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尾行された

 卞蓮がどんな人なのか分かったのと、寄る所があったので曹昂は立ち上がる。

「じゃあ、僕はこれで」

「あら?もう少し居ても良いじゃない。折角、旦那様の息子と会えて話す事が出来るのだから」

「お気持ちは嬉しいのですが、母上がいつ帰って来るか分からないので」

「彼奴の事だから、今頃幼陽に愚痴を言っているだろう。暫くは戻らんぞ」

 妻にしているだけであって、曹操は丁薔の性格を分かっていた。

 その指摘通り、丁薔は実家に戻るなり兄である丁沖に愚痴を零していた。

「家に帰ってやりたい事もあるので、それに」

 チラッと卞蓮を見る曹昂。

「それに父上の逢瀬を邪魔するのは、息子として駄目だと思いますので」

「まぁ」

「此奴。ませた事を言いおって」

 目を丸くする蓮と苦笑する曹操。

「では、これで」

 曹昂は一礼して曹操達の元から離れて行った。


 曹操は離れて行く息子が辛うじて見える所で立ち上がった。

「どうかしたの?」

「昂の後を追い駆けるぞ」

「あら、子供の心配? でも、この辺りで野盗や人攫いが出たという話は聞かないから大丈夫だと思うわよ」

 意外に子煩悩なのかしらと思う卞蓮。

「いや違う。どうも、昂は嘘を吐いている気がしてな」

「嘘を吐く?」

「うむ。私の勘だがな。何となく後を追い駆けたら面白い物が見れる気がするのだ」

「・・・・・・・」

 そんな事を言う曹操を見て腑に落ちない顔をする卞蓮。

「本音は?」

「実の息子とはいえ、あそこまで言いくるめられるのは腹が立つ。だから、後を追い駆けて弱みを握ってやるっ」

 返って来た答えが何とも子供っぽい理由と思う卞蓮。

「はぁ、大人げないわね」

「ふん。で、お前は付いて来るのか?」

「私は・・・・・・そうね。面白そうだから、付いていくわ」

 卞蓮は立ち上がり手を叩いた。

 少し離れた所に居る侍女がその音を聞いて、卞蓮付きの侍女が手に二本の剣を持ってやって来た。

 一本は曹操の、もう一本は卞蓮のだ。

 この時代女性は剣を差す事など無い。

 卞蓮は表の顔は歌妓で裏の顔は浮屠の間者という生活をしていた。

 その為、剣の扱いは熟知していた。

 更に言えば曹操は言わなかったが、自分に差し向けられた暗殺者を撃退しているのは卞蓮なのであった。

 その事を曹昂に言わなかったのは、女性に守られていると息子に知られたくない父親としての自尊心か又は普通に其処まで話す事ではないと思ったからなのかは分からない。

「良し。行くぞ」

「はいはい」

 曹操は大いに乗り気だが、卞蓮は仕方が無いなという顔をしていた。

 二人はこっそりと曹昂の後を追い駆けた。


 尾行されているとは知らずに曹昂は家に帰る道ではなく別の道を通る。

 その道を進んでいると三叉路に出た。

 曹昂は右の道を進んで行った。

 曹昂がその道を少し進むと、茂みから曹操達が顔を出した。

「この先に何かあるの?」

「いや、この三叉路の二つの道の先には森か空き地しかないのだが……?」

 息子がどうしてこんな所の道を使うんだと不思議に思う曹操。

「まぁ、良いわ。後を追い駆けましょう」

「うむ」

 曹操達は茂みに身を潜めて曹昂の後を追い駆けた。


 曹昂がその道を進んで行くと、大きな壁が見えた。

 高さ二丈(約430センチ)の壁であった。

