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呂布、董卓に恨みを抱く

 数日後。


 長安にある後宮に貂蝉が送られた。

 董卓の義理の息子で身辺を警護しているという理由で本来であれば入る事が出来ない呂布は後宮にも入る事が出来た。

 話をしに行ったり贈り物を届けたりと貂蝉が喜びそうな事をしていた。

 今日も呂布は貂蝉に贈り物をして後宮を出たところであった。

 その後姿を董卓と李儒は物陰に隠れながら見た。

「ご覧下さい。あの呂布があのように後宮に足繁く通うようになったのです」

「ほぅ、あの呂布がのう」

 董卓の義理の息子というだけでも注目の的である呂布。

 そんな彼が頻繁に後宮に通っていれば、直ぐに宮中の噂になる。

 董卓も李儒からそんな噂を来たので興味が湧いて見に来たようだ。

「で、呂布が頻繁に会う女はどんな娘なのだ?」

「最近入ったばかりの女性で名前は貂蝉と言い、王允殿の紹介で王宮に来たそうです」

「ほぅ、王允の紹介か」

「はい。何でも王允の友人が亡くなり身寄りが無いので、自分の紹介で後宮に入れたと」

「ふむ。どれ程の美女か見てみるか」

 呂布がわざわざ会いに来るので、興味が湧いてその貂蝉の顔を見ようとする董卓。

「……相国。人が好む物など人それぞれです。呂布が好みの女性だからと言って相国の興味を引く程の女性とは限りません」

 李儒は董卓が貂蝉に会うのをやんわりと止めるように言う。

 李儒は董卓に噂を事を話す前に、件の女性の顔を見た。

 一目見た瞬間に傾国の美女だと思った。

 董卓と呂布は義理とは言え親子だからなのか、女性の好みが似ていた。

 なので、もし董卓が貂蝉を見たら自分の妾にするのが目に見えていた。

 そんな事になれば、呂布の怒り狂う姿が容易に浮かんだ。

 そうなれば董卓と呂布の仲に亀裂が生じる。そうなれば、自分の身も危うくなる。

 かと言って、自分が教えなくてもその内董卓の耳に入るだろうと予想できた。少し悩んだ末に、此処は自分が教え、その後は会わせない様に誘導する事にした。

 余談だが、李儒も董卓に負けない程に欲深い性格ではあるが妾は一人も居なかった。

 それは李儒の正妻が董卓の娘という事と、その董卓の娘を非常に恐れているので妾を作る事が出来ないからだ。

 そんな李儒ですら貂蝉を見て心が揺れたが、直ぐに妻の顔を思い出して浮ついた気持ちが吹っ飛んだ。

「むぅ、そうかも知れんな」

 董卓も李儒がそう言うので会わなくても良いかと思った。

 それは呂布の正妻に会った事があるからだ。

 何時だったか、呂布の屋敷で宴をした時に呂布の妻に会い挨拶した。

 これと言って美人でも不美人でもない普通の顔立ちであった。

 呂布から聞いた話では前の義理の親の丁原の紹介で結婚したと言っていた。

 丁原が死んだ後も離縁する事なく夫婦をしているので仲は悪くないのだと察せられたが、董卓からしたらこの女子の何処が良いのか分からなかった。

 そんな呂布の好みなので特に可愛くもないのでは?と思ったが、

 そんな時に、貂蝉が姿を見せた。

 手には掃除道具を持っているので、どうやら後宮の何処かを掃除に行くのだろう。

「お、おおおおおおっ⁉」

 物陰から董卓は驚喜した。反対に李儒は手で顔を覆った。

「何と言う美女よ。あれ程の美女は儂の後宮に一人もおらんぞっ」

 董卓は貂蝉を見るなり心を奪われた。

「李儒よ。直ぐにあの娘を儂の侍女にするのだっ」

「……宜しいので? あの娘は呂布の意中の者ですよ?」

 こういう事が分かっていたので会わせたくなかったと思いながら確認を取る李儒。

「構うものか。呂布には儂の後宮に居る美女を何人かやれば、文句も言うまいっ」

 董卓は笑いながら政務に戻った。

 李儒は重い溜め息を吐きながらその言葉に従った。


 二日後。


 呂布は愉快な気分で後宮に向かっていた。

 手には高価そうな簪を持って。

 今の妻とは恋愛もせずに婚姻を結んだので、結婚する前の女性の接し方がイマイチ分からない呂布はとりあえず贈り物を送れば、その内自分に靡くだろうと思い頻繁に贈り物をしていた。

 今日もそんな思いで後宮に来て貂蝉の元を訪ねたが、その姿は無かった。

 何処かに出掛けたのかと思い同僚の者に訊ねると、

「貂蝉でしたら、董卓様の侍女になりました」

「な、何だと……」

 それを聞いて愕然とする呂布。

 衝撃が大きかったのか、手に持っていた簪が入っている包みを落した。

 呂布はその包みを手にする事なく踵を返し、自分の愛馬の赤兎に跨るとそのまま郿城へと駆けた。

 董卓の義理の息子だからか呂布はすんなりと董卓の寝室まで通れた。

 呂布が寝室に入ると衝立から姿を見せたのは貂蝉であった。

 服もやや乱れ髪は簪は抜かれて下ろしていた。

 それだけで、呂布には何が起こったのか瞬時に分かった。

 呂布が声を掛けようとしたが、貂蝉は目から涙を流し顔を背けた。

 まるで、自分は穢されたと言わんばかりに。

 呂布は何も言えず凝然としていると、貂蝉の後ろから寝間着姿の董卓が姿を見せた。

「呂布。何しに参った?」

「あ、いえ、私は……朝議へのお迎えに参りました」

 呂布は少しの間、言葉を詰まらせたが当たり障りのない事を言って場を繕った。

「そうか。では、支度するから、暫し待て」

 呂布にそう言ってから貂蝉を笑顔で見る。

「貂蝉や。着替えを手伝っておくれ」

 猫撫で声で言う董卓。

「はい。相国様」

 貂蝉は笑顔で応えると、董卓は笑顔を浮かべつつ衝立の向こうに行く。

 貂蝉は董卓の後に続いたが、足を止めて呂布を見る。

「……もう、私の事は忘れて下さい」

 そう言って貂蝉はまた涙を流しながら衝立の向こうに消えた。

 その後姿を見送った呂布は血が出る程に拳を強く握っていた。

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