表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/1010

王允 友人と再会す

翌日。


 一族の首が掛かっているので呂布は憤懣な気持ちを胸の中に収めながら出仕した。

 郿城にある董卓の寝室に入ると、仕切りの向こうから貂蝉が出て来た。

 髪で隠されているが、額の所に包帯を巻かれているのが見えた。

 それを見た呂布は王允の話が真実だと分かり怒りを新たにする。

「……今、相国様が参りますので、少々お待ちを」

「うむ」

 気持ちを抑えるのに精一杯であったので、呂布は言葉短くしか答えられなかった。

 程なく官服を纏い腰に剣を佩いた董卓が出て来た。

「おお、呂布。病は大丈夫なのか?」

「はい。心配を掛けまして申し訳ありません」

 呂布は頭を下げると董卓は機嫌良さそうに肩を叩いた。

「なに、お主の顔が見えないので寂しいと思ったが、こうして出仕してくれたのだ。儂は嬉しく思うぞ」

 董卓は上機嫌で呂布と話をしていた。

 董卓が呂布を見て機嫌良さそうなのは理由があった。

 貂蝉の怪我の治療をした侍医に数日には跡形も無く傷は治ると言われてほっとした。

 安堵した事で王允と話していた事を思い出した。

 呂布にはどう言うべきか考えていると、其処に王允がまたやって来た。

 王允は貂蝉が董卓と離れたくないあまりに自傷した事を呂布に伝えてくれたと言った。

『それを聞いた呂布殿も流石にこれ以上は無理だと判断したのか、貂蝉の事は忘れると言いました。気持ちの整理が付けば近い内に何事も無かった様に出仕するでしょう』

 と言うので半信半疑であったが、呂布がこうして来た事から王允の話は本当なのだと分かり上機嫌になったのだ。

「さぁ、付いて参れ。お主が傍に居れば儂は何が起ころうとも恐れる事は無くなるからな」

「はい。分かりました」

 董卓は上機嫌で歩きながら進んでいく。呂布はその後に続く前に後ろを振り返る。

 其処には貂蝉が見送りの為に居た。

 呂布は貂蝉と視線を交わし、何も言わず董卓の後を追った。

(この獣め。この恨みを晴らしてくれるっ)

 目の前を歩く董卓を睨みつけながら呂布はそう誓った。


 数刻後。


 朝議が終わった王允は馬車に揺られながら上機嫌であった。

(ふふふ、どうやら呂布と董卓の仲はもう完璧に決裂したようだな)

 先程まで参加していた朝議の様子を見た王允は直ぐに分かった。

 呂布が董卓の護衛として後ろに立ちながら、今にも董卓へ襲い掛かろうとする程の殺気を放っていた。

 董卓は久しぶりに出仕した呂布が気を張っているのを感じながらも特に指摘しなかった。寧ろ、久しぶりに出仕したので張り切っているのだと勘違いしていた。

 両者の考え違いが上手くいっていると分かり王允は嬉しそうであった。

「後は呂布をこちら側に引き込めば良いのだが、問題はどうやって董卓をあの城から出すかだな」

 用心深い董卓の護衛をしている呂布が裏切っても討ち取れるとは思わない王允。逆に返り討ちになる事も考えられた。

 朝議の時は長安にある朝廷に来るが、その時も呂布以外の護衛の者達も多数いる。そんな所で如何に呂布と言えど董卓を殺せると断言はできなかった。朝議が無い時は堅牢な郿城に居るから討ち取るのが難しいと言えた。

 なので、どうやって董卓を郿城から出してかつ護衛を少ない所に誘き出すか考えるが、王允の頭では何も思いつかなかった。

 そう考えている間に馬車は屋敷に着いた。

 門の扉が開き使用人が出迎えた。

「お帰りなさいませ。ご主人様」

「うむ。私が居ない間、何かあったか?」

「先頃からご主人様にお客様が訪ねて来てお待ちです」

「客? 誰じゃ?」

「さぁ、ただ自分は王允殿の友人だとしか言っていません」

 使用人の話を聞きながら誰が訪ねて来たのだろうと思いながら、その客がいる部屋に向かった。

 王允がその部屋に着くと、訪ねて来た友人は静かに用意された茶を飲んでいた。

 その客は王允の姿を見るなり立ち上がり一礼する。

「お久しぶりです。王允殿」

「……驚いた。お主は陳宮ではないか」

 王允の元に来たのは長年の友人である陳宮。字を公台であった。

 以前、曹操が董卓の暗殺に失敗した時に少しだけ行動を共にした男であった。

「ははは、何だ。来るのであれば文でも出せば良いものを」

「急に来て驚いた王允殿の顔を見るのも一興だと思いまして」

「そうか。良し今日は思う存分に酒を飲むとしよう」

 王允は笑いながら使用人に宴の準備をさせた。

(ああ、そうだ。陳宮に相談して何か妙案が無いか聞いてみるか。この者は智謀に優れているからな)

