺史をしていた。

 刺史とは州の長官の事だ。

 ちなみに太守は郡の長官の事を差す。

「確か、私が洛陽に出発する時に豫州刺史に就任すると共に別動隊として豫州に派遣されていたな」

 曹操がどうして王允が此処に居るのか孫堅に教えた。

「成程。という事は、王子師殿も我らと同じく朱将軍の部隊と合流だろうか?」

「恐らく」

「であるならば、同道するのが道理だな」

「確かに」

 曹操達は王允の部隊と合流する事にした。


 曹操達が王允の部隊に近付くと、王允の部隊から数騎出て来た。

 その騎馬隊の中の中央に居る人物を見た曹操は隣に居る孫堅に教える。

「あの中央に居るのが王子師殿だ」

「あの方が。ふむ、成程」

 まだかなり距離があるが、孫堅の目には王允の顔がハッキリと見えていた。

 年齢は四十代後半の初老といえる男性であった。

 老成した品の良い顔立ち。

 整った髯髭と髪にも白い物が混じっていた。

 駆けている馬の手綱をしっかりと掴み危なげもない。これは日頃から馬に乗っているという事だ。

 この時の王允の官職は豫洲刺史であったが、その前は侍御史という官吏の監察・弾劾をするという文官職であった。

 武官でもない文官なのに馬に乗り慣れているのは、王允は名儒者でもあるが騎射も得意とする文武両道の人物であったためである。

 王允達が曹操達の前まで来ると、王允が前に出て来て一礼する。

「これは孟徳殿。お久しぶりですな」

「子師殿も洛陽で会った時以来ですな。お元気そうで何よりです」

「そちらは大活躍しているようですな。私の居る所まで長社と陽翟の戦いで挙げた戦功が聞こえてきましたぞ」

「ははは、それはお耳汚しでありましたな」

「いやいや、そんな滅相も無い。ところで、孟徳殿。こちらの方は?」

 挨拶にしては長い挨拶を終えると、王允は曹操の隣に居る孫堅を見る。

「こちらは孫文台殿です。朱将軍の要請により参ったそうです」

「お初にお目にかかります。孫堅。字を文台と申します」

 曹操から紹介された孫堅は王允に一礼する。

 王允も返礼して孫堅を見る。

「其方が江東で名を轟かせている孫文台殿か。いやはや、こうして会って見ると噂よりも素晴らしい御方とお見受けする。正に聞きしに勝るとはこの事ですな」

「過分なお言葉恐縮の至りです」

 王允の言葉に頭を下げる孫堅。

「ところで、子師殿。貴方はこれからどちらに向かうので?」

「うむ。儂は朱、皇甫両将軍への報告と加勢に参った」

「報告と言いますと?」

 加勢はまだ分かる。

 これから西華県に居る黄巾党の残党を壊滅させる為に呼ばれた曹操達。

 王允もそれに加わるのだろうと簡単に予想できた。

 だが、報告と言うのが分からなかった。

「それについては両将軍に直接話さなければならない事なので、お主らにも話せぬ。悪く思わないでくれ」

 王允の口調から、これは余程重要な機密なのだろうと察した曹操達はそれ以上何も訊かなかった。

「子師殿。我らも朱、皇甫両将軍の下に向かいますので、同道いたしましょう」

「そうじゃな。そうさせてもらおうか」

 王允は曹操の言葉に快諾して共に朱、皇甫両将軍が居る西華県へと向かった。


 王允と合流してから数日後。

 ようやく官軍の陣地が見えて来た。

 曹操達が陣門に着くと、声を掛けるまでもなく陣門が開いた。

 陣門が開いたので、曹操達は遠慮なく陣内へと入って行く。

 陣の中に入り兵舎に着き、其処で馬から降りると誰かがやって来た。

「おお、孫堅。久しぶりだな」

 やって来たのは朱儁であった。

「これは公偉殿。ご無沙汰しております」

 孫堅は朱儁を見るなり一礼する。

「そう堅苦しい事はしなくて良い。君と私の仲ではないか」

 朱儁は孫堅の肩を親し気に叩く。

