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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第五章

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事の顛末

 時を少し遡り。


 初平四年(西暦193年)一月某日。

 徐州東海郡郯県。

 その県の城門の前には陶謙が曹嵩の見送りの為に出ていた。

「もう少し、このまま滞在しても宜しいと思いますが」

 陶謙は出来るだけ恩を売りたいので、長く滞在して欲しいと思い逗留を進めた。

 だが、曹嵩が首を振る。

「いやいや、共に年越しの宴を興じてくれただけでも十分であるのに。このまま居ましたら、息子の顔を見る前に一生を終えてしまいます」

 曹嵩が冗談を言い笑うと、陶謙も釣られて笑い出した。

 元々、年を越えれば曹操の元に向かうと決めていた曹嵩。

 どれだけ進めても曹嵩は断った。なので、陶謙もそれ以上言うのは止めた。

「では、孟徳殿によろしくお願いいたします。それと」

 陶謙は手で合図を置くると、数台の馬車がやって来た。馬車の荷は金品財宝が、それこそ山の様に積み込まれていた。

「これは手土産としてお持ち下さい」

 陶謙が頭を下げながらそう言うのを聞いて、曹嵩は馬車に積まれている荷を見て目を剥いた。

「いやはや、これほど高価な品々を手土産とは、陶謙殿のご温情には感謝の言葉しかありませんな」

「お気になさらずに。これは私からの些細な気持ちですので」

 曹嵩に渡した金品財宝は手土産としてだけではなく、和睦の証としての意味も込められていた。

「篤いもてなしをして頂いただけではなく、このような手土産までくれるとは。陶謙殿は仁徳溢れる御方ですな」

「曹嵩殿にそう言われますと、私も嬉しく思います」

 陶謙と曹嵩は頭を下げた。

「それでは、私はこれで」

「はい。道中お気をつけて。それと、お邪魔かも知れませんが兗州に入るまで、私の兵を護衛に付けさせましょうぞ」

「何から何までして頂きお礼申し上げます」

 曹嵩は陶謙に感謝の意を込めて一礼する。

 曹嵩が馬車に乗り込むと、一族の者達と都尉の張闓と部下五百と共に郯県を出立した。

 陶謙は曹嵩の一団が見えなくなるまでその場に留まり、見えなくなると安堵の息を漏らしながら傍にいる側近達に「これで徐州の地は安泰となろう」と漏らした。


 曹嵩達が郯県を出発してから数日後。

 曹嵩一行は徐州の州境を越えて兗州泰山郡華県に入る事が出来た。

 数日後には曹操が送った出迎えの者が迎えに来る手筈になっていた。

 なので、急ぐ事も無いのか曹嵩達は暗くなると近くの何処かで休む事となった。

 丁度、廃屋を見つけたので曹嵩達は一夜だけ身を置く事にした。


 その夜。


 曹嵩達も寝静まり、使用人達も壁に背を預けながら眠っていた。

 起きているのは張闓と部下の者達だけであった。