 その壁の傍には通用口としての小さい門もあった。

 曹昂はその門の所に行き門を叩いた。

 コン、コンコンっと音がしても、何の反応も無かったが、曹昂は少しの間待った。

『天知る、地知る』

 門の中から声が聞こえて来た。

「我知る、汝知る」

 と曹昂が言うと、門の扉が開いた。

 門を開けた者が曹昂を見るなり一礼した。

「これは御曹司。御用と有ればお呼び下されば参りましたのに」

「作業の進捗状況を確認しに来たよ」

「そうでしたか。では、中で話します」

 その者は曹昂に中に入る様に促したので曹昂は躊躇なく中に入った。

 門を開けた者は暫く門を閉めないで周りを見たが、何の異常も無い事が分かると門を閉めた。


 門に入った曹昂の鼻に甘いけど少し鼻に付く匂いが漂った。

「順調に開発できてる?」

「へい。言われた通りに作りましたら、あんなに甘い液体が出来るとは思いもしませんでした」

「そう。養蜂の方は?」

「そちらは巣を見つけて此処まで蜂を持ってくるのに苦労しましたが、後は巣箱の中に入れましたら、後は勝手に巣を作りました」

「何時頃、採蜜出来る?」

「丁度、今日採蜜しますので、後で味見をお願いします」

「分かった。他の物の進捗は?」

「無患子の実を使った薬品は後少しで商品になるそうです。他には花の香りがする水とその花から取った油ももう少しで売り物になるそうです。他には」

 曹昂を通した者が話をしていると。

 カン‼ カン‼ カン‼

 鉦の音が聞こえて来た。

「この場所で鉦が鳴るのは、緊急事態発生の時だけだよね?」

「へい。お前等、作業一旦中断‼ 各自、武器を持って防壁の上にっ」

「「「おおおおおおっっっ‼」」」

 作業員が喊声を上げて作業の手を止めて、少し離れた所にある小屋へと向かった。

 其処には、槍、剣、弩、斧などの武器になる物が置かれていた。

 作業員達はそれらを手に取り防壁へと向かう。

「御曹司はどうしますか?」

「僕は防壁の上で誰が来たのか見るよ」

「気を付けて下せえ。お前とお前。御曹司をお守りしろっ」

「「分かりました」」

 男性に指示されて、弩と腰に剣を差した作業員達が曹昂の傍に張り付いた。

 曹昂は護衛の二人を連れて防壁の上へと向かう。

 防壁を上がり曹昂は何が来たのか身を乗り出して見ると。

「へっ?」

「おっ」

「あら」

 間抜けな声を出す曹昂。

 それに釣られてなのか、門の前で包囲されている曹操達も防壁の上に居る曹昂を見て間の抜けた声を上げた。

「何をしているんですか? 父上」

 曹昂が曹操達を見るなり訊ねる。

「おお、息子よ。お前こそ、そんな所で何をしている?」

 包囲されているのに、周りに気に留めず曹昂に訊ねる曹操。

 卞蓮は腰に差している剣の柄に手を掛けながら警戒していた。

「何をって、別に父上に話す事ではないのですが」

 曹昂はまだ曹操に話さなくても良いと思い誤魔化す。

 それを訊いた曹操は悪童の様な笑みを浮かべた。

「そうか。誰にも言えない事をしているのか? であれば、薔もこの事は知らんな?」

 曹操にそう訊ねられ顔色を変える曹昂。

 今、曹昂がしている事を知っているのは曾祖父の曹騰とこの場所で作業している者達しか知らない。

 もし、丁薔に此処でしている事を知られたら、この場所に行く時は付いていくと言いそうであった。

(ううう、せめて二年後まで隠しておきたかったんだけどな。……仕方がないか)

