自由に行動する為には
曹操と別れた曹昂達はとりあえず、襄陽を回る事にした。
襄陽は漢水の中流域の南岸にあって、漢水沿岸の最大の都市として交通の要衝であった。
その為、各地の珍しい物が溢れていた。
「へぇ、此処が襄陽か……」
「凄いですね」
董白達は物珍し気に周りを見ていた。
二人の記憶の中にある洛陽は賑やかであったが、襄陽もそれとは別の賑やかさがあった。
洛陽は都としての煌びやかさがあったが、襄陽は活気だけあった。
「…………」
それでも練師からしたら大きな都市に来た事が初めてだったからか、落ち着きが無くキョロキョロと顔を動かしていた。
「貂蝉。練師を見ていてね」
「はい」
目を放すと何処かに行きそうな位に落ち着きが無いので貂蝉に注意する様に促す曹昂。
貂蝉は練師の手を取り離れないようにした。
曹昂は周りの風景を見て考え込む。
(これだけ活気がある理由は他の州に比べたら安全な荊州に多くの人達が逃れて来た事と、劉表が政治に長けていたからこの時期の荊州は発展したって考えるべきか)
襄陽の賑やかさを見てそう推察する曹昂。
暫くは襄陽を見て周り、その後は出来れば南部にも向かいどの様な状況になっているのか見てみようと考えた。
(さて、何をするにしても金が必要だな)
情報収集しようにも、宿に泊まるにしても金が必要であった。
最初、曹昂は荊州と言えば、水鏡こと司馬徽の学問所があるのだろうと思い、訪ねてみようと調べたところ、そんな学問所は存在していなかった。
と言うのも、その司馬徽自身がまだ豫州潁川郡陽翟県におり、荊州に居なかった。
(そう言えば、元々何処かの州にいたけど、其処から荊州に移り住み、学問所を開いたって本に書いてあったな)
前世の記憶の事を思い出す曹昂。
今、豫州は大混乱状態であるので会いに行く事も出来ないと分かった曹昂は会うのを止めて、今後の目標を考えた。
(その為には行商しているフリした方が良いな。さて、何を商売のタネにするか)
南部で手に入る事が出来て、それでいて持ち運びに便利な物を商品にする。
そう思いつきはするが、何を商売にするかまでは思いつかない曹昂。
歩きながら回っていると、ある露店が目に入った。
その店は食材を扱っている店の様で軒先には鶏、鴨、家鴨、鶉などが紐で吊るされていた。
他にも韮、筍、青梗菜、冬瓜といった野菜などが敷物を敷かれた上に置かれていた。
その隣の店には水を張った桶があった。
桶の中には鯉、鮒、スズキなどが入っていた。
食材を見ていると料理で商売をするべきかと考えた。
(荊州は南部だから米作が盛んに行われている筈、米を売りにした方が良いか)
だが、この時代は米を炊くという事をしないで蒸して食べる物であった。
曹昂が暮らしていた豫洲は北部に属するので焼餅を主食にしていたので、米をあまり食べた事が無かった。
食べた穀物と言えば粟が多かった。
偶に米を食べる事はあったのだが、明らかに蒸していた。
実際に食べてみると、記憶の中にある水で炊いた米よりも甘く感じた。
だが、商売する以上、米を蒸すとなると色々と不便なのでもっと別な方法を取るべきだと曹昂は考えていると。
「おいっ」
ガラの悪い声と共に曹昂の頭がこつんと叩かれた。
それほど痛くなかったが、いきなり叩かれたので曹昂は叩いた者を見た。
「なに、考えながら歩いているんだよっ」
曹昂の頭を叩いたのは董白であった。
董白は腰に手を当てながら叱りだした。
「ああ、御免。これからどうやって路銀を稼ごうかと思って」
一人で思考の渦の中に居たので董白達の事を忘れていた事に気付き謝る曹昂。
「義父上から貰った金だったら、まだたっぷり有るんだろう?」
「う~ん。でも、路銀を稼いだ方が楽になるだろうし」
「そいつはよ。あいつらを放っても考える事かよ?」
董白が指差した方向のかなり先には貂蝉達が居た。
考え込んでいたので周りと歩く速さを合わせる事を忘れていたと気付き頭を掻く曹昂。
「ごめん」
「あたしじゃなくて、皆に言えよ。ったく」
「だね」
董白に指摘されて曹昂は同意した。
貂蝉達が来るまで待っていると、目に着いた露店の商品を見た。
「これは…………」
曹昂はその商品を見て、これで商売をしようと決めた。