 張闓達は廃屋前で焚火を焚いて寝ずの番をしていた。

 季節は春とは言え、夜は寒い事に変わりなかった。

 張闓と部下達は焚火に当たりながら、自分達の立場の不満を話していた。

「ああ、息子が州牧になったから、その父親だからってあれだけの金品財宝を頂けるとはな」

「羨ましいぜ。それに比べて俺達と来たら」

「元黄巾賊だったからって、重要な役職に就かせてくれない。その上、給料も安いと来た」

 この時代の兵達の給料は現物で、麦か穀物のどちらか又は両方が支払われていた。

 だが、元黄巾賊という事で張闓と部下達は兵士が貰える給料の半分しか貰っていない。

 その上、死んでも補填もされなかった。

 これでは不平不満を溜め込まない方がおかしいと言えた。

 しかし、不平不満を言うだけで張闓達は何かしようとは思わなかった。

 そんな時に馬が数騎やって来た。

 もう夜は更けているので、盗賊か何かかと思いながら警戒する張闓達。

 その騎馬の一団はそのまま近付いた。

 焚火の明かりで馬に乗っている者達の顔が見える所まで近付くと、馬に乗っている者達が馬から降りた。

 馬から降りた者達が近付いて来た事で張闓はようやく馬に乗っている者達が誰なのか分かった。

「これは、若君」

 張闓がそう言い一礼すると警戒していた兵達も一礼した。

 張闓達の前に来たのは陶謙の息子の一人で陶応であった。

「楽にせよ。で、どうだ? あの爺共は?」

 陶応は廃屋を見ながら張闓に訊ねた。

 陶応が言う爺共とは曹嵩達の事だ。

「はっ。今はぐっすりと眠っております」

「そうか」

「ところで、若君。此処には何用で?」

 張闓は徐州を越えてまで来た理由が分からないので訊ねた。

 陶応は笑みを浮かべながらその疑問に答えた。

「ふん。お前達に良い話を持って来た」

「良い話ですか?」

「うむ。どうだ。曹嵩達を殺して財宝を奪うつもりは無いか?」

 陶応がそう言うのを聞いて張闓達は息を飲んだ。

 驚く張闓達に構わず話を続ける陶応。

「このままお前達が曹嵩達を曹操の元に送り届けた所で、何の恩賞も無いのだぞ。仮に死んでも何の補填も無い。それでお前達は浮かばれるか?」

 陶応の問い掛けに張闓達は何も言えなかった。

「浮かばれぬであろう。ならば、奪った財宝で気ままな生活をするのが良いと思わぬか」

「……若君。何故、貴方がそのような事を勧めるのですか?」

「ふん。それはお前の知った事ではないと言いたいが、実を言うと、父もかなりの高齢だ。父が死んだ後、後を継ぐのは我が兄である陶商だ」

 陶応がそう言うのを聞いて張闓達も異論は無かった。

 なにせ、張闓達の前に居る陶応は品性が下劣で才能も兄に劣る。その上、気に入った女が居れば父親の権力を使ってでも手に入れるという性格であった。

「父は前以て遺言書を書いてたのだが、その遺言書には兄が州牧の地位に就いても、私には何も与えないと書いているそうだ。ふざけるな‼ 私を無一文で追い出すと言うのかっ」