 こうなったらもう話す事にしようと決める曹昂。

「・・・・・・分かりました。でも、この場所で作っている物の事は秘密でお願いしますね」

「うむ。では、中に入らせてもらおうか。其処の者、案内を頼むぞ」

 曹操が自分の周りで平伏している者の一人に案内させるように言う。

 曹操と曹昂の話を聞いている内に、自分達が囲んでいる者が曹操だと分かるなり、皆慌てて武器を捨てて平伏しだした。

 彼らは曹操の名前を知っていても顔まで知らなかった様だ。

「へ、へへえっ」

 声を掛けられた者は返事をしながらビクビクしていた。

 この時代では、役人の不興を買って庶民が処罰される事など普通にあった。

 曹操が洛陽で何の役職に就いているかは知らないが、役人である事は知っている。まして、自分達の雇い主の父親だ。

 そんな人に武器を持って囲んだのだ。殺されても誰も文句は言えなかった。

「ははは、別に気にしなくてもよい。私も息子の後を密かにつけて来たのだ。むしろ、私の方が処罰されても良いだろう」

 先程の事など気にしていないと笑う曹操。

 その笑いを見て、周りの者達は安堵の息を漏らした。

「で、では、中へ案内します」

 その者は中に入れる前に防壁の上に居る曹昂を見る。

 その目は本当に入れても良いのかと言っているようだ。曹昂は入れて良いという意味を込めて頷いた。

 曹昂の承諾も得たので、曹操達を案内した。


 曹操達が門を潜り中に入ると、甘いけど少し鼻に付く匂いが漂った。

「何だ? この匂いは?」

「くんくん。かぐわしいような、甘いような匂いね。でも鼻に付くわね」

「それは当然ですよ。此処は色々な物を製造している所なので」

 中に入って来た曹操達の元に護衛を連れた曹昂が合流した。

「で、昂よ。此処で何をしているんだ?」

 何をしているのか興味が湧いて目を輝かせながら訊ねる曹操。

「じ、順に説明しますから」

 父親の圧に押されて後退りながら言う曹昂。

 もう、護衛も要らないので傍に居る二人は作業に戻らせてから、まずは近くで作業している物を見せる。

 其処では大鍋に何かトロトロした物を煮込んでいる様であった。

 其処を焦げ付かせない様に時折、木の匙で混ぜていた。

「あれは何を作っている?」

「飴を作っているのです」

「ほぅ、飴か」

 この国の南部では砂糖黍があるので、砂糖は作られていた。

 と言っても、かなりの高級品である。

「まぁ、舐めてみれば分かりますよ」

 曹昂は作業員から味見用の皿を貰いその皿に液体状の飴を垂らした。

 曹昂はその飴を匙で掬い、息を吹きかけて冷ましてから舐める。

「うん。良く出来てる」

「はっ。ありがとうございます」

 褒められた作業員は曹昂は一礼した。

 曹昂は曹操達に皿を渡した。

「どうぞ。毒見は済ませているので、大丈夫ですよ。熱いので手で触れると火傷するので匙で掬ってください」

 曹昂からそう言われて、曹操は匙を取り飴を掬い飴を口の中に入れる。

「っ⁉」

 口の中に入れた瞬間、飴の甘みを堪能する曹操。

 曹操のその顔を見て卞蓮はどんな味なのか気になり曹操の手の中にある皿を奪い匙を掬い飴を口の中に入れる。

「~~~~~~⁈」

 その甘みにうっとりとする卞蓮。

「・・・・・・うん、悪くないな」

 果物と比べたら甘いが、蜂蜜に比べるとそれほど甘くないがくどくなかった。

「本当ね。蜂蜜みたいにくどくないのが良いわ~。でも、私は蜂蜜よりもこっちの方が好きだわ~」

 卞蓮はそう言って匙を掬い飴を口の中に入れる。

「昂よ。これもお前が手に入れた大秦の技術書に書かれていたのか?」

「はい。新しく手に入れた物に書かれていました。今度見せますね」

「うむ。それよりも、これはどうやって作るのだ?」

「大秦の技術書では麦の芽と麦を煮て一晩おいて、布で濾して煮詰めた物でしたが。我が国では麦よりも米の方が手に入りやすいので、麦の芽と米を煮詰めて粥にして一晩おいて濾して煮詰めたら、出来たのがこれになります」

