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これが江東の虎と言われた傑物か

 時を少し遡り、曹操が来る数日前。


 譙県。

 黄巾党の捕虜を夏候惇と夏侯淵と曹洪と曹家の私兵に組み込んでから数日が経った。

 まだ私兵に組み込んでギクシャクしている所はあったが、概ね問題は無かった。

 攻めて来たと言っても、城に住んでいる住民に被害は無く、あるのは城外にある畑ぐらいだ。

 荒らしたのは彼等なので元に戻すのも彼等に任せるべきという事で、見張を付けて踏み荒らした畑を直させていた。

 文句を言うかと思われたが、特に不満を言う事無く元黄巾党の兵達は畑を直していった。

 負けて捕虜になって奴隷として売られる様な事にならないで、最低限の生活は出来るので文句は無い様であった。

 そうして、畑を直していると、東から旗を掲げた一団が見えた。

「何だ?」

 畑を直していた元黄巾党の兵が手を止めて日差しを作りながら、その一団を見る。

「どうした?」

「何か、何処の部隊がこっちに来るんだが?」

 仲間である元黄巾党の者が手を止めている仲間を見て、何事かと思い訊ねるとその者が何かを見ているので、視線をそちらの方に向ける。

「・・・・・・あれは、官軍か?」

「多分。そうだろう。一応知らせるか」

「だな」

 そう話し合って元黄巾党の兵達は見張りに官軍が来ている事を告げに行った。


 それから少しの時が経ち譙県の県城の城門前。

 其処には東から来た一団が城門前に居た。

 その数、ざっと見て三千。

 その一団の兵の武装は不揃いで、鎧を着ている者も居れば粗末な服装に槍だけ持った者も居る。

 まるで、官軍と義勇軍が一緒に編成された一団の様であった。

 武装こそバラバラだが、その一団の者達は兵から隊長に至るまで皆屈強であり、武器にも長い間使っていたからか細かい傷だらけであった。

 正に歴戦の部隊の風格であった。

 その一団が掲げている旗には『孫』の字が書かれていた。

「一団に告げる。貴様等は何者かっ」

 城壁の上にいる夏候惇が大声を出して訊ねた。

 官軍と義勇軍が入り混じっている部隊など見た事が無いのでそう尋ねて、率いているのが誰なのか知る必要があった。

 夏候惇の声に反応して一団から、騎馬が一騎出て来て城門近くに来た。

「我らは徐州下邳郡の下邳県丞である孫文台の軍なりっ。我らは右中郎将の朱公偉の下に馳せ参じる道中であるが、暫くの間、そちらの城にて休憩させて頂きたい‼」

 騎馬武者がそう言うと夏候惇はこれは自分で決める事では無いと判断する。そして。

「暫し待たれよ!」

 夏候惇は他の者達を集めて話し合った。

 そうして、少しだけ待っていると。

 城門が開いた。

 其処から夏候惇と曹騰が出て来た。

 それを見て一団を率いている孫堅が馬から降りて、夏候惇達の下に行く。

「下邳県丞の孫堅。字を文台と申します。厚かましくも休憩させてほしいという願いを聞き入れて頂き有り難く思います」

 頭を下げて一礼する孫堅。

「丁寧な挨拶痛み入る。儂は曹騰。字を季興と申す」

「私は夏候惇。字を元譲と申します。武名高き孫文台殿と出会えて嬉しく思います」

 返礼する曹騰達。そして、二人は孫堅を城内へと案内した。


「という感じで文台様が来て、それから暫く兵に休息を与えると言って逗留しているんだ」

「成程のう。それで『孫』の旗が掲げられているのか」

 夏候惇の説明を聞いた曹操は城に『孫』の旗を掲げられている理由を知った。

 曹操は譙県城に着くなり城壁に『孫』の旗が掲げられていたので、何があったのか気になっていた。

 城内に入ると、直ぐに家族の安否を確認し、そして信頼する夏候惇達からどうしてこんな状況になったのか訊ねた。

「数日前に来たのなら、そろそろ出立しても良いだろうに」

「兵糧の調達に手間がかかっているとかで、未だに出立する様子が無いようだぞ。孟徳」

「別に兵糧ぐらいならあげれば良かろう。何の調達に手間が掛かっているのだ?」

「水飴だそうだ」

「水飴? どういう事だ?」

 何で水飴を欲しがるんだと首を傾げる曹操。

「すいません。父上。それについては、僕が関係していまして」

 曹昂も話の中にこっそりと入っていた。

 何故、こっそりかと言うと堂々と入ると丁薔にバレてしまい怒られるからだ。

 彼女からしたら、まだ曹昂は子供だから曹操達の話の中に入っても邪魔になるだけだろうと思っているからだ。

「昂。どういう事だ?」

「文台様がどんな人なのか会って見たくて、手土産に水飴と蜂蜜をそれぞれ壺に入れて持って行ったんです。そうしたら」

 曹昂が孫堅の下に行くと、丁度孫堅は厩舎に居ると警備の兵に聞いたので其処に向かう。

 其処で普通に挨拶して手土産の蜂蜜と水飴を見せていると、孫堅の傍に居た馬が首を伸ばして蜂蜜と水飴の匂いを嗅いで口を開けて両方を舐めだした。

