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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第五章

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用兵の道は

 濮陽を出発した曹昂軍は豫州の許県に着くと、事前に連絡していたお蔭で、許県には五万の兵が用意されていた。

 参加する将は孫策、刑螂、劉巴。加えて董白も参加した。

 曹昂は付いてこなくても良いと言うのだが、董白本人は絶対に付いて行くと言って聞かないので連れて行く事にした。

 編成を済ませ、総勢七万五千の軍となった。

 編成が済むと許県の城外で曹昂は留守居役として残す蔡邕、甘寧、夏侯淵の三人に言葉を交わした。

「では、先生。留守の間は任せました」

「はっ。お任せ下さい」

 曹昂は留守居役として残す蔡邕に豫洲の事を任せると言うと、蔡邕は一礼する。

「二人も任せたよ。父上から援軍要請が来たら応えるように」

「お任せを」

「こっちは任せろ。お前も頑張って来いよっ」

 甘寧は心得たとばかりに一礼し、夏侯淵は胸を叩いた。

 曹昂は二人を頼もしそうに見た。そして、馬に跨り軍と共に進発した。


 数日掛けて、曹昂軍は徐州の州境を越えて下邳国取慮県に着いた。

 七万に及ぶ大軍に包囲された取慮県の城壁に居る守備兵達は困惑していた。

 大旗には『報仇雪恨』と書かれていた。

 このままでは皆殺しにされると思えば、誰でも怯えるものだが、その隣には『免死』と書かれた旗も掲げられていたからだ。

 どういう事なのか分からない守備兵達。

 そう思っている所に一騎の兵が駆けて来た。

 守備兵達も何か伝えるのかも知れないと思い、その騎兵を注視した。

 騎兵が城壁の近くまで来ると声を張り上げた。

「城内に居る兵達に告げる! 我らが敵は陶謙只一人。故に其方らは敵に非ず。降伏するのであれば、命だけは助ける。戦うと言うのであれば、女子供老人関係なく城内に居る全ての命は根絶やしになると思え‼」

 騎兵の声を聞いても守備兵達は水を打たれたかのように静かであった。

半時(約一時間)ほど待つ。それまでに決めるが良い!」

 騎兵はそれを言い終えると、駒を翻して陣へと戻って行った。

 騎兵の言葉を聞いていた守備兵達は暫しの間、呆けていたが、直ぐに気を取り戻した。

 少し話し合ったが自分達で決められないと思い県令の元に向かった。


 守備兵達は県令の元に向かっている頃。

 城の外で陣を構えている曹昂軍の本陣では。

 曹昂が上座に座り兵の報告を聞いていた。

「ご苦労。下がって良いよ」

「はっ」

 曹昂が労いの言葉を掛けると兵は一礼し天幕から出て行った。

 兵が出て行くと、側に居る孫策が話し掛けて来た。

「なぁ、何で城を攻め落とさないんだ? 七万もあればあんな城なんか一日も経たずに落とせるぜ」

 孫策の疑問はその場にいる劉巴、刑螂、于禁、朱霊も同意見なのか曹昂をジッと見た。

 何と答えるのか気になっているようだ。

「…………戦わずして勝つ。兵法にも書いてあるから、それを実践しているだけだよ」

 どう言うべきか少し考える曹昂。

 それで、そう言ったのは一番無難であるからだ。

(ここで、城を攻めるは下策とか言うのも有りかな? ちょっと違うか)

 そう考える曹昂。孫策は真顔で訊ねて来た。

「戦わずして勝つ? どうやって勝つんだ?」

 孫策がそう言うのを聞いて曹昂達は肩透かしを食らった気分になった。

 後ろに控えていた程普は手で顔を覆いながら溜め息を吐いた。

「ええっと、孫子で有名な一節だよ。こう言った方が分かるかな。百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なりって言葉は聞いたことはあるだろう?」 

