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準備は整ったようなので

「その韓浩という人物は凄いんですか?」

 そう訊ねつつも曹昂は前世の記憶から韓浩がどんな人物か知っていた。

  司隷州河内郡の生まれ。若い頃に、繰り返し襲ってくる盗賊に対して自警団を作り撃退する。

 これを評価され、元河内郡の太守の王匡に従事することを任命されて董卓と孟津にて戦った。

  董卓は韓浩の舅を人質に韓浩を招こうとしたが韓浩はこれを断ったので、 袁術はこれに感心して韓浩を騎都尉に任命した。

 そして、史書によっては曹操に屯田を提言した優れた政治家とも愚鈍な武将とも言われる人物だ。

「優れた人物だそうだ。今日会ってみて、どんな人物なのか見極めるつもりだ。話が本当なら、部下になるように声を掛けるつもりだ」

「そうですか。ちなみに、他にはどんな人が集まったのですか?」

「お前は会った事があるだろう。典韋だ」

「ああ、あの人ですか」

 見るからに豪傑という風貌をしていたので曹昂は良く覚えていた。

 曹操が董卓を追撃した時、あの呂布と互角に打ち合ったという話もある程の傑物だ。

 そんな男をみすみす勧誘しない筈がないなと曹昂は思った。

「各地を回ったが、集まった兵は歩兵騎兵合わせても二千ほどだからな。我が軍を強くする為には人材で補強するしかない」

 思ったよりも兵が少ない事に嘆息する夏候惇。

 そう話していて、夏候惇は曹昂を見た。

「お前の方は如何だ? どれくらい集まった?」

「ええっと…………一万ほど集まりました」

「……うん? すまん。もう一度言ってくれ」

 曹昂が小さい声とあまりに自分が集めた兵よりも多いので、思わず聞き返す夏候惇。

 言った本人もこんなに集まるなど思いもしなかったので、目を泳がして観念するかのようにもう一度言った。

「……騎兵歩兵合わせて一万三千程になります」

「…………」

 言い淀みながら曹昂は正確な人数を教えた。

 夏候惇はその人数を聞いて感心するよりも戸惑っていた。

「お前、どんな方法でそれだけの人数を集めたのだ?」

 夏候惇は曹操の名声を使って集められるだけ集めたというのに、曹昂はどんな方法でそれだけの人数を集めたのか想像も出来なかったから訊ねた。

「……色々と事情がありまして。話せば長くなります」

「そうか……」

 曹昂が遠くを見るので、夏候惇は何かしらの苦労したんだろうと思い深く聞く事は止めた。

 だが、気になる事はあったので其処だけは訊ねる事にした。

「良くこの地に来るまで食糧が持ったな。一万も入れば食糧の消費は馬鹿にならんだろう」

「其処は優秀な切れ者を配下に加えたので、何とかなりました」

 あの時ほど、劉巴を部下にして良かった思う曹昂。

「ほぅ、それは凄いな。どんな者なのだ?」

「僕と同い年ぐらいですね」

「……そうか」

 曹昂と同い年と聞いて、そいつも神童か何かか?と想像する夏候惇。

 会った時に話を聞けば分かるだろうと思い、それ以上の事を考えるのは止めた。

 幾ら想像してもどんな人物なのか分からないからだ。

「さて、そろそろ元嗣に会いに行くとするか」

 話したい事は終わったので夏候惇は韓浩に会いに行く事にした。

「じゃあ、僕はこれで」

 曹昂はこれから行動は共にするのだから、その内紹介して貰えるだろうと思い夏候惇に付いて行く事はしなかった。

 一礼してさっさと出て行った。

 夏候惇と別れた曹昂は書庫に戻り、本を数冊借りると部屋へと戻った。


 それから数日後。


 使用人が曹昂の下に袁術の言伝を伝えに来た。

「準備は整ったので、何時でも出立出来るとの事です」

 その言伝を聞いた曹昂は直ぐに出立の準備に掛かった。


 翌日。


 いよいよ、魯陽を出立する日となった。

 城内に複数ある庭で曹昂は袁玉が来るのを待っていた。

 普段であれば馬に乗るのだが、袁玉を娶るという事なので、一緒の馬車に乗る事になった。

(……この馬車に乗るのか)