 孫堅はそれを見て慌てるが、曹昂は冷静であった。

 前世で読んだ馬に関する本の中には、馬術競技などを行う馬には砂糖を与えたと書かれていたのを覚えていたからだ。

 蜂蜜も水飴も甘味料なので与えても問題は無かったからだ。

 そんな事があったが、その後は特に少し話をして終わった。

 手土産は馬に食べられたので、その後で人を遣り二つとも届けた。

 問題はその後に起こった。

 翌日。孫堅が直接、曹昂の下にやってきた。

 曰く、水飴と蜂蜜を与えてからというものの何を与えても食べようとはしない。

 それで、水飴を掛けた飼い葉を与えると食べだした。なので、少しでいいので水飴を分けてくれないかと。

 こちらとしても分けるのは良いのだが、その時水飴を切らしてしまった。

 作るのに時間が掛かると言うと、孫堅は。

『金は払う。大量に作ってもらえないだろうかっ』

 と頼まれた。

「という訳で、今急ピッチ、おほんおほん、・・・・・・急速に作らせています」

 思わず現代語を言ってしまいそうになったが、咳払いして誤魔化した曹昂。

 不自然な咳払いに首を傾げつつ曹操は訊ねる。

「どのくらいの量なのだ?」

「ええっと、壺で五百です」

「壺一つにいくら出すと言った?」

「銀五枚だそうです。というよりも、もう銀二千五百枚渡されたので、作らないといけないんですけどね」

「ほう、中々の値段だな。だが、水飴を作るのは時間が掛かろう」

「はい。黄巾党に攻められた時に閉鎖していた製作所を再開させて作らせています」

 余談だが、その製作所が再開した事で化粧品を作る事が出来た。

 不機嫌であった卞蓮の機嫌が良くなった。

「ふむ。ところで、どうして文台はこの豫州に来たのだ?」

 孫堅が居た徐州と豫州は隣同士ではある。

 だが、徐州は黄巾党の本拠地でもある冀州にも近い。

 戦功を立てたいのであれば、そちらの方が立てる事が出来るだろうと思う曹操。

「それについては、話をした時に聞きました」

「おお、流石は我が息子。で、どうしてだ?」

「朱儁将軍と同郷で自分よりも五つ上の友人でその縁で仲良くしており、今回豫州に来たのは朱儁将軍に呼ばれたからだそうです」

「そういう訳か。それで」

 曹操は劉備達義勇軍が盧植の下に行くと言って許可したのはそういう訳だったのかと理解した。

 何処の馬の骨かも分からない義勇軍よりも、同郷の友人である孫堅率いる軍団の方が遥かに頼りになると思ったからだ

「父上?」

「いや、何でもない。それよりも昂よ」

「はい」

「孫文台に会って、お前はどう思った。率直な意見を聞かせろ」

「・・・・・・・」

 曹操にそう言われて、曹昂はどう言うべきか少し頭の中で考える。

「・・・・・・豪傑というのはああいう人なのだろうと思いました」

 曹昂は孫堅に会った時の事を思い出す。

 前世で見たゲームやアニメみたいに無精髭を生やしている訳でも無く赤毛で碧眼でもなかった。

 普通に黒い髪で口髭を生やしている男性であった。

 ただ、赤頭巾を被っているのは小説通りだった。

 大きな身体に太い腰でガッチリしている体格だった。見るからに強そうな雰囲気を出していた。

「勇敢にして剛毅という性格です」

「ふふふ、我が息子は私を乱世の奸雄と評した許子将にも勝るとも劣らぬ目を持っているようだ」

「褒め過ぎです。父上」

 曹操の褒め言葉に曹昂は謙遜する。

 許子将とは、字を子将と言い、本名は許劭と言う。

 この時代で人物批評家として有名な人物であった。

 月に一度に行う人物評論会の事を『月旦評』と言って行っていた。

「まぁ、兎も角、さっさと水飴を作って文台殿にやれば問題無いな」

「はい。そう思います」

「それだけ分かれば十分だ。後は任せたぞ。昂」

 そう言って曹操は部屋から出て行った。

 夏候惇達も部屋を出ていったので曹昂も部屋を出ると、

「昂。また、貴方はっ」

「げっ、母上⁉」

 部屋を出た所で丁薔と出くわしてしまった。

 曹昂は捕まる前に逃げようとしたが、捕まってしまい部屋に連れていかれ説教を受けるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いい加減、誰か丁薔に、あまり曹昂を過剰に管理するのはやめろと言った方がいいんじゃないかと思います。曹昂の知恵に助けられる事も多いから、子供扱いされて家に閉じ込められるのは困る、と言わないと。…
[一言] >赤毛で碧眼でもなかった。 それ『そんけん』違いだから。 今居る赤ずきんさんの『そんけん』は赤毛で碧眼と言われてる『そんけん』のパッパだから。
[一言] > 「昂。また、貴方はっ」 >「げっ、母上⁉」 …良かったですね。 もし、セリフが「『ジャーンジャーンジャーン』げぇっ、母上〜⁉︎」 でしたら。。。 死亡フラグでしたので(笑)
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