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仕方が無いので話を受ける

 その夜。


 ある天幕の中で曹昂は冷たい目で曹操を見ていた。

「どうしたのだ? 息子よ。何か言いたい事があるのなら言うが良い」

「……言っても良いですか?」

「言いたい事は分かるが、私の話も聞いてくれぬか?」

「どうぞ」

 曹昂が話をする様に促した。

「……お前の生みの母は綺麗でな。つい、な」

「つい、で花嫁泥棒をしないでくれますっ⁉」

「それに関してはお前も同じような事をしているだろう」

 曹操にそう指摘されて曹昂は渋い顔をした。

「まぁ、そんな昔の事を話しても仕方がないだろう。それよりも今が問題だ」

「と言っても話を受けないと僕達は帰る事は出来ないのですから、受けるしかないのでは?」

「良いのか?」

 曹操は心配そうに訊ねてきた。

「仕方がないでしょう。とは言え、迎えるのは半年ほど待ってもらいましょう」

「何故だ? ……ああ、そういう事か」

 曹操は何かに納得した顔をした。

「その半年の間に袁術の娘を娶らない方法を考えるのだな?」

「違います。もし、そんな事をしたらこれから勢力を伸ばす為の同盟を結ぶ事が出来なくなりますよ」

「そう言われるとそうだな。では、何だ?」

「少し見聞を広めたいのです」

「見聞か。何処に行くつもりだ?」

「荊州と益州を見て回りたいと思います」

「息子よ。今、荊州と益州はどうなっているのか分かっているのか?」

「それなりにでしたら」

 今の荊州は北部は安定しているが南部は土豪が割拠しているという事も益州は州牧として赴いた劉焉から何の知らせも無いのでどうなっているか分からないという事も曹昂は知っていた。

「知っているのにどうして行くのだ?」

「劉表はどの様な治世を行っているのか見てみたいですし、益州もどうなっているのか見てみたいのです」

「……駄目だと言ってもお前は聞かないか」

「父上の子供ですから」

「ふむ。まぁ、良かろう。ただし、半年程したら戻って来い」

「分かりました」

「しかし、袁術と姻戚になれば袁紹と揉める事になるな」

「それについては良い考えがあります」

「ほぅ?」

 曹昂は曹操の耳元で何事か囁いた。

「……悪くない手だ。それで行こう」

「では、そちらは父上にお任せします」

 曹操が悪どい笑みを浮かべると、曹昂は一礼して天幕から出て行った。


 翌日。


 曹操は袁術を呼んだ。

 天幕に入るなり、袁術はニコニコしていた。

「どうだ。孟徳。一晩考えて答えは出たか?」

「うむ。一晩考えたが。その話、受ける事にした」

「そうかっ。それは良いっ」

 曹操の返事を聞くなり袁術は踊りそうな位に喜んだ。

「だが、嫁入りは半年後にしてもらうぞ」

「何故、半年なのだ?」

 袁術は直ぐにでも娘を曹操が拠点にしている所に向かわせる気でいたが、半年後に嫁を送れと言われて腑に落ちない顔をした。

「決まっているだろう。古礼に従ってだ」

 婚礼の儀は『六礼』という取り決めがある。

 まずは『納采』という新郎側が仲人を立てて、女性側に贈物をする事を行い、『問名』という仲人が新婦側に向かい贈物と招待状を渡し新婦側の氏を訪ね、『納吉』という新郎側が自宅の先祖の廟の前で占いを、『納徴』という占いの結果を女性側に伝えて貴重品などの贈物をし、正式に婚約を結び、『請期』という結婚式の日取りを新郎側が決めて新婦側に連絡して許可を貰い、最後に『親迎』という新郎と仲人が贈物を持って新婦側に向かい、新婦側の両親と先祖の祠堂に拝謁し、新婦は馬車に乗せて新郎の家まで連れて帰る。

 この一連の流れが『六礼』の儀式の取り決めだ。

 更に言えば、庶民は一か月。士大夫は一季(一つの季節を掛けて)。諸侯は半年。天子は一年かけて行う事になっている。

 古礼に則れば、曹操も袁術も太守の身分なので半年かけて行うという事になる。

「名門袁家だからな。古礼に従って婚姻を結ぶのは当然だろう。結納を渡したら、直ぐに輿入れなどしたら、世間の物笑いになろうぞ」

「ぬぅ、しかしな。乱世なのだから、其処は略式にしても良いと思うが?」

 袁術の指摘に曹操は冷静に返した。

「それはいかんだろう。袁紹辺りが聞いたら、何と言うか分からんぞ?」

「むっ、確かにそうだな」

 袁紹の名前が出た途端、袁術は顔を顰めた。

「……一応聞いておくが。私の家と姻戚を結ばない為の時間稼ぎではないだろうな?」

「そんな訳なかろう。考え過ぎだ」

 曹操は手を横に振りながら答えると、袁術は深く息を吐いて少し考えた。

「…………良かろう。古礼に従って婚儀を挙げるとしよう」

「おお、そうか。話が早くて助かるぞ。それで、劉表殿への仲介の件は」

「其処は任せろ。通行を許可して貰うようにしてやろう」

「助かるっ。お主が友人で助かるぞ」

 曹操は袁術の手を取って握る。

「ははは、そうであろう。そうであろう」

 袁術は褒められて気を大きくしながら答えた。

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