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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第五章

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徐州騒然

 曹操が仇討の兵を挙げる事を天下に広く布告した。

 その話は風に乗り、徐州の陶謙の元まで届いた。

 張闓が何時まで経っても帰還したという報告が来ない事を訝しんだ陶謙は部下を遣って調べさせると、曹嵩達を殺し財宝を奪い逃走したという事が分かった。

 部下からの報告を聞いた陶謙は最初卒倒した。

 直ぐに気を取り戻したが、曹嵩達が殺された事に涙を流した。

 それは、親しくなったばかりの曹嵩の死を悲しんだ訳では無く、曹操に徐州を征伐する口実を与えてしまった事を嘆いての事だ。

 陶謙は直ぐに張闓達を探させたのだが、未だに見つかっていなかった。

 そんな時に、濮陽に居る密偵から曹操軍が出発したという報告が齎された。

 その報告の続きには、曹操自ら率いるという証として牙旗が掲げられているとも書かれていた。

 報告を聞いた陶謙は謁見の間にある椅子に深く凭れ天井を見上げた。

「……曹操と和解し、味方にしようと思っていたのが、この様な災いとなるとは……」

 悲嘆の声を上げ泣く陶謙。

「殿。お気持ちは分かりますが、今は徐州に向かって来る曹操軍をどうするべきか考えるべきです」 

 家臣の一人が励ますように声を掛けた。

 それを聞いて陶謙も袖で涙を拭いて、居並ぶ家臣達を見る。

「……うむ。そうじゃな。集まった兵馬の数は?」

「はっ。歩兵二万。騎兵五千になります」

「やはり、先の戦で失った兵数が大きいのぅ」

 陶謙は集まった兵の数を聞いて、仕方がないと思いつつも落胆した。

 徐州全ての男子を徴兵すれば五万は動員できる。だが、それだけの数の武具と食糧を用意する事も出来ない。その上、州内にある城を守る為に兵を配備させねばならない。

 それらの問題を考慮して、現在の徐州では二万五千を動員するのが精一杯であった。

「此処は日頃から親しくしている方々に援軍を求めては?」

「曹操に対抗できる勢力と言うと、冀州の袁紹。寿春の袁術」

「後は荊州の劉表。幽州の劉虞といったところか」

「しかし、殿は幽州州牧の劉虞とは親しくしていない。加えて徐州から幽州は遠いぞ。援軍に来てくれるか?」

「分からん。だが、援軍に来てくれると言うのであれば、誰でも良かろう」

「その通りだ。直ぐに援軍を求める使者を派遣せよ」

「はっ」

 陶謙がそう命じると、文官の家臣が返事をするなり誰を使者に派遣するか決める為に部屋から出て行った。

「……せがれはどうした?」

 陶謙は近くに居る家臣に訊ねた。

 陶謙には二人の息子がいる。長男を陶商。次男を陶応と言う。

 普段から陶商の事を息子と呼び、陶応の事をせがれと呼んでいる。

 この部屋には陶商はいるが、陶応の姿が無かったので陶謙は気になり訊ねた様だ。

「それが何処にいるのか分かりません。人を遣って探させているのですが、見つかっていないそうです」

「ええいっ、今がどんな時か、あやつは分かっているのかっ」

 陶謙は肘置きを叩き、陶応の不真面目さに怒っていた。

「やはり、あやつに役人は無理だな。儂が死ぬ前に財産を渡した後は好きにさせるのが良いな」

 陶謙は自分の後を継ぐのは陶商と決めた時に、陶応には仕官させないと決めていた。

 日頃の行いの所為か、家臣から評判が悪かった。

 役人をさせれば、何をするか分からなかったので、本人が仕官したいと言ってもさせなかった。

 とは言え、自分が死んだ後に無一文で放り出すのは気が引けるので、死ぬ前にある程度の財産を与えるつもりであった。

「それが宜しいかと」

「まぁ良い、今はせがれよりも、曹操の方が大事だ。急いで使者を派遣するのだ」

「はっ」

 陶謙は陶応の事を頭の隅に追いやり、曹操の事に専念する事にした。

 程なく各地の有力者に援軍を求める使者が飛んだ。

 しかし、袁紹は曹操と同盟を結んでいると言って断った。

 劉表も袁紹が断るという話を聞いて断った。

 袁術は援軍を出しても良いが、領地の割譲を求めて来た。

 援軍の対価に領地の割譲など割に合わないと思い、話を聞くなり陶謙が突っぱねた。


 幽州広陽郡薊県。


 その県の城には徐州の使者がやって来て、援軍を求める旨を伝えた。

 城の主で幽州州牧の劉虞が書簡を受け取り考えていた。

「ふむ。曹操が徐州に侵攻するので援軍を求める、か」

「どうか。我らをお救い下さい」

 使者は頭を叩きつけんばかりに頭を下げる。

 それを見て劉虞も考えた。

 心情的には援軍を出したかったが、今はそんな余裕が無かった。

 并州を占領した袁紹が今度は幽州を手中に収めんと戦を仕掛けて来た。

 州境では何度も互いの軍がぶつかっていた。

 その為、援軍を送る余裕など無かった。

(ここで援軍を出すのを断れば、徐州の民は危機に陥るであろう。しかし、余力が無いのではな)