 思い出しても腹が立つのか声を荒げる陶応。

 日頃の行いが悪いとは言え、流石にそれは無情ではと思う張闓達。

「そんな事をする者など、最早父でも何でもないわっ。だから、父が送った財宝を奪おうと構うものか」

 陶応の目を見て本気だと分かった張闓達は唾を飲み込んだ。

「……しかし、若君。曹嵩達を殺して財宝を奪おうと、近くの山に身を隠した所で見つかって拷問された後に死刑にされます」

 一瞬、陶応の言葉に従おうとした張闓であったが、直ぐに問題点に気付いた。

 曹嵩達を殺して財宝を奪おうと、直ぐに自分達が犯人だと分かってしまう。そうなれば、処刑されるのが目に見えていた。

 如何に目の前に財宝があろうと使えなければ無用の長物であった。

 黄泉に財宝を持っていく事が出来ないのだから、諦めるべきだと思う張闓。

「其処は安心しろ。私の手引きでお前達を江南に送ってやろう」

 その言葉に驚きを隠せない張闓達。

「ふん。徐州の役人達に手を回して、お前達が見つからない様にする事など、私には造作もない」

 陶応が胸を張って言う。

 張闓達は父親の権力を使って、父親を貶めるとは何とも親不孝なと思いながらも、それを聞いて笑みを浮かべた。

「では、財宝は山分けという事でよろしいですか?」

「いや、大量の財宝を持っていると父と兄に疑われる。三分の一ほど貰おう。残りはお前達の好きにしろ」

「承知しました。では」

 張闓は振り返り兵達を見る。

 兵達も同じ思いなのか頷きながら剣を抜いた。

 それを見て張闓も剣を抜いた。

「行くぞっ」

 張闓の号令の元、張闓と兵達は廃屋へと突撃した。

 程なく廃屋から悲鳴が聞こえて来た。


 廃屋から聞こえる悲鳴を聞きながら陶応は笑い出した。

「はははははは、曹操め。これも自分の行いの報いと思えっ」

 人が殺されているのに楽しそうに笑う陶応。

 陶応がこの様な事を考えたのは、父である陶謙に対する恨みもあったが個人的にも曹操に恨みがあった。

 それは陶応が最近ある女性に懸想していた。

 その女性の為であれば陶応は真面目になろうかと考える程に惚れていた。

 だが、曹操はその女性を妾にしてしまった。その女性の名は環桃。

 陶応は惚れた女性を奪われた恨みで今回の計画を練った。

「存分に苦しめ。はははははは」

 悲鳴を聞きながら狂笑する陶応。

 

 陶応が廃屋前で笑っている頃。

 廃屋は張闓達の殺戮の欲しいままであった。

 そんな中で廃屋の縁側に男三人と子供三人が居た。

 一人は曹嵩でもう一人は曹徳であった。

 もう一人の男は三十代半ばで平凡な顔つきであった。

 男の名は曹邵。字を伯南と言う。

 元は秦邵と言うのだが、曹忠が子供が無い事で曹嵩が妾を取った縁で養子に貰った。

 ちなみに、この妾は既に殺されている。

 子供は曹徳の子供の曹浩と曹邵の息子の曹真と娘の曹徳だ。

「良いか。三人共。朝になるまで此処から出てはならぬぞ。そして、一言も喋るでないぞ」

 曹嵩はそう言って縁側の下に曹浩達を押し込んで強く言い聞かせた。

「お祖父様……」

「はい。分かりました」

 三人の返事を聞いて曹嵩達はその場を離れた。

 曹浩達を見つけられない為だ。

「生き残りが居たぞっ」

「殺せっ」

 直ぐに張闓達に見つかり、曹徳と曹邵は切り殺された。

 残った曹嵩は厠の近くまで追い詰められた。

「お、お主等、自分達が、何をしているのか分かっているのか?」

 自分を囲み血塗られた得物を構えている張闓達に曹嵩は怯えつつ聞いた。

 張闓は怯えている曹嵩を見て笑いながら答えた。

「ふっ。もう兵士生活にうんざりしていてな。そんな時に目の前に財宝を持っているあんたが居るんだ。財宝を奪って好き勝手な生活をするのはおかしくないだろう?」

「馬鹿なっ。こんな事をして、息子が黙ってはおらんぞ」

 曹嵩は考え直してもらおうと説得するが、張闓達は聞く耳を持たなかった。

「はっ、曹操が来る前に逃げるだけだ。まぁ、お前さんには関係ない事だっ」

 張闓は言い終えるなり剣を振るい曹嵩の身体を切り裂いた。

 止めとばかりに兵達が曹嵩の身体を槍で貫いた。

 曹嵩は口から血を吐きながら、倒れた。

「良し。財宝も有り金も全て残らず頂くぞっ」

 張闓は兵達に命じて財宝や死んだ曹嵩達が持っていた価値のありそうな物を奪った。

「そう言えば、子供が三人程いなかったか?」

「居たな。お前、見たか?」

「いや」

 兵達が手に財宝を持ちながら、ふと思い出して話していると、張闓が話に入って来た。

「子供など放って置け。逃げた所で、道に迷って野垂れ死にするに決まっているだろう。それよりも、早く財宝を運び出せ」

 張闓がそう言うので、さもありなんと思い兵達は財宝の運び出しを行った。

 程なく、張闓と陶応達は廃屋を後にした。

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