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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第五章

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夫婦喧嘩を仲裁

卞蓮が男児を出産したという手紙が届いて数十日後。

 

 床から出る事が出来る程に回復した卞蓮。

 それを見た丁薔は曹昂が居る許県に向かった。異母弟の顔を見せる為に。

「ははは、この子は中々利発そうな顔をしているな」

 許県の城の中にある一室で曹操は生まれたばかりの我が子と対面し顔を綻ばせていた。

 喧嘩中とは言え、礼儀として一応文を送り知らせたのか、丁薔は曹操の元にも文を送っていた。

 その文を読んだ曹操は仕事を夏候惇と荀彧に任せて、とりあえず曹昂が居る許県へと向かった。

 直接行かないで、まずは曹昂の元に行ったのは行き違いを防ぐ為と曹昂を巻き込み丁薔の機嫌を直そうとしたのだ。

 丁薔も曹操には子供を産んだ事を知らせたが、許県に向かう事は教えていなかったが、奇しくも二人は同日に許県に着いた。

「やはり、子供は可愛いのう。蓮」

「そうですね。旦那様」

 同室に居る丁薔はブスッとした顔をしているので、卞蓮はどうするべきか困っている顔をしていた。

「……旦那様。可愛がるのも良いですが、そろそろ名前を付けて下さい」

 感情の込められていない声でそう言う丁薔。

「お、おお、そうだな。暫し、待て…………良し。この子は植としよう。この子の名は曹植だ」

 曹操は少し考えた後、腕の中に居る子に名前を付けた。

「曹植ですか。良い名前だと思います」

「そうだろうそうだろう」

 曹昂が褒めると曹操も満足そうに頷いた。

 一頻り頷いた後、曹操は手の中に居る曹植を卞蓮へ渡した。

「では、私は曹植を寝かせつけてきますね」

 卞蓮はそう言い一礼し部屋から出て行った。

「僕も仕事があるので」

 曹昂も一緒に部屋を出て行こうとしたが、

「ま、待て、息子よ。仕事も大事だが、偶には親子三人で話し合うのも良いと思わんか?」

 曹操は慌てて部屋を出て行こうとした曹昂を呼び止めた。

 曹昂を巻き込んで、丁薔を自分の元に戻そうとする曹操。

 それを聞いた曹昂は曹操の考えが直ぐに分かり、曹操の顔を見て溜め息を吐いた。

「……父上」

「何だ?」

「夫婦で話すべき事に子を含めなくても良いと思います」

「何を言っている。私は別に薔と話す事など無いぞ」

「そうですか。では、私も失礼します。清が習い事を怠けていないか見に行きませんと」

 丁薔はそう言って立ち上がり部屋を出て行こうとした。

「待て待て。話がある。その後で清の元に行くがよい」

「……分かりました」

 曹操が話があると言うので、腰を上げ掛けた丁薔は腰を下ろした。

「では、僕はこれで」

 曹昂はそう言って一礼し部屋から出て行った。

 曹操は呼び止めようとしたが、曹昂は一足先に部屋を出た。

 部屋を出た曹昂は壁に背を預けながら、耳を部屋の扉に押し当てる。

 室内の話を聞く為だ。

『私は、別に好き好んで環桃達を娶った訳ではないのだ。先方が勧めて来たから娶っただけだ。断れば、向こうの顔を潰す事になるから娶ったのだ』

『ええ、それは分かります。私が怒っているのは、どうして人の妻であった者達を娶ったのか分からないから怒っているのですっ』

『だから、先方が勧めて来たからなのだ』

『断れば良いでしょう。この時代なのは分かりますが、もう少し若い子又は人の妻ではなかった者を娶るべきでしょう』

『しかし、勧めて来た者の顔に泥を塗るのは』

『だからと言って、人の妻であった者を娶る道理がありますか。これだから世間では、曹孟徳は人妻好きだとか。夫が居る女を無理矢理奪い、自分の妾にしたとか言われるのですよ』

