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別れは出会いの始まり

 陽翟の戦いを終えた官軍は一度、長社に戻り軍を再編させる。

 そして、壊滅した黄巾党の残党の掃討に掛かった。

 軍議が行われている部屋では、黄巾党の残党の掃討の報告が次から次へと齎される。

 そんな中で陽翟の戦いにて捕虜にした黄巾党の兵から気になる情報が齎された。

「なに? 波才が汝南に撤退したのは其処に予備兵力があったからだと」

「はい。その捕虜が言うには、大軍を持って譙県を攻めたが敗退したと言っております」

「大軍と言うと、どの程度の数だ」

「その者が言うには、三万五千だそうです」

「「「三万五千‼‼‼」」」

 その報告を聞いていた軍議に参加していた者達は兵の口から出た数を聞いて驚愕していた。

 もし、それだけの数の軍が陽翟の戦いに参戦していれば、勝利する事が出来たのか分からなかったからだ。

「それで、その城は、どうやって、それだけの大軍を撃退したのだ?」

 朱儁は目を見開かせながら訊ねた。

「その捕虜が言うには、城壁の上からと城壁から絶え間ない矢が放たれ、城壁からは棘が付いた丸太と板が落下して何度も侵入を拒ませ、更に城門の上にある楼閣からは鉄球の雨が降り注ぎ、城壁を幾ら攻撃しても傷一つ着く事がない魔の城と申しておりました」

 兵はそんな馬鹿なと思いながら捕虜から聞いた事をそのまま口にした。

「・・・・・・何だ。その報告は‼ 荒唐無稽にも程があるであろうが⁉」

まさしくっ。その捕虜は負けた腹いせに適当な事を言っているのではないのですか?」

 兵の報告を聞いた朱儁、皇甫嵩とその部下の者達はあまりにふざけた報告なので怒りを示した。

 楼閣から鉄球が降って来たとか城壁から丸太と板が落ちてきたというのは、まだ理解できる。

 守城戦では矢を放つ以外にも石、瓦礫、鍋などを落とす。

 だが、城壁から矢が放たれるとか城壁を幾ら攻撃しても傷一つ付かないのは真実味が無かった。

 どう考えても嘘としか思えない朱儁達。

 その話を聞いた曹操は譙県という単語を聞いた時から、城にそんな仕掛けを施したのが誰なのか直ぐに分かった。

(息子よ。お前は何時の間に呪術師になったのだ?)

 報告を聞く限りでは曹昂が何かの(まじな)いを使ったのではと思われても不思議では無かった。

 そして、このままでは不味いと思う曹操。

(今、あいつを世に出すには早すぎる)

 呪いを使ったのか、それとも大秦の技術を使って城を防衛したのかは、曹操には分からなかった。

 曹昂はまだ九歳になったばかりだ。そして、大秦の技術書を読んで得た知識を狙ってくる者が現れる可能性があった。

 自分の傍に居るのであれば大丈夫だろうが、必ずしもそうとは限らない。

 自衛が出来るまで世に出すつもりは無いと考える曹操。

「うぅむ。黄巾党の蜂起に紛れて、何処かの邪教が城を占領して呪いで城を守っているのか?」

「だとしたら、両将軍。どうなさいますか?」

「此処は誰かを調査に向かわせるのが賢明?」

「それとも、残党の掃討が終わり次第、その城に向かうか?」

 二人はどうするか頭を悩ませていた。

「皇甫将軍。朱将軍」

 悩んでいる朱儁達に曹操は声を掛ける。

「何か。孟徳殿」

「その様な得体の知れない城は黄巾党よりも厄介でしょう。私が麾下の兵を連れて調査しにまいります」

「おお、行ってくれるか。孟徳殿」

「はっ。譙県は私の故郷です。土地勘も有りますので、私にお任せ下さい」

 曹操は胸を叩いた。

 曹操がそう申した事に加えて、得体の知れない城に恐怖したのか皇甫嵩達は曹操に任せる事にした。


 軍議の席で譙県に向かう事に決まった曹操は出陣の準備を整えていた。

 部下に指示を出して自分の準備を整えていると、部下から自分に面会したいという者が来たと聞いて、曹操は史渙に任せて、曹操はその者に会う事にした。

 曹操が部下に案内された所には劉備が居た。

「これは玄徳殿。何か御用で」

「はい。お忙しい中と思いましたが、次の戦地に向かいますので別れの挨拶に来ました」

「別れとは、貴殿ら義勇軍は朱将軍の指揮下に入ったのだと思ったが」

「この豫州での戦いは一段落つきましたので、冀州の黄巾党を相手にしている師である盧植先生に報告に行こうと思います」

「ほぅ、貴殿は盧子幹殿の弟子であったか」

 ここで言う盧子幹とは盧植の事だ。子幹は盧植の字だ。

「はい。先生が幽州涿郡に居た時に学問を教わりました」

「それは凄い。我が国で儒学者として有名な御方に師事できるとは」

「はい。ですので、孟徳殿にお別れを言いに来ました」

「そうか。残念だ。貴殿とは共に轡を並べて、この乱を鎮められると思ったのだがな」

「私の様な凡才をそこまで買って頂きありがとうございます」

「玄徳殿。盧子幹殿に会った後はそのまま指揮下に入るのか?」

「それについては、多分、そうなるでしょうな」

「そうか。では、玄徳殿。縁あれば、また」

 曹操は一礼すると劉備も一礼する。

 そして、二人は別れた。

 歩きながら、曹操は思った。

(いずれ、部下に出来る機会もあるだろう。その時にでも勧誘すればいい)

 そう思い曹操は今は譙県に向かう準備を再開した。


 準備を終えた曹操は譙県へと出発した。

 それから暫く行軍すると、譙県に後少しで着くという所まで来た。

「そろそろ着きますな」

「うむ。さて、どんな城になっているのやら」

 曹操が城を目を細めて城壁を見た。

 其処には『孫』という一字が書かれた旗が掛かっていた。

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