やられっぱなしだと思うなよ
劉馥の命を受けた朱光は二千の兵と共に廬江郡に入ると、数日も経たない内に進路上にある県を落とし、事前に言われていた皖県に入ると守りを固めていった。
と同時に、廬江郡という事を使い、同じ郡出身の友人知人に反乱又は暴動を起こすように文を送った。
だが、多くの者達はその文に乗ることはしなかったが、鄱陽県にいる者だけが応じて暴動を起こすのであった。
揚州豫章郡柴桑。
朱光が廬江郡に侵攻したという報は、すぐに孫権の耳に届いた。
その報を聞いた孫権はすぐに戦の準備をするように、魯粛に命じるのであった。
ほどなく、戦の準備のために軍議が開かれた。
その軍議の席に、鄱陽県からの使者が来た。
使者は息も絶え絶えになりながら、暴動が起きたという報告をした。
「鄱陽県の暴動は日に日に被害が大きくなっております。至急対処をっ」
鄱陽県の県令が送った使者が悲鳴のような声で懇願するのを聞いて、孫権は顔を顰めるのであった。
「おのれ、朱光の侵攻に合わせるように暴動が起きるとは。敵の手引きとしか考えられんっ」
孫権は忌々しいとばかりに舌打ちをすると、傍にいた程普が口を開いた。
「殿。兵を分けて対処するしかありません」
「・・・・・・確かにそうだな。どう分ける?」
程普の意見を聞いて、孫権はその意見を採用したが、どう分けるべきなのか考え訊ねた。
「兵の一部を朱光への対処に差し向け。残りは鄱陽県に暴動の鎮圧するのです。鄱陽県は柴桑に近くにあります。ぐずぐずしていると、暴動の範囲が広がり、柴桑まで何かしらの影響を受けると思います」
「そうだな。よし、鄱陽はわたしが自ら赴く。廬江郡の方は誰かに任せるとしよう」
孫権はそう言って、誰に任せようかと考えていると、家臣の列から一人前に出た。
「殿っ、廬江郡の方はわたしにお任せをっ」
「呂蒙か・・・」
名乗り上げたのは呂蒙なのを見た孫権はすぐに返答せず考えた。
(呂蒙は武勇こそ優れているが、知略は得意ではないからな。とは言え、廬江郡にいる朱光は張遼達のような歴戦の雄ではないから呂蒙でも十分に対処できるか)
孫権は熟慮した結果、呂蒙に任せる事にした。
評議が終わると、家臣達は戦の準備に取り掛かる中、魯粛は孫権に尋ねた。
「呂蒙一人で大丈夫でしょうか?」
「敵は朱光という、聞いた事が無い武将だ。呂蒙で十分であろう」
「・・・敵が籠城して時が掛かった場合、援軍が来るでしょう。恐らく、張遼か楽進あたりが来ると思います」
「流石に張遼達が相手では、呂蒙では荷が重いな」
「はい。ですが、鄱陽県に暴動の鎮圧するのが先にするべきです。ですので、呂蒙には援軍が来ても対処できるように、何処かの県に入り守りを固めて、長期戦になるように事前に申し伝えておきましょう」
「長期戦にするのか? 援軍が来る前に短期で決めた方がいいと思うが」
孫権としては、鄱陽県に暴動の鎮圧し朱光を破った後で、合肥に攻め込むのが良いと思うが、魯粛は違っていた。
「確かに短期決戦で朱光を破れば、我が軍の士気は上がるでしょう。鄱陽県に暴動の鎮圧した我らと合流すれば、更に士気が上がるでしょう。その勢いに乗って合肥に攻め込むのも一つの手でしょう。ですが、そんなものは愚策にございます」
「愚策か。士気が上がっているのに、何故そう言うのだ?」
「士気が高いだけで戦に勝てるのであれば、兵法など必要ありません。それに、合肥は曹操の信頼が厚い劉馥が赴任して以来、屯田や灌漑などを行い大量の兵糧を蓄えている筈です。合肥を守る兵は七千ほどしかいないそうですが、大量の物資に加え張遼、李典、楽進といった歴戦の名将が守っているのです。勢いに乗って攻めたとしても、まず落とす事はできません。ですので、主戦場は別の所にするべきです」
「ふむ。では、何処を主戦場にするのだ?」
孫権の問いに魯粛はすぐに答えた。
「巣湖の南岸へと流れる支流の何処かに布陣しましょう。合肥からもさほど離れておりませんし、守るのに適しております。呂蒙に戦を長引かせて、攻め落としあぐねていると思わせている間に、我らは支流の何処かに布陣し守りを固めれば、如何に曹操といえど攻め落とすのは無理でしょう」
「良策だ。そのように手配せよ。それと、今の話を呂蒙にするべきか?」
「いえ、呂蒙に話せば、攻めに手を抜き何かの策と思われるかもしれません。ですので、ここは敢えて教えない方がよいでしょう」
「そうだな。では、魯粛。鄱陽県に暴動の鎮圧を早急に行うのだ」
「はっ」
孫権の命を聞き、魯粛は一礼しその場を後にした。