『いや、ちょっと待て。桃は確かにそうだが。もう一人の方は勧められた後に、離縁して嫁がされたと聞いたんだ。私が権力で無理矢理奪った訳ではない』

『人の妻に手を出すからそうなるのです。故郷の譙県で、どれだけ沢山の人の妻に手を出したと思っているのです。嫁いだ県令の娘に手を出して、怒った県令が家まで怒鳴り込んで来た事を忘れたのですか⁉ あの時は洛陽に居た義祖父様が文を送って事を収めたというのにっ』

『……あの時は、若かったからな』

『その時にはもう、姉さんと私を娶っていて何を言うのです。しかも、その時には姉さんの腹には昂が居たのですよ。子が出来たというのに、身を正すどころか道理に逆らう事をして』

 曹操が下手に出て宥めているが、丁薔は頑として聞かず曹操の昔の行いを叱責していた。

(…………聞きたくない事を聞いてしまった気がする)

 盗み聞きしていた曹昂は曹操の悪行の一部を聞いて頭を痛めた。

(しかし、父上も反論しないとはな。意外に母上に頭が上がらないようだ)

 父の意外な面を見て曹昂は面白そうな顔をしていた。

(さて、そろそろ父上に助け船を出すとするか)

 曹昂は盗み聞きを止めてその場を離れた。


数刻後。


 曹昂が侍女の貂蝉と練師を伴い曹操達が居る部屋に戻って来たが、未だに曹操は丁薔を宥める事が出来ていなかった。

 貂蝉達はお盆を持ち、そのお盆には蓋をされた椀が置かれていた。

『そうやって、分別なく人の妻であった女性に手を出していると、いつか痛い目に遭いますよっ』

『いや、そこら辺はちゃんと考えているぞ』

『考えているのであれば、人の妻に手を出す事などしません!』

 丁薔の言葉を聞いて曹昂は苦笑いを浮かべるしかなかった。

(さて、そろそろ父上に助け船を出すとするか)

 何時までも夫婦喧嘩をされては敵わないと思いながら、曹昂は部屋に入った。

「父上。そろそ午餐(昼食)です。一緒に取りませんか?」

 曹昂が口を挟んできたので、曹操は良いところに来たとばかりに話を合わせる。

「おお、そうだな。薔よ。どうだ? 偶には三人仲良く食べようではないか」

「…………仕方がありませんね」

 丁薔は凄く悩んでいたが、仕方がないとばかりに一緒に午餐を取る事にした。

 ようやく、言う事を聞いてくれたので曹操は安堵の息を漏らした。

 曹操と薔との間に椅子を置き、曹昂は座った。

 貂蝉達は三人の前に椀を置き蓋を取った。

「おっ、これは」

 蓋を取られた椀の中を見て曹操は目を僅かに見開かせた。

 黒い汁の中には細く切られた灰茶色の麺が入っており、その上には良く煮込まれた肉とある程度の大きさの形になっている黄色い物が浮かんでいた。その上に細く切られた葱が乗っていた。

