どうするべきか悩むな
劉馥の報告が曹操の元に届けられた十数日後。
孫権の元に朝廷からの使者が来た。
大広間に集まった孫権の家臣達の列の奥には、上座があり孫権がどっしりと座っていた。
重苦しい空気が漂う中、部屋の外にいる護衛の兵が朝廷の使者が来た事を告げた。
「通すがよい」
孫権の声が響き渡り、兵達の耳に届くと直ぐに使者が部屋に通された。
部屋に通された使者は従者と共に列の家臣達の視線を浴びつつ進み、孫権から少し離れた所で止まった。
そして、一礼すると孫権を見た。
「この度は謁見して頂き、誠にありがとうございます」
「うむ。使者殿。本日はどのような用事で参ったのだ?」
孫権の問いに、使者は直ぐに答えず従者の方を見た。
従者は無言で手に持っている巻物を渡すと、使者は巻物を受け取り広げた。
「昨日、揚州廬江郡の潜県にある山にいる盗賊の梅成が九江郡の各県を襲撃し多くの被害を齎した。揚州刺史であられる劉馥は梅成を討つ為に配下の雷薄を派遣した。だが、その途中で孫権の配下の襲撃を受けて、多くの兵を失った上に雷薄は矢に当たり治療の甲斐なく亡くなりました。朝廷はこの件を重く見て、真偽を問う為にわたしが参りました」
使者が巻物に書かれている事を述べるのを聞いて、孫権を含めた家臣達は耳を疑った。
「な、何だとっ⁉」
使者の話を聞いた孫権は驚きのあまり、肘置きを叩いてしまった。
「わたしは廬江郡を襲撃した盗賊を追撃していた淩統が追いついて攻撃して、撃退したと報告を受けているが。断じて、劉馥配下の雷薄を攻撃などしていない」
「ですが、雷薄と共に行動を共にしていた兵の報告ですと、孫の字が書かれた旗を掲げた集団の攻撃を受け、その集団を率いる者は『破賊校尉の凌操の子凌統が相手をする』と言い放ったと証言を聞いております」
使者が言い募るを聞いて、孫権は直ぐに謀られたと察した。
(おのれ、曹操め。自分の兵を盗賊に扮して襲撃していたのは、この為であったのか)
盗賊に扮した兵または将が負傷又は死亡した場合、こうして追及する。
そして、使者が次に何を言うのか直ぐに分かった。
「朝廷はこの件を解決する為に、問題の凌統を許昌に送りその罪に見合う刑を処すとの事です」
「なっ、罪に問うだと⁉」
使者の言葉を聞いて、孫権は顔を思いっきり顰めた。
家臣達も似たような顔をしていた。
今の朝廷は曹操の思うがままであった。
其処に凌統を送り込めば、どんな目に遭うのか火を見るよりも明らかであった。
「返答は如何に?」
使者の問いに、孫権は直ぐに返答できなかった。
とりあえず、考える時間が欲しいと言い返答を伸ばした。
孫権は使者の事は魯粛に任せて、部屋を後にした。
部屋を後にした孫権は自室に戻ると、席に座った。
そして、天井を見上げ溜息を吐いた。
「・・・・・・これはどうしたものか」
孫権の呟き頭を悩ませていた。
其処に、部屋の外にいる兵が程普が参ったと告げた。
孫権は通す様に命じると、直ぐに程普が入って来た。
「殿。お疲れと思いましたが、どうしても言いたい事があり参りました」
「程普。話さなくても分かるが、恐らく先ほどの件であろう」
孫権が尋ねると、程普はその通りと頷いた。
「凌統は殿に忠実な家臣にございます。もし許昌に送れば、家臣達の信望を失います。ですが、もし送るのを拒否すれば、曹操と対立を回避する事は出来なくなります」
「そうだな・・・・・・」
孫権は分かっているという顔をしつつ返事をした。
「そもそも、潜県にある潜山には確かに梅成という盗賊がおりますが、あの者は我らに大人しく従っております。あの者が我らに何の断りも無く九江郡を攻める事はしません。まして、廬江郡や丹陽郡を襲撃するなどあり得ません」
「分かっておる。ただの口実であろう」
「はい。ですので、殿」
程普は孫権の目をジッと見た。
「ご決断を。戦うか、それとも家臣を許昌に送り御家の安泰をはかるかを」
「・・・・・・程普。お前は、わたしがどのような決断をしても付いてきてくれるか」
「無論」
程普が即答するのを聞いて、孫権は少しだけ安堵で来た。
そして、使者に明日返事をする事と、その場には家臣達全員集まる様にと程普に命じるのであった。




