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仲良くなった理由はそんな事で

 北上した曹操達は東郡に入った。

 そして、州牧の劉岱が州治を行っている濮陽へと向かった。

 五斗米道の使者と交渉しているからか、道中で黄巾賊に襲われる事無く進む事が出来た。

 程なくして、濮陽に到着する曹操。

 しかし、到着しても出迎えの使者などは居なかった。

「ふん。こうして赴任したのだから、出迎えの使者ぐらいは用意しても罰は当たるまいに」

「それだけ、黄巾賊の対応に忙しいのでは?」

 悪態つく曹操を曹昂が仕方がないと宥めるが、曹操は鼻で笑った。

「はっ。籠城すれば良いものを、城から打って出て攻撃する様な馬鹿だからな。私が赴任した事も忘れているだけかもしれんな」 

 それはないだろうと思う曹昂。

「まぁいい。誰か。城門に向かい、曹操が東郡に来た事を告げに行け」

「はっ」

 曹操の命に従い、兵士の一人が城門まで向かって行った。

 その兵士が城門に向かって叫んだ。暫くすると兵士の返答と言わんばかりに門が開いた。

 其処から出て来たのは鮑信であった。

「孟徳殿。お久しぶりですな」

「これは允誠殿」

 曹操は鮑信の姿を見るなり馬から降りて挨拶をした。

 反董卓連合軍の時はお互いに協力した仲だから、礼儀を示す為だ。

「まさか、貴殿が此処にいるとは。公山殿はどちらに?」

「軍勢を率いて州境に赴き黄巾賊の襲来に備えている」

「州牧自らですか?」

「そうだ。困ったものだ。正直に言って城で籠城し、相手が疲れた所を急襲しその勢いのままに攻めれば黄巾賊など根切りに出来ると言うのに」

 劉岱のやる事にほとほと困っているのか、鮑信は呆れた様に首を振る。

「仕方がない。何せ、つまらぬ諍いで同志を殺す様な男だ。器の底が知れるというものだ」

 曹操が言うつまらぬ諍いとは暗に橋瑁を殺害した事を言っているのだろう。

 それが分かった鮑信は苦笑いするだけであった。

「まぁ、兎も角。州牧が濮陽に帰還するまで自由にしていてくれ」

「ありがたい。そろそろ、寝台で眠りたいと思っていたのだ」

 曹操と鮑信。

 年齢で言えば鮑信の方が三つ程上なのだが、そんな歳の差など感じさせない仲の良い友人の様であった。

 鮑信の案内で曹操達は濮陽へと入城した。


 曹操達が濮陽に入ってから数日後。

 城内にある一室で丁薔と曹操が珍しく仲睦まじくしていた。

「平和だな……」

「そうですね」

 曹操は丁薔の膝に頭を置いて横になっていた。

 丁薔は曹操の耳掃除をしていた。

 日が差す中庭を見ながら二人はのほほんとしていた。

 曹操はここ最近忙しく丁薔の相手をしていなかったので、暇になったこともあり相手をする事にした。

「こうして、二人で過ごすのは久しくありませんでしたね」

「そうだな。お前と婚姻した後は洛陽の北部尉になったり、頓丘県令、議郎になったりと忙しくてお前の元にいなかったからな」

「そうですね。私の代わりに蓮を連れて行くぐらいは余裕がありましたけどね」

 言葉に棘を感じる曹操。

 そんな曹操を見て丁薔はふっと笑みを浮かべた。

 話す前に曹操の耳から耳かきの道具を離した。

「まぁ、わたしは昂達の世話もありましたから、付いて行けない事にも納得しましたけどね」

「うむ。そうだな」

 久しく無かった長閑な時間。

 それで気が緩んだのか曹操は前々から気になっていても訊ねなかった事を訊ねる事にした。

「薔よ」

「何です?」

「お前、何時から蓮の事を妹と言うぐらいに仲良くなったのだ?」

 最初の頃は妓女だったという事で酷く毛嫌いしていた卞蓮の事を、何時の間にか妹と言うぐらいに親しくなっていた。

 気になっていたのだが訊ねづらい事であったので曹操は今の今まで訊ねる事が出来なかった。

 今はこの場に二人しか居ないので、聞いても問題ないと言えた。

 丁薔は少し考えこむと笑みを浮かべながら口を開いた。

「別に大した事ではありませんよ。あの子は私が辛く当たっても仕えてくれたのですよ。別段、性格も悪くない上に昂とも仲良くしているのに、自分だけ軽蔑するのも馬鹿馬鹿しいと思いましてね」

 別段理由は無いと話す丁薔。

 曹操も特に理由は無いと思っていたが。

「それにあの子は良い物をくれるのですよ」

「良い物?」

 何だ。それは?という顔をする曹操。

「蜂蜜の搾りかすで作った化粧品をくれたのですよ。手紙には肌が潤うと書かれていたのですが、半信半疑で物は試しで使ったら、本当に肌が潤いましてね」

 自分の肌を触りうっとりとする丁薔。

 それで仲良くなったのかと察する曹操。

「それだけではなく、蓮の紹介で知って贔屓にしている商人が作った乳液という物を試したのです。これがもう最高で、まるで少女時代の肌に戻った気分です」

 自分の肌に潤おうのが嬉しいのか身体をくねくねと動かす丁薔。

「にゅうえき? 何だ? それは?」

「さぁ、私も詳しくは分かりませんが。何でも卵黄油を使った化粧品だそうです」

「卵黄油? 何だ、それは?」

 丁薔の説明を聞いても曹操は首を傾げた。

 しかし、丁薔がそれで卞蓮の事を気に入ったのだと分かったので、それ以上聞かない事にした。

(多分、息子()が関わっているのだろう。ふっ、開発しても、自分経由では無く蓮経由で渡して仲を取り持つか、我が息子ながらやりおるわ)