 これを知らないと言われたら、最初の一節から言わないと駄目かなと思いつつ言う曹昂。

「う~ん。父上が俺に良く言っていたような気がする。意味も何か言っていたけど、忘れたな」

 あっけらかんと言う孫策を見た曹昂は苦笑いを浮かべながら口を開いた。

「まぁ、簡単に言うと百戦して百勝する事よりも、敵の兵を戦わないで降伏させた方が良いという意味だよ」

「成程な。そっちの方が良いだろうな。敵も味方も血を流さないんだからな」

「そうだね。それに加えて敵の兵を無傷で手に入れる事が出来るから、良い事なのさ」

「確かに。それで降伏させるとしても本当に出来るのか?」

「多分ね。出来なかったら城攻めをするだけだし。でも、どちらかと言うと降伏するだろうね」

「どうしてだ?」

 孫策の疑問に曹昂はすっと答えた。

「それは去年、曹仁殿が下邳国一帯で暴れ回ったからね。その時の恐怖が残っているだろうし、飽くまでも敵は陶謙と言ったし『免死』の旗を立てたからね。降伏するだろうね」

「ああ、それであの旗を立てたのか」

 孫策は『報仇雪恨』の旗を掲げたのは分かったが『免死』の旗を掲げた理由が分からなかったが、そのような意味なのだと分かり納得した。

「さて、城が降伏するまでの間に次の手だ。何人か兵を此処に」

「はっ」

 曹昂は次の手と言うので、今度は何をするつもりなのか皆興味が湧いた。

 曹昂の命令に従い兵が天幕に入り跪いた。

「参りました」

「これから、貴方は部下を方々にある郡内の全ての県に向かわせて、ある噂を流してきて」

「はっ。して、どのような噂をですか?」

 兵はどの様な噂を広めるのだと思い訊ねると、曹昂は淡々と告げる。

「曹操は降伏しなかった城の老若男女を全て殺した。軍が通過した県は牛馬はおろか鶏や犬の鳴く声さえ聞こえなくなった。死体は野晒しにされるか、進軍の邪魔になるので泗水に捨てられた。その死体の山により泗水の河の流れが堰き止められたって広めてきて」

「…………ほ、本当にそれで良いのですか?」

 曹昂の口から出た言葉に兵士の一人が確認の為に訊ねた。

 良い噂というよりも悪い噂なので、本当に流して良いのかと思いがあったようだ。

「ああ、それで良いよ」

「は。はぁ。では、直ぐに向かいます」

 言質を取った兵士は立ち上がり一礼すると命令を実行しにいく。

 兵が天幕から出て行くと、劉巴は訊ねた。

「殿。そのような事はしていないのに。何故、その様な噂を流すのです?」

「降伏を促す為さ。降伏しなければ残虐な事をされると知れば、降伏するという人も出て来るからね」

「確かにそうですが。それでは、殿の父君が汚名を被る事になります」

 劉巴の言葉に曹昂は首を振る。

「巷では奸雄と言われている人が、汚名を被ったところで気にしないよ」

 一族の祭壇で飲まず食わずで哭泣しているかと思ったら、ちゃっかり酒と食べ物を用意していた人なので、汚名を被ったところで気にするどころか、笑い飛ばしそうな気がする曹昂。

「はぁ……」

 本当に良いのかなという顔をする劉巴。

 曹昂はそんな事よりも、先の事を話しだした。

「城が降伏したら、城で備蓄されている食糧の半分と守備兵を全て貰う。文則殿。貴方に守備兵を預けますので我が軍と一緒に行動しても問題ないように調練をお願いします」

「はっ。承知しました」

 于禁が一礼すると、刑螂が訊ねて来た。

「殿。城の兵を麾下に加えるのは分かります。兵力増強の為でしょう。ですが、食料を半分だけ貰うのは何故ですか? 降伏したんだから全部貰っても良いと思いますが?」

「城内にある食料を全部貰ったら恨みを買うかもしれないからさ。陶謙を討った後は、徐州は僕達の物になるんだ。後々の事を考えると、出来るだけ恨みを残さない方が良いのさ」

「成程。流石は殿ですな」

 刑螂が褒めてくるが曹昂は首を振る。

「これも父上の教えのお蔭さ。僕の力では無いよ」

「ご謙遜を。殿の年齢でここまで出来る人はそうそう居ませんよ」

 曹昂からしたら前世の記憶があるだけなのだがと思い答えた。

 だが、刑螂の言葉に周りの者達は内心で同調した。

(まだ十代だと言うのに、軍を率いてここまで戦略を立てる事が出来るとは。末恐ろしい子だ)

(我が殿から、恐ろしい子と聞いていたが、本当にその通りであった。とても十代の子供とは思えん)

 于禁と朱霊は話に聞いていた以上に切れ者だと思った。

 

 半時後。


 曹昂の予想通り、城は降伏した。

 前以て決めた手筈通り守備兵を軍に組み込み、城内に備蓄されている食糧の半分を貰い次の城へと向かった。

 それから数日も経たない内に徐州全土へ曹操が一族の者達を殺された恨みを晴らす為、進路上にある城に住んでいる者達を皆殺しにしているという噂が広がった。

 無論、陶謙の元にも、その情報は耳に入る。

 最初、その報告を聞いた時は耳を疑った。

 確認の為に兵を送ったが、誰も帰って来る事は無かった。

 これは曹昂が情報漏洩を防ぐために、密かに『三毒』の者達に偵察に来た兵を暗殺させていたからだ。

 どれだけ、兵を送っても誰も帰ってこないので、兵も行く事を恐れ、陶謙も何が起きているのか分からず怯える様になった。

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