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残酷な宴

初平二年(西暦191年)。十二月。


 後もう少しで年越しという時期に長安の近くにある郿城にいる董卓の元に孫堅が敗死した情報が齎された。

「ははは、そうか。孫堅が死んだか。はははは」

 上座に座った董卓は孫堅が死んだという報を聞いて手を叩いて喜んだ。

「真に。これで相国に歯向かう敵が減りましたな」

 側にいる李儒も董卓に賛同する様に喜んだ。

 董卓は手を叩くのを止めたが、顔は喜色満面のままであった。

「李儒よ。今宵は宴を行うぞ。諸卿大臣達を我が城に呼び寄せよ」

「ははぁ。承知しました」

 李儒は一礼して離れて行こうとしたが、董卓は呼び止めた。

「待て。李儒。これを機に朝廷に蔓延る不穏分子を一掃するぞ」

「不穏分子ですか? それは一体誰の事でしょうか?」

 今の所、歯向かう者達が誰なのか分からない李儒は誰なのか分からず訊ね返した。

「決まっている。衛尉の張温だ」

「あの者ですか。しかし、罪状が」

「ふん。前々からあ奴は袁術と親しくしているそうだ。其処を使う」

「では、張温を呼び寄せて袁術と内通しているという事で」

「そうだ。張温の処刑が終わったら…分かるな?」

「承知しました」

 李儒は頷くのを見て董卓は宴が楽しみなのか笑い出した。


 その夜。


 郿城の大広間にて宴が行われた。

 山海の珍味を取り寄せて目も鼻も楽しませた。

 宴を楽しませる音楽が鳴り響く。

 宴に参加している大臣達は楽しみつつも、今日は何のお祝いで宴が行われているのか知らないのでいた。

 その内、董卓か誰かが教えてくれると思いそれまで酒と料理を楽しんだ。

 そんな折、董卓が手を掲げると音楽が鳴り止んだ。

「皆の者。今宵は宴に集まり楽しんでくれている様で何よりだ」

 董卓が酒を掲げつつ言う。それを聞いて大臣の一人が気になっていた事を訊ねた。

「相国。今宵はどのような祝いで宴を行われたのですか?」

 大臣の問い掛けに董卓は直ぐには答えず含み笑いをし酒を煽った。

 側にいる侍女に酒を注がせながら董卓は面白そうに話した。

「今宵の宴は儂に歯向かう仇敵の孫堅が死んだ事を祝っての宴だ」

 それを聞いて大臣達は顔を顰めた。

 まさか、人の死を祝って宴を行うと聞いて祝うなど彼等の常識では有り得ない事だからだ。

「ははは、しかも嘗ては儂と歯向かう仇の劉表と戦い敗れたそうではないか。滑稽な事では無いか。はははは」

 董卓は面白いのか笑っていたが、大臣達は顔を凍り付かせるだけであった。

「どうした? 皆の者。面白くないのか? うん?」

 董卓が笑うのを止めてそう訊ねて来た。

 董卓の顔を見てこれは笑わないと殺されると思ったのか、大臣達は顔を引きつらせながら笑い出した。

「そうか。それ程に面白いか。皆も儂と同じ気持ちで嬉しく思うぞ。ははは、さて、音楽を鳴らせ。宴を楽しもうぞ」

 董卓が笑顔でそう言うので楽士達は楽器を取り音を鳴らした。

 音楽が鳴りだしたので、大臣達は料理と酒に手を付けて嫌な気持ちを紛らわせた。

 その大臣達の中には王允と張温の姿があった。

 二人は長く朝廷に仕えた事で古くからの友人であった。その事を考慮してか隣の席であった。

「今宵の宴がその様な事で開かれたと知っていたか?」

「いや、知らぬ。知っていれば、来なかったものを」

 張温の問い掛けに王允は首を振りながら溜め息を吐いた。人の死を祝う宴など二人の常識からしても考えられない事だからだ。

 その後、二人は無言で酒と料理を食べたが、今回の宴の趣旨を聞いて美味しいという思いがしなかった。

 このまま宴が終わるのを待つだけだと思われたが。

 其処に呂布が入って来た。

 呂布は董卓に一礼すると、宴の席に居る大臣達を睥睨した。

 そして、張温を見つけると近付いてその襟首を掴み引きずり出した。

「な、何をする⁉」

「黙れ。謀反人。貴様が袁術と繋がっている事など相国はお見通しだっ」

「何を言って、濡れ衣だ!」

「黙れっ」

 呂布は張温を引き摺り董卓の前まで連れて来た。

「張温。まさか、袁術と親しくしているからと言ってその袁術と通じるとは」

「ま、お待ち下さい。相国。私は袁術と通じてなど」

「黙れい‼ 呂布。裏切り者の見せしめとしてこの場で斬れっ」

「はっ」

 董卓の命令により呂布は腰に下げている剣を抜いた。

 煌めく刃を見て張温は顔を引きつらせる。

 恐怖のあまりに言葉が出ないのか、口をパクパクさせた。

 呂布は容赦なく刃を振り下ろし張温の首は胴体と泣き別れとなった。

 斬られた張温の首が床に落ちると、一拍置いて胴体も床に倒れ赤い花を咲かせた。

 大臣達は一様に恐怖の叫び声を挙げ、持っていた箸や杯を取り落として顔を青ざめさせた。

「はははは、裏切り者には良い末路よ」

 張温の首を見て董卓は笑いながら酒を煽った。

「呂布。首尾はどうであった?」

「はっ。張温の一族郎党は殆ど捕らえました」

「殆ど? 何人か逃がしたのか?」

「はっ。張温の娘と孫が家人と共に逃げ出て今、探させております」

「……まぁ良い。明朝、捕らえた張温の一族は処刑しろ。その二人も見つけ次第処刑せよ」

「はっ」

 呂布はそう言って一礼して部屋から出て行った。

 呂布と入れ替わる様に兵士が入って来て、張温の死体を片付けに掛かった。

 片付けられる友人の死体を見て王允は人知れず涙を流した。

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