 曹昂は思わず傍にある馬車を見た。

 車輪は四つあり傘を付けられており、赤い布を花の形を模した様に結ばれ金や銀や玉と言った宝石で所々に飾られていた。

 その上馬車を引く馬全てが白馬で四頭立てという豪華な馬車であった。

 白馬は他の馬に比べて生まれるのが稀な上に、神への生贄にも使われる役割を持った象徴ともされていた。

 馬車を曳くのが白馬という時点で此度の婚姻に意気込んでいる事がハッキリと分かった。

 この馬車に乗って帰るのかと思う曹昂。

 そう思案していると、夏候惇が見慣れない人物を連れてやって来た。

「正妻が居るのにもう、側室を娶るか。父にも負けぬ位の手の速さだな。曹昂」

 面白そうに笑う夏候惇。

「笑わないで下さいよ。元譲殿」

 曹昂もこんな事になるとは思いもしなかったので、夏候惇が揶揄ってくることにムッとしていた。

 顔立ちが母親に似ている所為か、本人は睨んでいるつもりなのだろうが、夏候惇達からしたら可愛らしく見えた。

 曹昂がそんな顔をしているのを見て夏候惇は苦笑しながら手を振る。

「すまん、すまん。子供の頃から知っているお前が妻を二人も娶ったのかと思うと、歳月の速さを感じてな。つい揶揄いたくなったのだ」

 ついでで揶揄うのは止めて欲しいと思ったが、夏候惇なりに今回の婚姻を祝っているのだろうと思い曹昂は肩を竦めるだけにとどめた。

 それよりも、夏候惇の隣に居る人物が気になって仕方が無かった。

「元譲殿。こちらの方は?」

 曹昂は訊ねながらその人物を観察した。

 年齢は二十代後半で口髭を生やしていた。身長は夏候惇と同じ位であった。

 逞しげではっきりした目鼻立ちした顔立ち。体格も立派で着ている服も小奇麗であった。

「こちらは韓浩殿だ」

「お初にお目に掛かります。若君。私は韓浩。字を元嗣と申します」

「これはご丁寧にどうも」

 韓浩が挨拶してきたので、曹昂は頭を下げた。

「話は元譲殿から聞いております。何でも麒麟児と言っても良いと言える御方だとか」

「ははは、それは買い被り過ぎですよ」

 曹昂は別に何でもない風に言うが、韓浩は夏候惇から聞いた話を知っているので謙遜しているのだなと思った。

 そう話していると、音楽が鳴り始めた。

「ようやく来たか。じゃあ、我々はお前達の後に付いて行かせてもらうからな」

「別に元譲殿が先頭でも構いませんよ」

「馬鹿者。婚姻を交わした者達が先頭に居なかったら、誰と誰が婚姻したか分からないだろうがっ」

 言われてみるとそうだよなと納得する曹昂。

 夏候惇達は一礼してその場を離れて行った。

 夏候惇達が離れて直ぐに、袁術と着飾った袁玉が姿を見せた。

 花嫁という事だからか、赤い衣装に同じ色の面紗(ヴェール)を被っていた。

 袁玉が着ている衣装には鴛鴦が描かれていた。

 これは春秋時代の故事である【鴛鴦の偶】にちなんで描かれたのだろう。

「婿殿。準備は整ったぞ」

「はい。義父上」

 曹昂がそう言うと、袁術は満足そうに頷いた。

「うむうむ。良い響きだ。今後とも、お主の父共々よろしく頼むぞ」

「はい。父にはそう伝えます」

 曹昂の返事を聞いて袁術は頷いた。

「では、義父上」

「うむ。娘を頼んだぞ」

「はい」

 曹昂は袁玉の手を取り馬車に乗り込んだ。

 曹昂達が馬車に乗り込むと御者台に居る御者が馬に鞭打って進ませた。

 その後を曹昂が率いて来た軍勢が粛々と続いて行った。

 やがて、城を出ると沿道に集まった者達が万歳と唱和しながら曹昂達に手を振る。

 皆明るい顔を浮かべていた。

 喜ばしいという事で喜んでいるのだろう。

 曹昂達は笑顔で集まった人達に手を振った。

本作では韓浩の生年は165年とします

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