 丁薔が肌の潤った事を自慢げに話すのを聞きながら曹操は丁薔の膝の温かみと柔らかさを堪能しながら安らいでいた。


 曹操と丁薔が夫婦仲良くしている頃。

「へくしっ」

 作業を見学していた曹昂は突然くしゃみをしだした。

「どうした? 風邪か?」

 護衛として一緒に見学している董白が曹昂の身体を気遣う。

「いや、そんな事はないんだけど……」

「なら良いけどよ」

 董白は改めて今している作業を見ていた。

 大きな鍋には卵黄が大量に入っており、木べらで満遍なく混ぜられていた。

 火力としては弱火であったが、何時間も火に掛けられているからか卵黄は顆粒の様になり、焦げた匂いもしてきた。

「これが化粧品になるのかよ?」

「そうだよ。これをもっと焦がして、黒くなってくると液体が出て来るんだ。それを濾したら卵黄油の出来上がりだよ」

「ふ~ん。この卵黄油があの乳液っていう商品になるのか」

「正確に言えば、それに水と油を混ぜて出来上がりだけどね」

 作業を見ながら曹昂は付け足した。

 今、曹昂達が居る場所は濮陽にある『三毒』の活動拠点の一つの店の中だ。

 曹操が東郡に行く事が決まった時から、事前に陳留にある秘密製作所の一部門を濮陽に移していた。

 移動した一部門は化粧品を作っている所だ。

 それで今までは蜂蜜の搾りかすで作った化粧品であったが、移転した記念に新しい化粧品を作ろうと考えた曹昂。

 前世の知識を思い返してみて、乳液が思い浮かんだ。

 乳液とは簡単に言えば乳化剤と油と水を混ぜれば出来るという物なので、化粧品の中では作りやすいと言える物だ。

 当初、曹昂は大豆の乳化剤を作ろうとしたが、それが出来なかった。

 それはこの国で取れる大豆は食材。牛と鳥の飼料。油を搾る。その搾りかすは肥料という具合に多く使われる。

 あまりに需要が高いので手に入れても乳化剤の製造費などを含めるとギリギリ赤字になるかならないかというところであった。

 曹昂はどうした物かと考えていると、大豆以外でも乳化剤を作れる物を思い出した。

 それが卵黄油だ。ちなみに、卵黄油には大豆から取れる大豆レシチンと同じ卵黄レシチンが含まれている。

 この時代、卵を食べはするが大豆ほど需要が高いとは言えなかった。なので、手に入りやすいと言えた。

 まだ無精卵と有精卵という考えが無い為、あまり卵を食べない慣習がある為だ。

 それに目を付けた曹昂は卵黄油を作り、それから乳化剤を作る事にした。

 製品化には成功したが、ちゃんと出来ているのか気になった曹昂は自分の母である丁薔で試す事にした。

 商人に扮した『三毒』の構成員を卞蓮の紹介という名目で丁薔の元に送り使い心地を確かめさせて、問題なしと分かりそれから商品として売り出した。

 無論、卞蓮にも話は通しており、一応乳液を幾つか送っていた。

「お前、自分で作った物を母親で試すとか、どうなのよ」

「母上も喜んでいるから問題ないよ」

 寧ろ乳液を送ってから機嫌が良いので、これから何か問題を起こしたら乳液を送って誤魔化そうと決めた曹昂。

 そして、二人は卵黄油が出来る工程と其処から乳液を作る工程を見た。


 乳液の製造工程を見終わった曹昂達は今日、やるべき事を終えたので城に戻ろうとした。

 馬だと目立つので歩きで街中を進んでいると。

「あら、こんな所で会えるとは奇遇ね」

 歩いている曹昂の前に程丹が現れた。

 程丹の傍には二十代後半の男性が居た。

 端麗で清雅で品格のある容姿。

 長さも形も立派に整えれられた口髭と顎髭。

 丸く大きな目には理知的な光を宿していた。

 綺麗な絹の服に福巾を着用し、指には翡翠()が付いた指環を嵌めていた。

 男性の身なりをパッと見た所、何処かの富豪の息子か?と思う曹昂。

 董白はどう思っているのだろうと思い訊ねようとしたら。

「お前、何で此処にいるんだよ? 陳留に居たんじゃあねえのか?」

濮陽(ここ)は私の故郷の近くなのよ。それに、私の父の友人が孟徳様に会いたいと言うから会いに来たのよ」

 董白は程丹を睨んでいた。

 睨まれている程丹は気にした様子も無く微笑んでいた。

「ほぅ~、で、その男は誰だよ?」

 董白は目線を程丹から男性に移した。

 不躾な視線を浴びても男性は気にした様子はなく董白に対して一礼する。

「お初にお目に掛かります。わたしは荀子十一世の孫である荀淑の孫で名を荀彧。字を文若と申します」

 丁寧に名乗る男性こと荀彧。

 その名を聞いても董白は誰なのか分からず首を傾げたが、曹昂は目を見開いた。

(荀彧って、あの『王佐の才』を持つと言われた荀彧で父上の参謀になる人じゃないか。どうして、そんな人が程丹さんと知り合いなんだ?)

 曹昂は目の前に荀彧が居る事よりも、その荀彧を連れて来た程丹が何者なのか気になった。

 思わず見ていると、その視線に気付いた程丹は何も言わず微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっとこさ王佐が登場だー! 司馬懿が楽しみ。
[良い点] やった〜荀彧キタ 待ちくたびれましたよ このお話の中で主人公とどう交わるのか注目して読みたいです。 主人公のタイプ的に衝突するでしょうか? 意気投合するかもしれませんね。 [気になる点] …
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