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新婦を連れて

翌日。


 魯陽の城内にある部屋で休んでいた曹昂が目覚めて、朝食を取っていると。

 戸が叩かれた。

 曹昂は誰だろうと思いながら、貂蝉に戸の方に向かわせた。

「どなたでしょうか?」

『朝早くに失礼する。公路様から言付けを預かりましたのでお伝えに参りました』

 戸の向こうに居る者の声が聞こえたので、曹昂は開けて良いと手で合図した。

 貂蝉は戸を開けると使用人と思われる者がおり、その者は一礼して部屋に入って来た。

「公路殿の言付けと言っていたけど、何かな?」

「はっ。『素晴らしい贈物を貰い感謝する。ついては返礼を込めて昼餐を共にしよう』との事です」

「それはありがたい。何処に行けば良いのですか?」

「時間になりましたら、人を送りますので。それまで部屋に居て下さいます様にお願いします」

「公路殿には承知したと伝えて下さい」

「はい。では」

 使用人は一礼して部屋から出て行った。

 その姿を見送ったあと、貂蝉は話し掛ける。

「よろしいのですか?」

「何が?」

「公路様が開く昼餐です。それはつまり」

「皆まで言わなくても良いよ。この郡で苦しんでいる人達の血税で作られた料理が並んでいるって言いたいんだろう」

「はい」

「向こうが誘っているのに断ったら角が立つ。まして、公路殿は義理の父になるんだよ。そんな人の誘いを断れば後々面倒な事になるよ」

「言われたら、その通りでした」

 貂蝉は納得した様に頷くと曹昂は箸を置いた。

「昼餐に出る用の服を用意しておいて」

「畏まりました」

 貂蝉はそう言って別室に向かう。曹昂は朝食を再開した。


 正午頃。


 城の大広間にて昼餐が行われていた。

 大広間の割に参加しているのは曹昂。袁玉。袁術の親族であった。

 上座には曹昂と袁玉が座っていた。

 下座には袁術。その袁術の妻の馮方女と子の袁燿。従弟の袁胤。娘婿の黄猗といった親族が居た。

 流石に日頃から仲が悪い袁紹はこの場には居なかった。

(あれ? 袁術の従兄の袁遺さんの姿はないな。どうしたんだろう?)

 反董卓連合軍にも参加していた諸侯の一人で軍議の席で、曹昂は何度か挨拶をしたので覚えていた。

 曹昂の父曹操も袁遺の才能には一目置いており曹昂に、

『お前も袁遺殿の様によく勤めて学ぶのだぞ』

 と言う程に高く評価していた。

(袁紹殿とは仲が悪いのは知っていたけど、袁遺さんとも仲が悪かったかな?)

 反董卓連合軍の時の事を思い返す曹昂。

 よくよく思い返して見ると、袁遺は袁術よりも袁紹と親しくしていた事を思い出した。

 それでこの場に居ないのだと察した。

「では、我が娘の袁玉と曹操の息子曹昂の婚姻を祝って、乾杯」

 袁術が上座に居る曹昂達に一礼して下座に居る者達に一礼してから盃を傾けて酒を飲んだ。

 曹昂達も盃を持ち傾けた。

 盃の中は蜂蜜水であった。

 曹昂は内心で、これは袁術の好みだからなのか。それとも子供が飲むように用意されただけなのかと思いながら蜂蜜水を飲んだ。

「「「乾杯」」」

 曹昂達が飲んだのを見た親族達も酒を喉へと流し込んだ。

 お代わりが注がれると、同時に楽器が奏でられた。

 その音楽に合わせて妓女達が踊った。

 その踊りを見ながら袁術の親族達は楽しそうに笑いながら酒を飲み料理を食べていた。

(こうして酒を飲んで楽しめるのは、袁術が民に重税を掛けているからだと分かっているのだろうか?)

 自分の前に置かれている膳と、笑っている袁術達を見てそう思う曹昂。

「どうかしましたか?」

 曹昂が膳に手を付けないでジッと見ているので袁玉が訊ねて来た。

「ああ、いえ。随分と豪勢な昼餐だと思いまして」

「そうですね。はぁ~」

 曹昂が膳に盛られている料理を見て豪勢だと言うと、袁玉も同意しつつ悲しそうに溜め息を吐いた。

(ふむ。この料理が民の重税で作られた物だと分かっているのかな?)

 その悲しそうな溜め息を付くのを見た曹昂はそう思った。

 少しして、宴も中頃に達した時。

「それにしても、伯業殿も此処に来れば良かったものを」

 酔っているのか少し赤らんだ顔でそう言うのは袁術の従弟袁胤であった。

 この伯業とは袁遺の字だ。

 その字を聞いた瞬間、袁術は眉を動かし、馮方女と袁燿は不味そうに顔を歪めた。

 そんな三人の反応を見ていないのか袁胤は話を続けた。

「伯業殿は揚州の州牧に任命されたと聞く。本初や文先殿みたいに離れてはいないではないか。来てくれれば良いものを」

 袁胤は酒を飲みながら不思議そうに話しだした。

 先程に比べて空気が悪くなったと言うのに構わず話していた。

(揚州か。恐らく州牧に推薦したのは袁紹だな)

