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募兵はしていないのだけど

 臨江県を出発した曹昂達は幾つもの山を越え河を渡り、ようやく益州の州境まで来た。

「来た時よりも人数が増えたからか、思ったよりも時間が掛かったな」

 馬を進ませながら州境の標を見ながら曹昂は呟いた。

「それは仕方がないですね。何せ、我等は五千の兵を率いているのですから」

 さもありなんと答えるのは傍に居る劉巴であった。

 それを訊いた曹昂は肩を竦める。

「そう言われたらそうなんだけどさ、問題は此処からだよね」

「と言うと?」

 曹昂が何を不安になっているのか分からず劉巴は訊ねた。

「いや、五千の兵を率いている僕達を州牧の劉表様は素直に通してくれるのか分からなくて」

 劉巴が訊ねるので、曹昂は隠す事無く本音を話した。 

 劉巴は言われてみるとその通りだなと思い頭を抱えた。

「そうですね。かと言って、此処まで連れて来て解散させるというのは、あまりに酷な話ですよ」

「だよね。さて、どうしたものか?」

 二人は頭を傾げた。

 それから暫く、二人は考えたが良い考えが出なかったのでまた考える事になった。


 州境を越えた曹昂達一行は武陵郡に入った。

 この郡に来た時は治安があまりにも悪かったので長居しなかった。

 だが、今曹昂は五千にも及ぶ兵を連れた一団を率いているので、そこいらに居る野盗達は相手にもならなかった。

 それでも時折、命知らずの野盗達は襲い掛かって来たが。

「荊州の腑抜けた野盗共に、俺達錦帆賊の力を見せてやれっ」

「「「おおおおおおおおっっっ‼」」」

 甘寧が兵を率いて襲い掛かる野盗達を撃退していった。

 更にそれだけではなく、襲って来た野盗を何人か捕まえて尋問と言う名の拷問をして棲家を吐かせると、御礼参りとばかりに襲撃をして棲家にあった財宝などを奪っていった。

 勿論、後で報復されない様に野盗達は皆殺しにした。

(う~ん。これじゃあ、どっちが野盗なのか分からないな・・・・・・)