 自分を頼って来た者を無下にするのは、義に悖ると分かってはいるが兵を出す余裕が無いので、どうするべきか悩む劉虞。

 其処に兵がやって来た。

「申し上げます。涿郡太守劉備玄徳様が参りました」

「玄徳が。通すが良い」

 兵の報告を聞くなり劉虞は劉備を通すように命じた。

「使者殿。少し待たれよ。家臣と話し合ってから決めるつもりだ」

「承知しました」

 使者は一礼し部屋から出て行った。

 使者が出て行き、その後直ぐに兵が劉備を伴ってやって来た。兵は劉備を連れて来ると、一礼し離れた。

「来たか。玄徳。今日は何用で参ったのだ?」

「はっ。曹操が仇討の為に徐州に侵攻すると聞きましたので、伯安様はどうなさるおつもりなのかお尋ねに参りました」

「そうか。実のところ、困っているのだ」

 劉虞は席から立ち上がり劉備に近付く。

 その手には丸まった書簡が握られていた。

「見るが良い。陶謙は援軍を求めているのだ」

 劉虞は持っている書簡を劉備に渡した。

 渡された書簡を広げて劉備はざっと目を通した。

「数万の大軍が攻め込んで来るが、迎え撃つ戦力が無い。其処で援軍を求めてきた。玄徳。如何にするべきと思う?」

「……伯安様はどのような考えで?」

「助けたいと思う。ただ目下、袁紹が攻め込んできている中で援軍を送る余裕が無い。私は陶謙の事は些かではあるが知っている。その知人を見殺しにするのは気が引ける。だが、援軍を送る余裕が無いのでな」

 困った様に息を漏らす劉虞。

「伯安様は陶謙殿を知っているのですか?」

「うむ。私の父は揚州の丹陽郡太守であった。陶謙の父は私の父の部下でな。陶謙の父親は早くに亡くなった。母親も陶謙を生んで直ぐに亡くなっていたのだが、陶謙は一人で生計を立てていたのだ。それを不憫に思った我が父が援助したのだ。そのお陰か学問に通じる様になってな。洛陽の太学へ行く便宜を図ったのだ」

 太学とは官立の高等教育機関で、当時としては最高学府にして官吏を養成する機関の事だ。

 地方から推薦、選抜された学生に教え、試験に合格しその成績に応じて官吏になる事が出来た。

 官吏を養成する機関という事で、それなりの地位に就いている者の子供又はその者の推薦を受けなければ入る事も出来ない所だ。

「そういう関係でしたか。それなりに親しくしていたのですか?」

「まぁ、それなりにだ。それでも、知人を見殺しにするのは流石に気が引けるのだ。どうしたら良いと思う?」

「伯安様。状況から援軍を出すのは難しいでしょう。ですが、御父君が面倒を見た者を見殺しにすれば、御父君に対して面目が立ちませんでしょう」

「うむ。そうだな。黄泉に居る父に会って叱責されるのは御免被る。問題は」

 劉虞は傍に控えている家臣を見る。

「援軍を出すとしたら、子泰よ。どれほど出せる?」

 お気に入りの従事である田疇に訊ねた。

 この田疇は字を子泰と言い、年齢は二十代前半で口髭を生やした鼻筋が通った丸い顔をしていた。

 劉虞の従事をしており、劉虞の信頼篤い家臣であった。

「はっ、前線にも兵を送る事も考えますと、三千。それ以上は無理です」

「三千か。むぅ、仕方がない。では、誰を送るか」

「伯安様。不肖この劉備がその援軍の兵を率いましょう」

「お主がか? そうだな。お主と義弟達の武勇があれば大丈夫であろう。それに加えて盧植も加われば怖い物無しであろう」

「はい。私からも兵を出します。それと」

 劉備は首に提げている太守の印を取り、劉虞に渡した。

「援軍に行く間、郡の仕事は出来ませんので、誰か別の方に就かせて下さい」

「あい分かった。援軍の任を終えた後は好きにせよ。何時戻って来ても良い様に涿郡太守の席は空けておくようにしよう」

「御心使いに感謝します」

 劉備は頭を下げて劉虞に感謝を述べた。

 そして、劉備は直ぐに郡治を行っていた涿県へと向かい、事の仔細を話した。

 張飛、関羽の二人は一も二も無く応じた。

 盧植は少し考えたが、劉備に同調した。

 劉備は太守を辞めて陶謙の援軍に向かう事を兵に告げた。

 太守を辞めたというのに、二千程の兵が劉備に付いて行くと言ってきた。

 劉備は劉虞が用意した三千と二千の兵を合わせた五千の兵を率いて徐州へと向かった。

本作に出て来る田疇の字は子泰とします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いよいよ三国(になる前)同士の戦が始まる 出来ればここで劉備を討ち取りたいけど 物語的に早すぎるか
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