 親しくしているのを見たのでそう判断する曹昂。

「お主は知らんのか。黄猗よ」

「いえ、知りません」

 袁胤の近くに居る黄猗は首を横に振った。

「そうか。……公路は何か知っているか?」

 其処で話を終えれば良いものを袁胤は袁術に訊ねて来た。

 明らかに不愉快そうな顔をしている袁術。

 これは不味い事が起こると分かった曹昂。

 そう思い口を開こうとしたら、

「曹昂様。そろそろ、腹も満たされました。少し外に出て庭を歩きませんか?」

 袁玉が話し掛けて来た。

 曹昂は何をするつもりだと思いながらも、取り敢えずこの場はそれに乗る事にした。

「そうですね。では、舅殿」

「うむ。何だ?」

「僕達は少し庭で風に当たります」

「そうか。分かった」

「はい。では」

 曹昂は袁玉の手を取り大広間を出て行った。


 袁玉を連れて大広間に出た曹昂はそのまま庭を歩いていた。

「申し訳ありません。いきなり、外へと連れ出して」

 袁玉は曹昂に頭を下げた。

「いやぁ、あのまま仲績さんの話を聞いていたら、折角の昼餐が台無しだったからね」

 曹昂は気にしなくて良いと手を振る。

 曹昂の気遣いに袁玉は安堵の息を漏らした。

「仲績小父上は悪い人ではないのですが、酒が入ると人に絡む事がありまして」

「はぁ、そうなんですか」

 この場合絡み酒かそれとも酒乱と言うべきかなと話を聞きながら思う曹昂。

「それに父は伯業小父様の話を聞くと、怒りが抑えきれない様なのです」

「どうして?」

 袁紹と親しいとはいえ従兄な事には変わりない。なのに、どうして怒っているのか曹昂には分からなかった。

「……実は本初伯父上が伯業小父様を揚州刺史にする様に朝廷に奏上したんです。その奏上は通り、小父様は揚州の刺史になったのですが。その話を聞いた父上は『私が郡の太守に甘んじていると言うのに、伯業が刺史になるとは何事だ‼』と激怒していたのです」

「ああ、成程」

 袁玉がどうして袁術が袁遺の話を聞くと怒るのか教えてくれた。

(今は袁術が名門袁家の当主だからな。そんな自分がまだ郡太守なのに、袁遺は州の刺史になったと知れば怒るのも無理はないけどね)

 如何にも袁術らしい話だなと思う曹昂。

 その話はこれで終わりと言う意味を込めて曹昂は袁玉の手を握る。

「折角、庭に出たのだから。ちょっと歩こうか」

「はい」

 この前、歩いたばかりだが二人は気にせず歩き出した。

 今度は誰にも見られること無く歩いていた。


 翌日。


 袁術は袁玉を送り出す為に準備をしていた。

 袁玉は予定があるとの事で会えないと使用人経由で教えてくれたので、曹昂は今日は城内にある書庫から本を借りて一日過ごす事にした。

 書庫に入ると、多くの本が綺麗に整頓されて並んでいた。

 曹昂はどの本を読もうか選んでいると、書庫の入り口に誰かが来た。

 その者は書庫に入ると何かを探して居た様でしきりに辺りを見ていた。

 すると、曹昂を見つけると傍に寄って来て頭を下げた。

「失礼します。曹昂様。先程、親戚の方が来たと知らせが参りました」

 使用人がそう教えてくれたが、親戚と言っても曹昂が覚えているだけででもかなりの人数が居た。

 誰か分からないので曹昂は訊ねる事にした。

「名前は名乗っていましたか?」

「夏候惇と申していたそうです」

「ああ、元譲殿か。其処に案内してくれる?」

「承知しました」

 使用人が一礼して書庫を出て行ったので曹昂はその後を追った。

 そして、使用人の後を追いかけていると城内にある大広間に夏候惇を見つけた。

「おお、曹昂。久しぶりだな」

「元譲殿もお元気そうで何よりです」

 使用人が一礼して離れて行くのを見送ると、夏候惇は曹昂の元気そうな姿を見て顔を綻ばせた。

 曹昂も久しぶりに親戚に会えたので嬉しいようで微笑んだ。

「お前、どうして此処に居るんだ?」

「益州に行った帰りに寄ったのです。元譲殿こそ、どうして此処に?」

 曹昂からしたら益州から河内郡に帰る途中で魯陽に寄るのは行路的に不思議ではなかった。

 だが、夏候惇は父曹操から人材の勧誘を命じられていた。

 なので、魯陽に居る事の方が不思議であった。

 夏候惇は隠す事はないのか、曹昂にその理由を教えてくれた。

「まぁ、あれだ。孟徳に頼まれた人材の勧誘に来ただけだ」

「勧誘ですか? どんな人ですか?」

「騎都尉の韓浩。字を元嗣という人物だ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 韓浩さん、正史では色んな史書に名前が残ってる優秀な政治家ですが···演義だとダメダメさんだったような? この作品は演義ベースですが···大丈夫か惇兄?
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