「はっ。では、朱儁殿」

「うむ。君の活躍は洛陽に居る私の所まで聞こえて来た。同郷の友人として、私の鼻が高かったぞ」

「ありがたい。兄の様に慕っている貴方にそう言われて、私も嬉しく思います」

「そうかそうか。ははは、これから軍議を行うが、その後は少し飲もうぞっ」

「はい。ご相伴させてもらいます」

 朱儁は機嫌良さそうに孫堅の肩を叩き笑う。

 一頻り笑うと朱儁は顔を引き締めて曹操達を見る。

「孟徳殿。そして、子師殿。よく来てくれた。これより軍議を行う。参ろうぞ」

 そう言って朱儁は案内をしてくれた。

 朱儁が案内した天幕には既に皇甫嵩他に部将達も皆揃っていた。

 大きな卓の上には此処西華県の詳細な地図が描かれていた。

 部屋に入ると朱儁は「では、後で」と言って離れて行き、自分用に用意された椅子の所に向かう。

 曹操達も用意されている椅子に座る。

 曹操達が座るのを見て、皇甫嵩が口を開いた。

「皆、揃ったようなのでこれより軍議を行う。議題は此処西華県に居る黄巾党の残党についてだ」

 皇甫嵩が卓を指差す。

「黄巾党は我らの陣地から南に数里ほど行った砦に立て籠もっている。密偵からの報告ではその数約八千」

「八千か。残党だからかそれほど多くないな」

「確かに。皇甫将軍。その砦は何時頃作られたのですか?」

「調べたところ、大昔からある砦で、汝南太守の趙謙の部下が砦に籠もったが、奮戦むなしく落城した。そのお蔭で趙謙は助かったがな」

「という事は廃砦という事ですか?」

「うむ。如何に八千の兵で籠もっていようと、我が軍は王子師殿率いる一万。孫文台殿率いる三千。総勢五万にも及ぶ軍となる。廃砦に籠もろうとも数で押せば問題ない」

 約六倍の戦力差だからか、安心して攻める事が出来ると言う皇甫嵩。そして、卓の上に置いてある地図を叩く。

 その叩いた所は話に出た砦の所であった。

「この砦の立地は南方を森で囲まれているだけで、三方から攻める事となる。其処で攻撃する所をこの場で決める」

 皇甫嵩は駒を置く。

「北は私皇甫嵩と孟徳殿率いる三万。西は朱将軍と文台殿率いる一万三千。東は王允殿率いる一万とする」

「妥当ですな」

「儂もそれで良いと思う」

「こちらも問題ありません」

 皇甫嵩の案に誰も反対しなかった。

「で、皇甫将軍。攻撃は何時頃ですか?」

「明日一日休養を取り、その次の日に攻撃する」

 皇甫嵩が二日後に攻撃すると言う。

 その意見には部将達から待ったが出た。

「一日休まなくても良いのでは? 明日の朝を迎えると同時に攻めても良いでしょう」

「残党に時間を与える必要は無いと思います。時間を置けば逃げ出す者が出ます」

 部将達の意見を皇甫嵩は切り捨てた。

「逃げた所で何処に行く? 奴らの首魁である張角の所か? 其処は盧将軍率いる官軍が包囲している所だぞ。荊州は今趙弘とかいう者を指揮官にして宛城に籠もっているのだぞ。逃げても行く所など無いではないか」

 皇甫嵩の意見は的を射ていた。

 盧植率いる官軍は連戦連勝を重ねている上に張角は広宗に篭城して包囲していた。

 荊州の南陽にて蜂起した張曼成もこの時期には南陽太守に任命された秦頡が張曼成を攻めて捕縛後に処刑していた。

 副将の趙弘が指揮をしたのだが、張曼成が刑死した事で士気が落ちたので盛り返す為に宛城に篭もった。秦頡が宛城を包囲しているので逃げ込む事も出来ない。

 それらの事を考えると、逃げても行く所など無かった。

「確かにそうですな」

「という訳だが、何か異論はあるか?」

 皇甫嵩が訊ねるが、誰も異論は無かった。

 そして、軍議は終わった。

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