 甘寧達のやる事を見て思わず曹昂はそう思ってしまった。

 だが、その行いによって思わぬ副次効果が齎された。

 野盗を討伐する事で武陵郡内で曹昂達の名が知れ渡った。

 お蔭で郡内の人達には感謝され食料などを渡された上に、兵を募ってもいないのに郡内に住んでいる者達が曹昂達の下に集まって来た。

 集まった者達に話を聞いた所、旗を掲げているので、何処かの軍かもしくは義勇軍みたいなものだと思い、軍に入れば食うに困る事はないだろうと思い集まって来たようだ。

 これは想定していなかったなと思いつつも、曹昂は追い返すのも可哀そうだと思い兵に組み込む事にした。

 それで、集まった人々を数えたところ、その数七千であった。

 こんな事は予想すらしなかったので、曹昂達は慌てて集まった者達に与える武具や食料などを買い集める為に鐔成県に留まった。


 それから数日後。


 曹昂達が必要な物を買い集めている頃。

 曹昂達が陣を張ってる陣地では集まった者達に訓練を行っていた。

 難しい訓練はせず、武器の使い方や馬の乗り方等を教えていた。

 今も訓練に励んでいる者達は声を上げて頑張っていた。

 陣地の入り口に居る見張りの者達はその喚声を聞きながら、早く交代にならないかなと思っていた。

 そんな時に、前方から武装した数百人の一団がやって来た。

「何だ? あいつら?」

「もしかして、野盗か?」

「懲りないな。おい、頭を呼んで来い」

「おうっ」

 見張りの者は同僚に陣地で留守番をしている甘寧を呼びに行かせた。

 曹昂が居ない間は、甘寧に一任されているからだ。

 そう話している間にもその一団は近付いて来る。

 逆光であったので見張りの者からしたら、誰が近付いて来るのか分からなかった。

 それで余計に警戒した。

 近付いて来る一団は陣地から少し離れた所で足を止めた。

 そして、先頭に居る馬に乗った男が鉞を担いで並足で陣地に近付いた。

 後二十歩ぐらい進んだら陣地に着くと言う所で、男は馬を止めた。

「此処が噂の曹操の息子が率いているって奴等の陣地か⁉」

「何だ。お前は?」

 名乗りもしないで訊ねて来たので無礼だと思いながらも、見張りの者は槍を構えた。

 そして、男は自分で指差しながら叫んだ。

「俺は零陵郡の邢道栄だ! この陣地に来たら仕官できると聞いて郡を越えて来てやったぞっ」

 男がようやく名乗りと同時に理由を教えてくれたので見張りの者は何が目的なのか分かり安堵した。

「お前も仕官したいクチか。ちょっと待ってろ。今、頭って言っても分からないが御大将の留守を預かってる方が来るから、それまで待て」

「おうっ」

 鉞を担いだままの邢道栄は元気良く答えた。

 少しすると、同僚の者が甘寧を連れて来た。

「誰だ。こいつは?」

 甘寧は不審そうな目で邢道栄を見ながら見張りの者に訊ねた。

 見張りの者は甘寧の耳元に顔を寄せて囁いた。

 甘寧は話を聞きながら相槌を打ち、聞き終わると邢道栄を見た。

「邢道栄と言ったな。仕官という事で良いんだな?」

「その通りだ。この俺が居れば、百人いや千人力よ」

 邢道栄は胸を叩きながら自慢しだした。

「ふん。じゃあ、どのくらい出来るか試させてもらうか」

 甘寧は腰に下げている剣を抜きながら歩き出した。

「良いだろう。俺の武を見せてやるっ」

 甘寧が剣を抜いて向かって来るのを見た邢道栄は直ぐに腕試しだと分かり、馬から降りると肩に担いでいる鉞を構える。

 二人は構えながら進み十歩ほど進めば戦うという所で足を止めた。

「「…………」」

 得物を構えながら睨み合う二人。

 邢道栄が連れて来た者達や見張りの者達はどんな展開になるか楽しみだと思いながら観戦する。

 暫し睨み合う二人であったが、甘寧が先に駆け出した。

「ぬ、りゃああああっ」

 出遅れた邢道栄は少し慌てたが、直ぐに冷静になり持っている鉞を振り下ろした。

 その一撃は当たれば間違いなく怪我もしくは致命傷になるぐらいの勢いと鋭さがあった。

 甘寧はその攻撃を受ける事はしないで、身を捩って交わした。

 邢道栄の一撃は甘寧に掠る事なく大地に当たった。

「おのれ、……ぐぶりゃああっ⁈」

 攻撃を躱された邢道栄は次の攻撃に移ろうとしたが、甘寧はその隙を見逃さず邢道栄の懐に入り込み顔面に拳打を叩き込んだ。

 叩き込まれた一撃で邢道栄は鼻血を出しながら仰向けに倒れ、そのまま気を失った。

「……弱すぎないか?」

 あまりにも簡単に倒せたので甘寧は呆然としたが、直ぐに気を取り戻して邢道栄に近付きどんな状態か確認した。

 完全に気を失っているの見て驚くよりも呆れる甘寧。

 邢道栄について来た者達もあまりに呆気ない終わりに愕然としていた。

「……ふむ。この鉞は結構重いな。百斤(約二十二キロ)はあるな」

 倒れた邢道栄が持っていた鉞を持ってみた甘寧は凡その重さを図った。

 これだけの重さの鉞を振るえるのなら、何かの役には立つだろうと思った甘寧。

「おい、お前等っ」

「「「は、はいっ」」」

「こいつは、お前等の連れだろう? こいつを連れて陣地に入れ」

「「「わ、分かりました!」」」

 甘寧の言葉に従い邢道栄について来た者達は邢道栄を陣地へと運び込んだ。


「という事があったんだよ」

 陣地に戻って来た曹昂に甘寧が報告した。

「そんな事があったんだ。成程ね」

 報告を聞いた曹昂は甘寧の話に納得しながら自分の目の前で平伏している邢道栄を見た。

 曹昂が戻って来る少し前に目覚めた邢道栄は甘寧の下に訪ねてきた。

 訊ねて来るなり、跪いて懇願しだした。

「お願いします。どうか、仕官させてくれる様に取り計らって下さいっ」

 甘寧は何でそんな事を言うのか分からなかったが、邢道栄からしたらあれだけ大口叩いて負けたのだから仕官させてくれないのではと思い込んでいた。

 なので、必死に懇願したのだ。 

 甘寧はどうしたものかと考えていると、其処に曹昂が帰って来たので報告ついでに邢道栄をどうするか相談しに行った。

 そして、今に至る。

「事情は分かったけど、ええっと、邢道栄さん?」

 曹昂が訊ねると、邢道栄は平伏したまま答えた。

「道栄は字です。わたしの名は(ろう)と申します」

 邢道栄の名前ってそんな名前なんだと思いながら話しかける曹昂。

「じゃあ、邢螂で。それで僕達に仕官しに来たと聞いたけど」

「はっ。このまま肉屋で一生を終えたくないので、何卒お仕えさせて下さい!」

「まぁ、断る理由は無いので別に良いけど」

 曹昂が仕官しても良いと言うと邢道栄は顔を上げた。

「ありがとうございます。この邢螂道栄は忠誠を誓いますっ」

 そう言って平伏する邢螂。

 邢螂が連れて来た七百人の兵と共に麾下に組み込んだ。

(兵や将が増えるのは良いのだけど、余計に荊州を通過するのが大変になったな)

 曹昂は本当にどうしようと思い溜め息を吐いた。

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[一言] KDAさん、斬れっされなくてよかったw
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