話をしながら
劉馥が楽進の下から離れた数刻後。
李典は自分用に用意されている部屋で、一人椅子に座り憂鬱な表情を浮かべていた。
(如何に丞相の命といえど、此度は・・・・・・)
李典は重い溜息をついていた。
従父である李乾が張遼が率いる部隊に敗れ戦死した。
その報告を聞いた時は、最初悲しみよりも戦死した衝撃の方が大きかった。
後から死んだ事による悲しみが来て、目から涙が溢れ出て来た。
そして、一族の者達と共に、李乾の仇を取ろうと誓ったのだが、その恨みを晴らす前に張遼が仕えていた呂布が曹操に敗れ降伏。
張遼もその将才を見込まれて配下に加わる事となった。
李典達はその裁決に不服であったが、一番恨みに思っている李乾の息子である李整が宥めた事で、李典達は大人しく従う事にした。
李整が亡くなった後は、同じ主に仕えているとはいえ、怨んでいた。
何時か、この怨みを晴らすと思っていた所に、此度の命が下った。
(親族の怨みを晴らしたいが。そうなれば、主命に逆らうという事になる。だが、恨みを捨てる事など出来ぬ・・・)
どうするべきか分からない李典は悶々としていた。
そんな最中、部屋に劉馥が訪ねて来た。
何用で来たのか分からなかったが、重要な話でもあるのだと思い部屋に通した。
部屋に入って来た劉馥は席に腰を下ろした。
「急に来て済まぬな」
「いえ、それで何用で参ったのですか?」
李典が尋ねると、劉馥は答える前に手を叩いた。
すると、部屋の外に控えていた者達が一礼し部屋に入って来た。
その者達は膳を持っており、劉馥達の前に置かれた。
李典はその膳に置かれている皿に盛られている物を見て、目を大きく見開かせていた。
皿に盛られているのは、淡い黄色い台形であった。上の部分には黒い液体が掛かっていた。
膳が置かれた事で、少し揺れていた。
「これは、まさか・・・・ぷりん?」
「その通り。私も甥と同じく食道楽の所があってな。美味いぷりんを食べたくてな。料理人達に命じて作らせたのだ。何度も失敗したが、少し前から、ようやく人に出しても問題ない物が出来たのだ」
驚く李典に劉馥が胸を張りながら教えるのであった。
(そういえば、劉刺史は曹陳留侯の叔父上であったな。成程、美味しい物を食べるのも作るのも好きなのは、血筋か)
自慢する劉馥に納得しつつ、李典はプリンを見た。
「・・・・・・従父もぷりんが好きでした。からめるが掛かってない方でしたが」
李典はプリンを見て、そう零した。
そして、膳に置かれている匙を手に取り、一口掬い口に運んだ。
「・・・・・・美味い。口の中にトロリと溶けて、舌で簡単に押し潰せる柔らかさ。甘いのに、幾らでも食べれそうだ」
「それは良かった。ところで、お主の従父は会った事ないので知らぬが、どの様な御方であったのだ?」
「そうですな。従父は」
李典はプリンを食べつつ、劉馥に李乾の事を話した。
やがて、話す事を終えると劉馥は口を開いた。
「李乾殿は立派な方であったのだな」
「はい。本当にそう思います」
李典は心の底からそう思いつつ述べた。
「それほどの御方なのだから、討ち取った張遼に怨みを抱くのもむりはないな。だが、主命に逆らう事はせんだろうな?」
劉馥の問いかけに、李典は直ぐに答える事が出来なかった。
「怨みを捨てろとは言わぬ。だが、公と私を一緒にしてはならん」
「国の大事に私情を挟んではならないという事ですか?」
李典の問いに、劉馥は力強く頷いた。
「・・・・・・・確かにその通りですな。分かりました」
李典はそう呟いた後、窓から外を見た。
劉馥は李典の返事を聞けたので、もう話す事は終えたので一礼し部屋を後にした。
一人部屋に残った李典はまだ残っているプリンを匙で掬い掲げた。
「従父上。一時怨みを捨てて仇と共に戦う事をお許しを」
謝罪した後、李典は掬ったプリンを口に運び味わっていた。