 曹操はこれが何なのか分からずジッと見ていた。

 とりあえず食べてみるかと思い、箸でその麺を掴み啜った。

「おお、これは蕎麦か。こうして食べる事が出来るのか」

 一口麺を啜り食べてみると、蕎麦の香りが口の中に広がった。

 噛むと直ぐに噛み切れる程に柔らかかった。

 噛む度に蕎麦の風味と汁の味の美味しさを感じる事が出来た。

 細く切られた蕎麦を食べ終えると、曹操は次に上に乗っている具を掴んだ。

 煮込まれた肉の方は皮が付いている事と形から鶏肉だと分かった。黄色い物は何なのか分からないので、とりあえず鶏肉と一緒に掴み口の中に入れた。

「……ふむ。この黄色いのは卵か」

 咀嚼して食感が卵だと直ぐに分かった。

 鶏肉が良く煮込まれた事で柔らかいが、それでいて噛むと肉の脂が溢れ出た。

 煮た筈なのに柔らかい卵は噛んでいく内に無くなっていった。葱は煮込んでいないのか、生であった。

 生なので辛味があったが、その辛味が口の中にある鳥の脂を消してくれた。

「ふむ。鶏肉と卵と葱だけで、これほど美味しいとは」

 具を食べると、曹操は汁を飲んだ。

「……おっ、この汁は初めて味わうな。鳥でも牛でも豚の骨で取ったスープの味とも違うな。何と言うか、あっさりとしていながら味が濃いな」

 骨で取ったスープに比べるとくどくなく、あっさりとしていたので何のスープなのか曹操には分からなかった。

「昂。この汁はどの様な味付けなの?」

 丁薔も今まで飲んで来たスープに比べるとあっさりとした味なので気になり、曹昂に訊ねた。

「これは干した香蕈(こうしん)を水で戻した汁に豆醤の上澄み液を混ぜた物です」

 曹昂が教えてくれたのを聞いて曹操と丁薔の二人は耳を疑った。

 香蕈とは椎茸の事だ。

 この時代の椎茸は生薬にも使われる程に効能がある事に加えて、鮮度が落ちやすい食材でもあり、人工栽培が出来ないので高級品であった。

 余談だが、曹昂が椎茸を取る様に命じた者が椎茸と一緒に松茸も取って来たが、椎茸に比べるとかなり安かった。

 曹昂は理由を訊ねると『食感はあって香りは良いが。特に味もしない上に探せば直ぐに見つかる』と言って来た。

 それを聞いた曹昂は昔は松茸の方が椎茸よりも安かったのは本当だと知った。

「干した香蕈を戻した汁がこれほど美味いとは」

「本当ですね」

 権力者でもある曹操も名家の出である丁薔も初めて味わうのか、感心しながら味わっていた。

「この細く切られた物は蕎麦の味と香りがするが、どうやって作ったのだ?」

「臼で挽いて粉にしたのを、水と小麦粉を混ぜて形を整えて細く切りました」

「ほぅ。して、この料理の名前は?」

「鶏肉と卵を使いましたので、親子蕎麦切りと言います」

「親子蕎麦切りか。悪くないな」

「でしょう。親と子を一緒に食い、蕎麦は末永く傍に居られます様にという意味があるのですよ」

 蕎麦の所だけはこじつけだけどなと思いながら話す曹昂。

「ふむ。何時までも親子仲良く居られます様にか。悪くない言葉遊びだな」

 それを聞いた曹操は笑いながらそう言い、丁薔を見た。

 曹昂もチラリと丁薔を見る。

 二人の視線を感じて、丁薔は溜め息を吐いた。

「……分かりました。旦那様の所に戻ります」

 曹昂達が何を言いたいのか分かったのか、丁薔は曹操の元に戻ると言うのを聞いて、曹操と曹昂は手を挙げて喜んだ。


 少しすると、曹昂は仕事に戻った。

 貂蝉達も曹昂の為に後に付いて行き、部屋に残ったのは曹操と丁薔の二人だけであった。

 二人仲良く談笑していた。

「……あっ」

 そんな時に曹操は何か思い出したように声をあげた。

「どうかしました?」

「……いや、何でもない」

 丁薔が訊ねたが、曹操は何でもないと手を振った。

(兗州も落ち着いて来たから、そろそろ父上達を濮陽に招く事を昂に言うのを忘れていた)

 既に父曹嵩の元に使者を送っていたが、丁薔の事があったので、すっかり忘れていた曹操。

(……まぁ良いか。もう年越しだ。父上からも来年そちらに行くと返事が来たからな。父上が濮陽に着いてから呼んで会わせて驚かせるのも良かろう)

 曹操はそう考えて曹嵩の事は秘密にする事にした。

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