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年を越して

 初平二年(西暦191年) 一月某日。


 長らく留まっていた陳留を発つ曹操達。

 張邈は門の外まで出て見送りに来た。

「ではな、孟徳。暫くの別れだ。赴任先でも頑張るのだぞ」

「お主もな。猛卓」

 曹操と張邈の二人は互いの健勝を祈りつつ別れた。

 曹操が馬に跨り、離れて行く。その背が見えなくなるまで張邈はその場に留まり続けた。


 かなり進み、張邈の姿が見えなくなった頃。

 曹操は曹昂を呼び出した。

 呼び出された曹昂は曹操の傍に馬を寄せた。

「父上。何用でしょうか?」

「五斗米道の者達からの連絡はあるか?」

 その問いに答える前に、馬周りに誰かが聞き耳を立てていないか確認を取る曹昂。

 誰も聞き耳を立てていない事を確認した曹昂はあまり声を立てないで話した。

「『三毒』からの報告だと、黄巾賊の指導者と接触。交渉に入ったとの事」

「成功するのか?」

「報告では、指導者達も話に乗り気だとか。ただ」

「ただ、何だ?」

「棄教させられるのではという気持ちもある様でして。こちらに降伏するかどうか決めかねているそうです」

「ふむ。宗教というのは面倒なものだ」

 鼻を鳴らす曹操。

「信者にとって信仰するものを奪われるという事は、自分の命を奪われるのと同じと考えれば良いと思います」

「そういうものと考えれば良いのか。であれば、信仰の自由と生活の保護を認めれば、私の元に降伏すると考えれば良いんだな?」

「はい。そうなりますね」

「しかしな。黄巾賊は百万と言うではないか、それだけの数を私がこれから治める郡に入植させるのは無理だな」

「そうですね。其処は州牧にでもならないと駄目ですね」

 まだ先の話だなと思いながら曹昂は苦笑いする。

 だが、曹操は少し考えていたが、何かを思いついたのか悪い笑みを浮かべた。

「息子よ。こういう策はどうだ?」

 曹操は自分が考えた策を話し出した。

 それを聞き終えた曹昂は思いっきり顔を顰めた。

「……やってみないと分かりませんが。正直に言って、父上」

「何だ?」

「父上は本当に奸雄ですね」

「ふふふ、お前がそう言うとは。私の智謀も凄いという事だな」

 曹昂は嫌味を込めて言ったのだが、曹操は褒められた様に喜んでいた。

「向こうにそう伝えますが、するかどうかは向こうが決める事ですよ」

「その通りだ。向こうが拒否した時は、その時はその時で別の手を使うだけだ」

「分かりました。では、後で文を送りますね。ところで話は変わりますが。今、東郡は誰が治めているのですか?」

「今は太守が赴任するまでは州牧の劉岱が濮陽を拠点にして治めているそうだ」

「州牧が東郡を守っているのですか。だとしたら、父上の策も上手くいく可能性がありますね」

「であろう。細かい調整はお前に任す。上手く私の策通りにしろ」

「承知しました」

 曹昂は一礼すると、曹操から離れて行った。

 曹昂が離れるのを見送ると、曹操は小さく呟いた。

息子(あやつ)もまだまだだな。しかし、こうして謀略の事で相談できるのは良いが。相談できるのが一人だけと言うのは問題だな。何処かに高祖に仕えた張良の様な者はいないものか」

 贅沢だと思いながらもそう思わずにいられない曹操。

 東郡に入ったら探してみるかと思いながら青い空を見上げた。

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