 良い案が浮かばない所に智謀に優れる陳宮が来たので、渡りに船とばかりに相談する事を決める王允。

 

 数日後。


 王允は自分の屋敷に呂布を招いた。

 それは董卓暗殺の計画を教える為だ。

 今ならば計画を話しても裏切られる心配は無いと判断したからだ。

 加えて陳宮を紹介する為でもある。

 王允が陳宮と共に先に酒を飲み楽しんでいると、使用人が入って来た。

「申し上げます。今、呂布様が屋敷の門の前に来ました」

「うむ。お通ししろ」

 使用人が一礼して部屋から出て行き、程なく使用人が呂布を連れてやって来た。

「王允殿。お呼びとの事で参りました」

 呂布は王允に一礼すると、少し離れた席に座っている陳宮を見た。

「この方は?」

「私の友人で陳宮。字を公台という者です」

「お初にお目に掛かる。奉先殿の勇名は私の耳にも轟いております」

 王允に紹介された陳宮は立ち上がり呂布に一礼する。

「ご丁寧に」

 呂布も返礼すると用意された席に着いた。

 使用人は呂布の盃に酒を注ぐと部屋から出て行った。

 呂布は喉が渇いていたのか酒を直ぐに飲み干した。そして、お代わりを貰おうとしたら王允が声を掛けた。

「呂布殿。今日は貴殿に話したい事がありましてお呼びしました」

「話? それはどんな話でしょうかな?」

 呂布は王允には恩があると思っているので、大抵の事であれば叶えるつもりであった。

 そんな気持ちで王允が何を言うのか待っていると。

「呂布殿はこのままで宜しいのでしょうか?」

「……うん?」

 王允の言葉の意味が分からないのか呂布は首を傾げた。

「貴方様には天下を制する武勇を持っているというに、何時までも董卓の言いなりになっていてはその武勇も存分に使えないでしょうに。惜しい事だ」

「それは……」

 王允に言われた事が衝撃だったようで呂布は黙ってしまった。

 言われた事が余程衝撃だったのだろう。王允が董卓の事を相国と言わず様付けしないで呼んだ事にも気付いていなかった。

「……武将とは、主に忠と義を捧げて戦場に赴く者。まして、董卓様は私の義理の父。父に従うのは道理」

 呂布が辛うじて絞り出した答えを聞いて、王允は嘆かわしいと言いたげに息を吐く。

「それでお主の意中の女性であった貂蝉を奪われてもか?」

「ぬうう……」

 それを言われては呂布は何も言えなかった。

 更に陳宮も話に加わった。

「このままでは貴殿の武勇は董卓に良い様に使われて、最期には用済みとばかりに殺されるかもしれませんぞ」

「なっ、そんな事は」

「いやいや、古来よりこんな言葉がある『飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗烹らる』と」

 この言葉の意味は捕まえる鳥がいなくなると良い弓も死蔵され、足の速い兎が死ぬと、猟犬も不要になり煮て食われるという、敵が居なくなれば軍事に尽くした功臣は却って邪魔者扱いされて殺されることの例えだ。

 陳宮の言葉を聞いて呂布は少し考え込んだ。

 少し前に貂蝉と逢瀬をしていた時も董卓を殺そうとしなかったのは、今は乱世で自分の力が必要だからというだけで、董卓が世を治めたら自分は要らなくなり、その時の罪で自分を殺すかもしれないと想像した。

 そんな想像をした所為か思わず唾を飲み込む呂布。

「確かにそういう事も有り得るかも知れんな。何せ、あの董卓であるからな」

 陳宮の言葉に王允が納得しながら呂布を見る。

 このままでは自分は殺されると言う未来を想像したのか、顔を青ざめさせていた。

 そんな呂布を見て王允達は笑みを浮かべる。

「そうならない為にする事は一つですな」

「うむ。だが、それは難しいであろうな」

「それは一体」

「董卓暗殺だ」

「うむ。董卓を暗殺すれば呂布殿の殺される未来は無くなり、貴殿は董卓を討った英雄として末代まで語られる大業を成した事になりましょう」

 陳宮と王允が董卓の暗殺と口に出した事で呂布は此処に呼ばれた意味を察した。

「王允殿。陳宮殿。貴方方は」

「呂布殿。天下安寧の為にお力添えをして頂きたい」

「それに、貴殿にも得するところがある。もし、董卓の暗殺に成功したら、貂蝉をお主の手に取り戻す事が出来るのだから」

 話を聞いた呂布は少し迷ったが、貂蝉を取り戻せると聞いて決意は固まった。

 呂布は腰に佩いている剣を抜いた。

 王允達はどうなるのか呂布を注視した。

 呂布は持っている剣で自分の腕を切った。

「これが誓約の証だ。この呂布奉先。貴方方の大望の力となりましょうっ」

「おお、呂布殿」

「素晴らしいご決断です。これで漢室は救われるでしょう」

 王允と陳宮は呂布が計画に参加することに喜んだ。

 そして、呂布の傷の治療をしながらどうやって董卓を暗殺するかを話し合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