では、お望みどおりに
数十日後。
劉備の追撃により得た戦利品を持った曹純軍が許昌に到着した。
沿道には、多くの戦利品を積んだ馬車を見て、集まった人々は歓声をあげていた。
そして、曹純は献帝の元に赴き、此度の戦いの結果を報告し称えられていた。
その頃。
曹昂は自分の屋敷で徐庶と会っていた。
「殿。この者が友人の徐庶にございます」
諸葛亮が紹介すると、徐庶は深く頭を下げた。
「徐庶。字を元直と申します」
自己紹介する徐庶を見て曹昂は頷いていた。
「話は既に聞いている。よくぞ、わたしの元に来てくれた」
「はっ。お仕えする前に一つだけお願いがございます」
徐庶が顔を上げて、曹昂の目をジッと見た。
「お願い? それはいったいどんな事だ?」
曹昂が尋ねると、徐庶は呼吸を整えた。
「・・・わたしは劉皇叔に仕えておりました。皇叔は世間では色々と言われておりますが、決して悪人ではありません」
「まぁ、そうかもな」
曹昂としては劉備は悪党というよりも時世の流れに乗った豪傑という印象であった。
(人を引き付ける魅力があるから質が悪いんだよな。それが無かったら劉備とはいえないか)
曹昂がそんな事を思っていると知らない徐庶は話を続けた。
「皇叔はわたしが仕えた主です。御傍を離れる時に誓いました。我、決して策を献じずと」
「ふむ。つまり、貴殿はわたしに仕えても、何の献策もしないという事か?」
「はい。その通りにございます」
徐庶がはっきりと断言するのを聞いて、諸葛亮達は不安そうな顔をしていた。
司馬懿は不満なのか、目を細めていた。
「・・・・・・ふむ。献策はしないか。一応聞くが与えられた仕事はきちんとするのか」
「はい。仕えている以上、それはいたします」
徐庶の返事を聞いて、曹昂は分かったとばかりに頷いた。
「では、馬車馬の如く働かせても良いという事だな」
「は、はい。その通りです」
曹昂が確認の為に尋ねると、徐庶が返事をした。
それを聞いて、曹昂は目を光らせた。
「では、陳留に着いたら、適当な役職を与える。そして、働いて働いて働いて働いて貰うとしよう」
曹昂の言葉を聞いて、徐庶は内心でどれだけ働かせるつもりなのだろうと思った。
そんな、徐庶の心を読んだ様に、曹昂が呟いた。
「まぁ、策を献じてくれるというのであれば、其処まで働く事はしなくてもいいがな」
その呟きを聞いて、徐庶は身体を震わせた。
これは試されていると分かったのか、頭を下げた。
「男子の一言は金鉄の如しと申します。一度口から出た言葉を曲げては、君子としても男としてもならぬ事です。ですので、働いて働いて働いて働いて働いて、わたしなりの忠義をお見せします」
「それは楽しみだ」
徐庶の返事を聞いて、曹昂は面白いとばかりに笑っていた。
話す事を終えると、徐庶は諸葛亮達と共に部屋を出て行った。
司馬懿だけ部屋に残るのを見て、曹昂が話しかけた。
「司馬懿。何か気になる事があるのか?」
「はっ。前々から話には聞いておりましたが、本当に献策もしないのに働かせるのですか?」
「本人がそう言っているのだから、働かせようではないか。無理だったら無理って言うだろう」
「その前に潰れませんか?」
司馬懿は徐庶が音を上げる前に、過労で倒れないかというと曹昂は問題ないと手を振った。
「潰れたら、其処までの存在だったというだけの事だ」
曹昂がそう言うのを聞いて、司馬懿も成程と頷いた。
「殿がそういう考えであれば、わたしは何も言いません。ただ、他の者達はどう思うかは分かりません」
「其処は、徐庶の働きぶりを見て納得してもらうとしよう」
司馬懿はもう話す事は無いとばかりに、一礼し部屋を出て行った。
部屋に曹昂だけになると、部屋の隅に居た愛犬の哮天が無言で近づいてきた。
相手をしてとじゃれてくるので、曹昂は相手をするのであった。