「ほう、それは凄いな」

「次を案内しますね」

 曹昂は曹操達を連れて、次の場所へと向かった。

 水飴の作業場の次に案内したのは、離れにある小屋であった。

 その小屋は窓があるくらいで特に変わった造りはしていなかった。

「あそこは何を作っているのだ?」

 曹操は小屋を指差しながら訊ねた。

「蜂蜜です」

「「はぁっ⁈」」

 曹操と卞蓮は曹昂の言葉に驚愕した。

 この時代では蜂蜜は自然になっている巣を見つけて其処から採取するというのが普通であった。

 その為、一度採蜜したら二度と採る事は出来ないので、蜂蜜も砂糖に負けない位の高級品なのであった。

 それなのに、蜂蜜を作っていると聞いて驚くのも無理はない。

「どうやって作っているのだ?」

「ああ、実は」

 曹昂が説明しようとしたら、小屋の扉が開いた。

 其処から網を張り付けた帽子を被り手には革の手袋を嵌めた人達が出て来た。

 その人達の手には蜜蜂が作った板状の巣を入れた箱を持っていた。

「御曹司。孟徳様」

 その人達が箱を持ったまま一礼する。

「ああ、ご苦労様。ちょっと作業を見ても良いかな」

「別に構いません」

 箱を持った者達の中で一番の年長者の者が答えた。

「ありがとう。では、父上。作る所を見ながら説明しますね」

「うむ。頼むぞ」

 曹操は箱の中に入っている物が気になって見ていた。

 曹昂達は箱を持っている者達に付いていく。

 その者達が蜜を取る作業場に着くと、曹昂が手で差し示しながら説明する。

 巣板とか巣房などを言っても分からないだろうから簡単に説明しようと思いながら。

「まずは蜜蜂を箱の中に入れて巣を作らせるのです」

「どうやって巣を作らせるのだ?」

「蜂は狭い所に巣を作る習性がありますので、箱の中に誘導するのです。箱の中には後で詳しく説明しますが。その枠に蜜で作った蝋を塗っておくことでその匂いに釣られて蜂は巣を作る様になります」

「ふむ。それで蜂は箱の中に巣を作るか」

 曹操は蜂蜜を作る工程を見ながら曹昂の説明を聞いていた。

 丁度、まだ板状の巣に付いていた蜂が何処かに飛んで行った。

 それであの板状の物から蜜蜂が作っているんだと理解した曹操。

「で、次にその巣を箱から取り出して付いている卵、ゴミ、排泄物などを取り除きます」

 曹昂が説明していると、丁度その作業をしている所であった。

 卵、ゴミや排泄物などを一纏めにして捨てている。

 最初の頃は幼虫は捨てないで、他の巣板に張りつけていたが、今は安定した量を生産する様になったのでその様な作業をしていないとか。

 もし、幼虫、卵、ゴミ、排泄物などを取り除かないで絞ると味が変わる事を説明する曹昂。

「取り除いた巣板を絞ります」

 その説明をしていると巣板を作業員が容器の上で絞っていた。その巣板を絞ると黄金色の液体が下の容器へと流れ出る。

 黄金色の液体が一滴も出なくなると、その巣板は別の入れ物の中に入れる。

「あの巣板はどうするのだ?」

「あれを煮詰めると蜜蝋になるのです。後、まだ開発途中ですが化粧品になるのです」

「そうなの。どんな化粧品になるのかしら?」

「えっと、確か肌に潤いを与えるとかだったかな?」

 ちょっとあやふやな言い方をする曹昂。

 巣箱の作り方とか採蜜の仕方とか蜜蝋の作り方は知っていたが、蜜を絞った残りカスを煮詰めると蝋燭だけではなく化粧品になるぐらいしか知らない曹昂。なので、未だに製造が手探り状態であった。

「肌に潤いですって⁉」

 卞蓮が今までで一番凄い反応をした。

 そして、曹昂の両肩を掴んだ。

「ぜひ、それを作る事が出来たら、私にも分けて頂戴ね?」

 鼻息荒く瞬き一つしない目で曹昂を見る卞蓮。両肩を掴んでいる手に凄い力が込められていた。

 それだけ蜜蝋で作られた化粧品に興味があるという事だろう。

 卞蓮の勢いに押されて、曹昂は無言で頭を上下に振った。

 それを見てニッコリと笑う卞蓮。ようやく両肩から手を離してくれた。

(こ、こわぁ、何時の時代も女性は美容に気を遣うんだ・・・・・・)

 曹昂は卞蓮の圧力に気後れした。

 そんな二人に構わず、曹操は搾り取った蜂蜜を試食していた。

「おお、正しく蜂蜜だ。しかも、これだけ大量に生産できるとはな」

 試食を終えた曹操は曹昂を見る。

「昂よ。先程の水飴とこの蜂蜜はどのくらいの値段で売るのだ?」

「ええっと、曾祖父様と相談して決めますが、大まかに水飴は二十銭で、蜂蜜は銀十枚にします」

 曹昂の大まかに決めた値段を聞いて顔を見合わせる曹操達。

 この時代で一銭は現代の貨幣で計算すると約三百円になる。だから、水飴は一つで約六千円になる。蜂蜜はその十倍の値段になる。

(高過ぎるかな? もっと安くした方がいいかな?)

