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火薬の実験

 曹操が気を揉んでいる頃、曹昂は火薬の実験を行っていた。

 濮陽から東に行った所にある小さな砦で火薬を使った兵器の効果を見ていた。

 砦に居る兵士達は用意した土器に火薬を詰めて、導火線としての油を沁み込ませた縄を入れ、その土器に蓋をして外れない様に縄で縛る。

「公劉様。準備整いましたっ」

「良し。若君。何時でも完了です」

「じゃあ、始めて」

 曹昂が開始の声を上げると史渙は無言で手を掲げた。

 すると、兵士達は松明の火を導火線に着ける。

 油を沁み込ませた事で直ぐに火が付き、火が縄に伝った。それを見た兵士はすぐさまその場を離れた。

 そして、その火が土器の中にある火薬に着いた瞬間。

 ドガン‼

 大きな音を立てて爆発と土器の破片を周りに撒き散らせた。

 爆発が終わると周囲に焦げた匂いと硝煙を生んでいた。

「これは・・・・・・」

 先程の兵器の破壊力を見た史渙は生唾を飲み込んだ。

 黒い粉薬の様な物に火を着けると、あれ程の爆発と轟音を生み出すと知り驚いている様であった。

 同じくその爆発を見ていた曹昂は冷静に観察し思考していた。

(不純物が多いと言われる火薬でもこんなに凄いのか。これに金属片とか入れたら更に破壊力を増すだろうな。火薬も出来たんだから、その内火縄銃も出来るかな? いや、この時代の製鉄技術では難しいか)

 火薬が出来た事で技術が発展するだろうと考えたが、今の製鉄技術では無理かもしれないと判断する曹昂。

 なので、暫くは火薬を使った兵器を作る事に決めた。

「若君。これは何と言う兵器なのですか?」

「火の薬と書いて火薬という兵器だよ」

「成程。土器の中に入れた黒い粉は薬なのですか」

「そう。配合については、今の所は僕だけしか知りません」

「何故、誰にも教えないのですか?」

「機密保持ですよ。まぁ、軍の規模が大きくなったら、誰かに教えるでしょうね」

 出来れば武官よりも文官の方が良いなと思う曹昂。

 武官では教えても戦死する可能性があったが、文官の場合は病死する事はあるが武官よりも死ぬ確率は低いと言えた。

 それと、口の堅い人が望ましかったが、今の所それに該当するのが荀彧しかいなかった。

「文若先生と公劉殿と劉巴にはその内教えるとしても、後誰に教えるべきだろうか・・・・・・まぁ気長に探すか」

 曹昂が気軽に呟くと史渙に指示を出した。

「じゃあ、次は先程の工程で同じ物を作って、今度は縄で投擲できる様にして下さい」

「承知しました」

 曹昂の命に従い史渙は部下に土器に火薬を詰めて投擲武器にする様に指示を出した。

 その指示を聞きながら、曹昂はふと思った。

(この武器って焙烙玉(ほうろくだま)だったかな? 焙烙玉(ほうらくだま)だったけ? どっちだったかな?)

 曹昂の前世の知識では両方言われていたが、この場合どっちで呼べばいいのかなと悩む曹昂。

 一人で悩んでも答えは出なかったので史渙達に訊ねて、どちらにしようか話し合った。


 曹昂がどうでも良い事で話し合っている頃。

 曹操は濮陽の一室で使いに出した者から文を貰い読んでいた。

 その文を書いたのは荀彧であった。

 『東阿県に程立という優れた知者が居るので、その者と策略の相談をするのは如何ですか。それともう一人推挙いたします。その者については後日、そちらに戻った時にお話ししますのでお待ちください。程立殿であれば招けば来ます』

 と書かれていた。

「ふむ。荀彧が推薦するのだから、まず間違いはないか」

 とりあえず、相談する者が欲しかったので曹操はその文の言葉に従い東阿県に居る程立に自分の元に招聘したい旨を書いた文を送った。

 それから十数日後。

 相変わらず曹昂は捕まらなかったが、その代わりとばかりに程立が曹操の元にやって来た。

「よく来てくれた。仲徳殿」

「お招きにより、程立仲徳。参りました」

 上座に座る曹操に程立は頭を下げた。

 曹操からしたら半信半疑であったので、少しだけ驚いていた。

「お主の様な才を持った者が我が元に来てくれて感謝する。どうか、その知恵を私の為に使ってくれないだろうか」

 曹操は丁寧に頼むと程立は深く頭を下げた。

「この老骨がお役に立つというのであれば、どうぞ好きなだけお使い下され」

 程立は額を突かんばかりに頭を下げるので逆に曹操が恐縮した。

「頭を上げてくれ。これでは話が出来ん」

「はっ。では」

 程立が頭を上げるのを見て曹操は気になり訊ねた。

 程立が娘の程丹を使って曹操が仕えるに値するかどうか調べていたのだが、その事を知っているのは曹昂だけであった。

 その曹昂は、その事を曹操に話していなかったので、曹操は知らなかったのだ。

「それで、どうしてお主は我が元に来てくれたのだ。人伝に聞いたが前任の劉岱がお主を騎都尉に任命しようとしたが、お主は病気を理由にこれを拒絶したと聞くが」

 曹操からしたら其処が不思議であった。

 劉岱は世に名の知られた傑物。そんな劉岱の招きを断るのはどういうつもりなのか気になっている曹操。

 訊ねられた程立は静かに笑った。

「簡単な事です。私の目からしたら劉岱は仕えるに値しませんでしたが、孟徳様は仕えるに値すると思い招きに応じたのです」

「ははは、それは嬉しく思うぞ」

 世辞を言われたのだと思い笑う曹操。

 その後、二人は存分に語りあった。そのお陰で程立は寿張県令に任じられた。


 その頃、済北郡に居る荀彧の元にある人物が訪ねていた。

「おお、よく来てくれた。奉孝」

「文若殿。貴殿が文を出してまで仕えるように推薦した御方なのでな。どのような者なのか顔だけでも見ておこうと思いましてな」

「はは、そうか。安心してくれ。袁紹の様に見た目は立派だが中身が無いという事だけはないからな」

「それは会うのが楽しみです」

 奉孝という者は不敵に笑った。

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