悩んだけど
曹昂が許昌にて、報告を受けている頃。
荊州南郡襄陽。
城内にある馬家の屋敷。
その屋敷にある一室で、男性が頭を抱えていた。
年齢は十代後半で、小ぶりな顔で玉の様に丸い目を持っていた。
身長は平均的であったが、目立っているのが眉毛に白い物が混じっている所であった。
この者の名は馬良と言い、襄陽馬家の四男であった。
長男の馬順は劉備に従い、次男の馬統は曹昂に従い、三男の馬安仁は旅に出ていた。
その為、四男である馬良が家の全てを取り仕切っていた。
そんな馬良の元に、文が届けられた。
それは、夷陵県で暮らしている名士達が連名で送って来た物であった。
書かれている内容は長男の馬順に言われて、船を用意した金を払ってほしいと書かれていた。
「・・・・・・」
文を読んだ馬良は悩んでいた。
最初、文を読んで兄が無事という事が分かり安堵していた。
劉備に仕え、各地を流転しているので無事なのかどうか心配していたので、文により生存している事が分かった。
次に思ったのは、船の代金であった。
夷陵県で船を用意したので、水路で益州か交州のどちらかに逃げたのだと分かった。
それは問題ないのだが、問題なのは船の代金であった。
文に書かれている金額は倉に納められている財を使えば問題なく払える。
だが、船の代金を払うという事は、荊州を治める曹操に反感を買う事になるのと同じであった。
だからと言って払えないとなれば、頼って来た親族を見捨てる事になるので、それはそれで問題であった。
「どうしたものか・・・・・・」
馬良は頭を抱えていた。
其処に、誰かが部屋の傍まで来た。
「兄上。よろしいでしょうか?」
「謖か。良いぞ」
声を聞いて、弟だと分かった馬良は入る事を認めると、その者は入って来た。
年齢は十代半ばで、幼さが残っている丸顔に切れ目をもっていた。
この者は馬良の弟で名を馬謖と言う。
「兄上。浮かない顔をしておりますが、どうしました?」
「うむ。少々困った事が起きてな」
馬良は息を吐きながら、どうしたものかと考えていた。
「兄上。一人で考えても答えが出ないのであれば、誰かに相談するのも良いと思います。兄上達に比べれば、鈍智しかないわたしですが、話を聞く事は出来ます」
馬良の顔を見て、相当悩んでいるなと思った馬謖は自分の胸に手を当てながら述べた。
「お前にか・・・・・・う~む」
馬良は天井を見上げつつ、どうしたものかなと思案した。
暫し思案した後、一人で考えても答えが無いので、此処は相談するのも一つの手かと思い話す事にした。
(それに身内びいきではあるが、弟の才は優れているからな)
小さい頃から馬謖を見て来た馬良から見て、才能はあると見込んでいた。
同時に頭が固いと分かっていたが、其処は自分が教えるなりして直していけばいいと思っていた。
馬良はそう決めると、馬順の文について話した。
「成程。兄上、此処は船の代金を払うのが良いと思います」
話を聞き終えた馬謖が直ぐにそう答えた。
「何故だ?」
「払わねば、伯常兄上への悌を欠ける行いとなります。その様な事をすれば、兄弟間の仲に罅が入るかもしれません」
馬謖がそう答えるのを聞いて、馬良は確かにと頷いた。
「だが、払えば曹操に睨まれる事になる。荊州の襄陽には曹操の親族である曹仁が駐屯している。もし、曹仁に睨まれれば、我が家は破滅するかもしれんぞ」
「如何に曹操が強大と言えど、荊州は支配下に入って日が浅いです。長沙郡の反乱が起きたのが、その証拠です。まだ完全に支配下に入っていないからこそ起きた事です」
「ふむ。確かにそうかもしれん」
「我が馬家は襄陽だけではなく、荊州でも名家として知られている家です。如何に逆賊に協力したからと言って、簡単に取り潰せば荊州に居る名士達の反感を買う事になります。ですので、直ぐに取り潰すという事はしないでしょう」
「そうだな。それに、家が取り潰される事になった際は、仲常兄上に相談して取りなして貰うという方法もあるな」
「そうです。仲常兄上は曹操の長子である曹昂に仕えております。曹仁も曹昂の言葉には逆らう事は出来ぬでしょう」
「うむ。その通りだ。曹仁に何か言われたら、その時は仲常兄上に相談するとしよう。万が一それが出来ぬ時は、わたしが曹仁の元に赴き弁明するとしよう」
「もし、失敗した時は、その時は命がけで復讐いたします」
「ははは、伍子胥のまねか? まぁ、そうならない様に頑張るとしよう」
話をして決めた馬良は直ぐに財を用意して、夷陵県で暮らしている名士達に送った。
数日後。
曹仁が襄陽に帰還すると、馬良に自分の元に出頭する様にと使者が来た。