 一応、作業員達にもどのくらいの値段で販売した方が良いか意見を聞くと。

 蜂蜜は銀数枚で決まったが、水飴に関しては別れた。

 百銭と言う者も居れば、五十銭と言う者も居た。

 それを訊いた時は曹昂は内心で、それはぼったくりだろうと思った。

 餅米も麦の芽を全て合わせても五銭ぐらいにしかならない。其処に技術料などのを含めたのでこれくらいの値段にしようと曹昂は決めた。

 その値段に決めると作業員達は「それは安すぎますっ」と言って、もっと値上げしようと言って来た。

 曹昂の感覚からすれば、これでも十分に高いと思うのだが作業員達からしたら別の様であった。

 しかし、曹昂がこの値段にした理由を話すと作業員達は不満そうであったが従った。

「・・・・・・昂よ」

「はい」

「蜂蜜もだが水飴も安すぎるぞ」

「はい?」

「ぬう、どうやら息子は市井の値段というのが分かっていない様だ」

「そうね。これだけの品質で安定に供給できるのなら、もう少し高くしても良いと思うわ」

 曹操と卞蓮は残念な物を見るかのような目で曹昂を見た。

 曹操達の意見に同調するかのように、近くに居る作業員達も同意するかのように頷いた。

(えええ~)

 何故か自分が非難されているという理解不能な事になっている事に訳が分からない曹昂。

「今度、ちゃんと市場に連れていって物の値段を教えてやらねばな」

 これはちゃんと教えないと駄目だという思いで頷く曹操。

 それを見て釈然としない思いを抱く曹昂。

「ねぇ、次は何を作っているの?」

「次は」

「待て。昂」

 次の場所に案内する前に曹操が声を掛けた。

「何ですか。父上」

「お前が大秦の技術で商いをするつもりなのか?」

「えっと、ちょっと違いますね」

「ほぅ、どう違うのだ?」

 曹操は目を細める。

 嘘を付いても無駄だぞと言っている様であった。

 此処に連れて来た以上、曹昂は隠すつもりは無いので話す事にした。

「此処で製造した物を衛大人や曾祖父様の伝手で売って金を手に入れて、その金で私兵を作ります」

「私兵だと?」

 曹操は少しだけ目を見開かせた。

 自分の想像よりも大きな事を考えていたので驚いているようだ。

「何故、私兵を作るのだ?」

「最近、色々と妙な噂を聞きますので」

「妙な噂?」

「それって大平道の事?」

 卞蓮がそう尋ねると曹昂は頷いた。

 太平道とは後の黄巾の乱を起こす宗教集団の元となった組織だ。

 未来の歴史を知っている曹昂はその乱に備えて私兵を作る事にしたのだ。

「ふむ。太平道に関しては聞いている。私が知っているのは日に日に勢力を増しているという事と、冀州、青洲で強い勢力を持っているという事ぐらいだがな」

 曹操も卞蓮の情報網で手に入れた情報を話す。

「息子よ。お前はどう見る?」

「そう遠くない未来に乱が起こるでしょう」

「その為に私兵を作るか。その資金作りで蜂蜜と水飴を作るか」

「それだけではなく、洗い物をする時に便利になる物と椿油と香水を作っています」

 洗い物の方は無患子の皮は洗剤に使えるので、それを水に浸して泡立つのでそれを洗剤として売る予定だ。

 椿油は種を取り出して種を割って油を取り出してそれを水と一緒に煮て水分を蒸発させると、完全に油だけ残る。

 それを濾過して不純物を取り除くと純粋な油になる。

 香水の方は現代で売られている物とは若干違う。曹昂が作っている方法は単に花を水蒸気蒸留させて手に入ったフローラルウォーターを香水として扱っているだけだ。

 現代の香水は科学的に作られたアルコールに花を水蒸気蒸留させて出来た精油と混ぜて出来る物だ。

 この時代の酒はそれほど酒精度と言われるアルコール度数は高くないので、現在その酒精度が高い酒を製造中だ。

「ははは、色々と作っているようだな」

「はい。お金は幾らあっても困らないので」

「一応聞くが、私兵の方は集まっているのか?」

「ええっと、・・・・・・今でしたら千人程になります」

「ははははははははは‼」

 私兵の数を聞いて大笑いする曹操。

「それなりの数だな。それらの私兵はどんな金で募ったのだ?」

「馬車の技術の権利で得た金で」

「ふむ。明日にでも、その私兵がどんなのか見てみるか」

 そう言って曹操は出口の方に向かう。

「父上。何処に行くのですか?」

「もう帰る。今日、全部を見ては面白くなくなるからな。行くぞ。蓮」

 とだけ言って曹操は卞蓮を伴って来た道を引き返していった。

(いきなり来たと思ったら、急に帰るとか。自分勝手な人だな)

 あれが今世の自分の父親だと思うと、成長したら自分もああなるのかと思う曹昂であった。

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