失策
違和感を感じるというご指摘が多いので、少し修正します。
年を越して数日が経ったある日。
濮陽で年越しをしていた曹昂の元にある情報が齎された。
「えっ! 祖父様と一族の皆が徐州の陶謙の元に居る⁉」
曹昂はそろそろ豫洲に戻ろうと思い、その前に『三毒』の者達の情報を聞いているところであった。
「はっ。年を越す前に陶謙に呼ばれたそうです」
「陶謙に呼ばれたのか。それで、この情報は父上は知っているの?」
「はい。既に孟徳様に伝えております。孟徳様は特に何もするなとお達しでした」
その報告を兗州で『三毒』から得られる情報を収集する為に使っていた部屋で聞いた曹昂は頭を叩いた。
(しまった。豫州州牧になった際『三毒』の情報を僕経由じゃなくて父上に直接伝える様にした事で、僕への情報の伝達が遅れる事になった)
曹昂は豫州州牧になった際、自分が豫州に居ては手に入れた情報を曹操が知るのに時間が掛かると思い『三毒』が手に入れた情報は直接曹操に届く様にしていた。
その弊害がこうして現れた事に窮する曹昂。
前世の記憶でこの後に行われる事が分かっているが、今更手段を講じても間に合うか分からないからだ。
悩んでいる曹昂を見て、報告している『三毒』の者は何を悩んでいるのか分からず困っていた。
(どうする? このままだったら祖父様達が。かと言って、父上に護衛の兵を送ろうと言っても理由を聞かれてもどう答えるべきか)
ここで前世の記憶で曹嵩達が害される事を知りましたと言おうものなら、皆疲れているのだなとしか思わないだろう。
それが分かっている曹昂は頭を抱えた。
(祖父様達が何処にいるのか調べていなかったのは失敗だったな。どうしよう……)
曹昂は動き回りながら色々と考えて考えて、答えを出した。
「……今すぐ郯県に居る『三毒』の者達は何人いる?」
「はっ。城の中、街の中になど色々な所に居ますが。総勢で二百名ほど」
「その中で武芸に長けるのは何人いる?」
「ざっと二十名ほどです」
その数を聞いて曹昂は足りないと思った。
「じゃあ、仕方がない。手が空いている『三毒』の者達を動員して直ぐに徐州に向かい、祖父様達の護衛を」
「はっ」
「……待った」
曹昂に命じられて行動しようとした『三毒』の者を曹昂が呼び止めた。
「まだ何か?」
「…………先程言った郯県に居る武芸に長ける『三毒』の者達の二十名は祖父様の後を付けさせてくれ。万が一、祖父様が害される所に出くわしても、そのまま何もしないで害した者達の後を付けて根城を知らせる様にして」
「それはつまり……」
万が一の事が起こったら見殺しにするのではと言葉を続けようとしたが口にしてはならないと思い『三毒』の者は手で口を閉ざした。
「……万が一に備えてさ。まぁ、大丈夫だと思うな。父上も出迎えの使者として泰山郡の太守の応劭という人が兵を率いて迎えに行っていると聞いているし」
「はっ、その通りです」
「なら大丈夫だと思うけど、万が一の事態に備えるのも僕の務めだからね」
「承知しました。直ぐに手配を」
曹昂の命令に従う為『三毒』の者は曹昂に一礼し部屋から出て行った。
『三毒』の者が部屋から出て行くと、曹昂は大まかにだが徐州の方へ向き膝をついた。
「…………ああ、祖父様」
どうか、御無事でと祈る曹昂。
だが、その祈りは叶う事は無かった。
十数日後。
曹操達の元に曹嵩以下一族の者達の殆どが殺されたという報告が齎された。
その情報は曹昂の下にも届けられた。




